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加納新太

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2021年2月10日 (水)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)

『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示されていた、ドラクエ3の制作資料から、(製品版とは違う)制作初期の構想を読み解いていこうというシリーズです。
 今回は第三回です。

 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)
 第二回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)

 

 今回はバハラタ周辺とランシールを取り上げます。おもに「賢者」の話になります。

 ※注:「ドラクエ10」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 小説版、外伝等は参照しておりません。

 

■いっけん、製品版どおりなんだけど……


 今回も例によって、イベント会場で私がうつしとってきた手書きのメモを掲示しますので、それを見ながらお読みいただくと良いと思います。

 この記事でいくつか掲示する、白地図に書き込みをしたようなものは何かというと、堀井雄二さんがドラクエ3の構想を記した手書きのマップです。

 ワールドマップを描き、そこに町やらダンジョンを描き加え、そこで起こる事件や、手に入る重要アイテムをメモしたものです。

 堀井さんはドラクエを作るとき、この作業を最初期に行うそうです。なので、「堀井さんが最初に構想した内容が、そのままダイレクトに出ている」というのがこの資料です。

 最初期の構想なので、製品版との間に、いくつか違いがあります。その違いをみることで、「堀井さんは当初こういうことをドラクエ3でやろうとしていたのか」が推測できるというわけです。

 当記事に掲示される画像はすべて、『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示された制作資料を、私が手書きで部分的に再現したものです。画像で示されている内容は、株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者の著作物です(アーマープロジェクトも権利を持っているはず)。著作権法第32条に基づき、研究を目的とする引用としてこれらを掲示します。展示会場で書き写したため、写し間違いが生じている可能性があります。これらの画像の転載・改変・再配布を禁じます。孫引きも遠慮してください。

 地図記号の内訳はこうです。

 回 城(K)
 ◎ 町(M)
 ○ 村(V)
 ☆ ほこら(S)
 I 塔(T)
 ■ 洞くつ(D)


 初期構想におけるアジア圏をみていきましょう。

(初期設定資料バハラタ・ダーマ周辺地図・抜粋)

Img053b

 さて、まずはインドと推定される位置に、町◎M6があり、「黒こしょう」と書いてあります。その上に洞くつ■D8があり、「とらわれ娘」と書いてあります。

 これは製品版とまったく同じ、バハラタの町カンダタのアジトです。盗賊カンダタにさらわれた娘を助け出してバハラタに連れ帰ると、黒こしょうを売ってもらえるようになる。黒こしょうをポルトガの王様に献上すると、船が手に入る……という流れです。

「盗賊にさらわれた娘を助け出して、黒こしょうの提供を受ける」というクエストは、制作最初期から構想されており、製品版でもその通りに実装されたわけですね。

 次に、視線を右に動かして日本列島。V9の位置にジパングの村があり、その隣にダンジョンD9が置かれています。これも製品版のとおりです。

 D9に「くさなぎのけん」と書いてありますので、「ジパングでやまたのおろち退治をする」というクエストも最初期からすでに存在していたと見なせます。

 われわれがダーマ神殿として知っている施設の位置にお城、回K7「転職の寺院」と書いてあります。ダーマ神殿は転職のための施設なのでこれも製品版と一致。

 その右上に塔T2があり「さとりのしょ」と書いてあります。製品版ではここにガルナの塔があり、さとりのしょが置かれていますから、これも製品版のとおりです。

 ダーマ神殿とガルナの塔は、チベットと推定される場所に位置しており、製品版のさとりのしょ(悟りの書)は上位職「賢者」になるためのアイテムです。
 秘境におもむき、踏破困難な塔にのぼり、「より高みをめざすのだ」という意思を示した者に、賢者への道がひらかれる……というストーリーになっています。

 なんだ、この画像に載っている要素は、ぜんぶが製品版どおりじゃないか、ということになるのですが。

 じつは別の資料とつきあわせると、違う意味が生じてくるのです。


■さとりの書(僧侶のみ使用可能)

 ドラクエミュージアムの展示ブースには、堀井雄二さんの手書きによる、アイテムリストも展示されていました。これもごく初期に書かれたと推定されるものです。

「こういう効果を発揮するアイテムを必要とするので、実装可能なようにシステムをつくってね」とプログラマに伝えるためのものかなと思います。

 そのリストの一部分の抜粋ですが、こんなことが書かれていました。

 

Dq_satori_b

 

「道」は「道具」の意味です。武器には「武」、防具には「防」と書かれています。

 ゆ せ ま そ
 ぶ け し あ

 とあるのは、それぞれ「ゆ=勇者」「せ=戦士」「ま=魔法使い」「そ=僧侶」「ぶ=武闘家」「け=賢者」「し=商人」「あ=あそび人」を意味する記号です。

 この記号にマルがついている職業だけが、このアイテムを使用(装備)できる、という仕様を指示したものです。

 たとえばラーのかがみの欄を見ると、全職業にマルがついています。パーティーの誰が使用しても効果を発揮する、ということですね。
(効果欄の「猫馬の呪いをとく」が気になった方は、「前回」をご覧下さい)

 このリスト、「さとりのしょ」の欄を見て、ビックリしたのです。

 まず「そ」にだけマルがついている。つまり「僧侶のみが使用可能」という仕様が明記されているのです。そのうえで、

「最大MPが10~15アップ T2にある」

 という効果が書かれている(T2はガルナの塔)。

 前述のとおり、製品版のさとりのしょは、「パーティーメンバーの誰か一人を賢者に転職させる」という効果です。

 ところが初期構想ではそうではなかった。「僧侶の最大MPをアップさせる」というアイテムだったのです。

 僧侶のためのアイテムがガルナの塔に置いてあるのですから、初期構想でのガルナの塔は「僧侶のためのクエスト」だったってことになります。

 ガルナの塔はチベットとおぼしき位置にあります。
 秘境チベットはチベット仏教の聖地

 だからストーリーとしてはこんな感じになります。

 アリアハンで見習い僧侶をやっていた人物が、「自己をもっと研鑽しよう」という志をたて、とある若者(勇者)の旅のお供をする決心をした。

 広い世界を旅してまわるうち、世界の果ての山奥に、聖職者たちの聖地をみつけた。

 修行して、より高い存在になりたいと思った僧侶は、山をのぼり、塔をのぼり、その塔に渡しかけられた細い一本のロープを渡り、悟りの奥義が書かれた書物を手にいれた。

 そして彼(彼女)は、「僧侶としての」より高い能力を手に入れたのである……。

 この、僧侶と「さとりのしょ」をめぐる話、まだまだ続きます。


■賢者の石ランシールに眠る

 製品版のドラクエ3には、オーストラリア(だと思われる)位置にランシールの町があり、その中にランシール神殿があります。

 製品版のランシール神殿からいける「地球のへそ」という洞くつは、パーティーメンバーから離れて一人で探索しなければならないルールになっており、その奥底にはブルーオーブが眠っています。

 初期構想ではこの地方はこうなっていました。

(初期設定資料ランシール周辺地図・抜粋)

Img054b


 初期制作資料にみえるオーストラリア大陸には、ランシールの町はありませんが、「地球のへそ」に相当するダンジョン(■D10)はあります。

 そこには、入手できるアイテムとして(なんと)「けんじゃの石」と書いてあります。そして説明書きとして「誰がいくかで見つけるものがちがう」とあります。

「誰がいくかで」と書いてあるのですから、この初期段階ですでに「当ダンジョンには一人でしか突入できない」という構想はあったことになります。

 この初期資料に書いてあることを素直に読めば以下のようになります。

 ドラクエ3は、いろんな職業の仲間をひきつれて旅するゲーム。一人でしか入れない洞くつに、どの職業の仲間をつっこむかで、見つかるアイテムがちがうようになっている。

 たとえば戦士で行けばいかつい鎧が手に入るのかもしれないし、魔法使いで行けば賢さの種が手に入るのかもしれない。

 その中で、とある職業を選んで突入した場合、最奥部の宝箱に入っているものは「けんじゃの石」である。

 と、こういうことでしょう。


■賢者になるための「クエスト」

 ここからが私の想像。

 まず第一に、この初期設定において、けんじゃの石を見つけることができる職業は「僧侶」だと思います。

 第二に、この初期設定における、けんじゃの石の使用効果は、「賢者への転職が可能になる」だと思うのです。

 そう思う理由を述べます。

 製品版の「けんじゃのいし」は、使うと無限にベホマラーが打てるチートレベルのアイテムでした。ラストダンジョンに置いてあり、事実上、ラスボス戦のお助けアイテムとなっています。

 こんな強力なアイテムが、上の世界の中盤で手に入ってしまってはまずい。
 だから、初期資料に(ここ、ランシールに)書かれている「けんじゃの石」は、ベホマラー効果のアイテムであったはずがない、と私は考えるのです。

 別の効果を発揮するアイテムとして、想定されていたはずです。

 前述のとおり、ガルナの塔で手に入る「さとりのしょ」は、製品版では「賢者への転職を可能とするアイテム」なのですが、初期設定時には「僧侶の能力をちょっと底上げするイベントアイテム」にすぎませんでした。
 初期構想では、ガルナの塔に登っても賢者にはなれないのです。

 では、初期構想では、「何を手に入れたら」賢者になることができる想定だったのでしょうか。

 ひょっとしたら、何も手に入れなくとも、ダーマ神殿に行くだけで賢者になれる……んだったのかもしれませんが、「僧侶をいくぶん強くする」ために専用ダンジョンとアイテムが用意されているのに、鳴り物入りの上位職・賢者になるためには何も用意されていない、というのは、いまひとつ間尺に合いません。何かあったほうが自然なのです。

 賢者になる……?

 よく考えてみると、けんじゃのいしを使うとなぜ全体回復の効果があるのでしょう。私はいままで「とにかくそういうものらしい」で納得していました。もう「とにかくそう」くらいしかいいようがないでしょう。

 でも「けんじゃのいしをつかうとけんじゃになれる」だったらどうでしょう。これはダイレクトに納得させる力があります。だって「けんじゃ」って書いてあるんだもんよ。


■地球のへそに僧侶で潜れ

 地球のへそに僧侶で潜った場合にのみ、「賢者になることができるアイテム・けんじゃの石」が入手できる想定だったのだろうと私は考えます。それはなぜか。

 初期構想時の地球のへその、ダンジョンとしての規模が、製品版と同じくらい広くて深いものだったと想定しましょう。

 そんなダンジョンを単騎で踏破できるのは、回復呪文を使用できる職業だけだろうと推定できます。ぶっちゃけ、勇者か僧侶でないとまともな踏破は不可能でしょう。

 戦士や魔法使いでクリアするというのは、ラスボス撃破後くらいのレベルになってから、ちからの盾か何かを持ち込んでの話になりそうだ。

 勇者が単騎で挑み、けんじゃの石を持ち帰るんじゃダメなのか?
 ダメだと思います。
 なぜなら勇者は転職できないからです。転職できない以上、賢者にもなれません。

 このダンジョンは、「一人で苦難に挑み、その当人にふさわしい宝を持ち帰る」という意味を持ったクエストだと想定できます。

「勇者がけんじゃの石を持ち帰り、誰か適当なパーティーメンバーを賢者にする」のでは、勇者が味わった苦難の成果に、別の誰かがフリーライドするというかたちになってしまいます。

 はっきりいってしまえば、「僧侶が試練を受け、そのごほうびとして、僧侶が賢者に転職する」。このクエストはそういう想定で組まれていると考えます。

 ドラクエ3は、初見プレイを僧侶ぬきで進めるのは極めて困難なゲームです。ほとんど、たいてい、大多数のプレイヤーは、最低1人の僧侶をパーティーに加えているはずだ、と制作側は想定可能なのです。

 初見プレイで合理的にプレイしていれば、プレイヤーは、僧侶か、魔法使いか、そのどちらかを賢者にするはずだと想定できます(あえて戦士を賢者に、みたいなのは、仕様がわかった二巡目からの話でしょう)。
 魔法使いがいないパーティーは初見プレイヤーでも普通にありえます。でも、僧侶がいない初見プレイは考慮しなくてもよいほど少ないので、僧侶を焦点としたクエストはだんぜん実装しやすい。

 さらにいうと、ガルナの塔の「さとりのしょクエスト」との二段構えになる。


■光だけでなく闇をも知ること

 ドラクエ3における「賢者」は、僧侶の治癒呪文と、魔法使いの攻撃呪文の両方を、フルサイズで使用できる職業です。下位二職の、ほぼ上位互換です。

 神の力も持ち、魔の力も持つ。治癒破壊をひとつの身で同時にきわめる。
 それは「光と闇」「天上と、地の底」という言い換えが可能だと思うのです。

 賢者になろうという者は、その両方の世界を知っていなければならない……という思想がありそうな気がする。
 賢者は、天界の光を呼び寄せて人を癒やすことを知っていなければならないし、地の底によどむ暗い破壊衝動も知っていなければならない。

 いま……(つまり初期構想のストーリーでは)その人物は、山脈の秘境にある聖職者の聖地で、天界そのものに届きそうな高い塔に登り、光を極めるという試練を経た(さとりのしょの獲得)。天の光を知るというクエストをクリアした。

 でもそれだけでは、すばらしい僧侶にはなれても、賢者にはなれないのだ(という思想がありそうだ)。
 賢者であるためには、天の光だけでなく、地の底によどむ闇の力も知らなければならない。なぜなら、世界は、そして人間は、その両極でできているのだからだ。

 だから彼(彼女)は、たった一人で深くて暗い地の底、地球のへそという迷宮に潜り、闇を見据えてこなければならない。光の極まるところを見て、闇の極まるところを見てきた。その両方を知る人物こそが「かしこき者」=賢者にふさわしい。

 ……というような「ストーリー」が構想されていたとしたら、これは気持ちよく整合するよね、と私には感じられるので、そういう仮説を提案するわけなんです。


■ドルマ系とイオ系

 ドラクエ7までの賢者は、上述のドラクエ3と同様、「僧侶の呪文と魔法使いの呪文を両方使いこなす」というコンセプトです。ここでいう魔法使いの呪文とは、イオ系(光属性)やヒャド系(氷属性)などです。

 ドラクエ10やドラクエ9では(と、この順番なのは、企画が立ち上がったのがこの順序だから)ここに変更が加わっています。
「回復呪文と攻撃呪文を使う」というコンセプトは同様なのですが、魔法使いが使うメラ(炎)・ギラ(炎)・ヒャド(氷)系呪文が使えなくなりました。

 そのかわり、攻撃呪文として「ドルマ系(闇属性)」が新設され、「賢者はドルマ(闇)系とイオ(光)系を得意とする」という新設定になりました。

 これはもう文字通りの「光と闇を同時に知る者」という表現です。ドラクエ10の賢者転職クエストでは、「心の中に闇をかかえていない者は決して賢者になれない」というそのものズバリのストーリーが描かれます。

「賢者というのは、治癒と破壊、光と闇を同時に知る者だ」
 という思想が、ドラクエ3のころから、伏流水のようにドラクエシリーズにずっと隠れていたんじゃないかと思うのです。
(そういえば3の魔法使い最強呪文はメラ「ゾーマ」。「闇そのものである存在」の名前が入っている)

 そしてドラクエ10と9のディレクターを務めた藤澤仁さんが、そういう思想を、師匠の堀井さんから聞いていたとしても全然おかしくない。
 時おりしも、ドラクエモンスターズ・ジョーカーで、モンスター専用呪文としてドルマ系というのが導入された。
「堀井さん、この闇系の呪文というのを、賢者に導入してはどうでしょうか」
 ひょっとしたらそんな提案をしたかもしれません。
(言い出したのは堀井さんであってもかまいません)


■フラクタル構造(どうしてボツになったか)

 以上のような仮説をよしとする場合、ドラクエ3の中で、まったく同じ構造がもう一度リフレインされます。

「天界にいちばん近い山の上にある竜の女王の城に行き、光の玉を手に入れ、もっとも闇が深いところにひそむ魔王のところに持って行く」

 というのが、ドラクエ3の最終的なクエストです。これは上述の「光に触れ、闇にも触れる」という「賢者転職クエスト仮説」とまったく同型です。

 ドラクエ3の序中盤でこの構造があらわれ、ドラクエ3全体においても、この構造でしめくくられるのですから、いわゆるフラクタル構造(部分と全体が同じかたちをしているもの)になり、美しいのです。

 そしてそれ自体が「この構想がボツになった理由」だと考えます。

 容量が足りなくて、イベントを大幅に削ろうよ、となったとき、「光と闇の両方を極めよう」という意味のイベントがふたつあるから、ひとつ削ろう、という話になるのは自然です。

 また、僧侶にスポットが当たりすぎる、というバランス感覚もありそうです。「この物語が誰のお話なのかが、ぶれるよね」という判断がなされていそう。


■僧侶しか賢者になれないのか?

 ……と、以上のようなことが、ドラクエ3の「フィールドマップ・ラフコンテ」から私がむやみに想像をめぐらした仮説です。

 こういう疑問が生じそうです。「では、初期構想のドラクエ3では、僧侶しか賢者になれない想定だったのか?」。

 それについては、
「僧侶でないと転職アイテム《けんじゃの石》は入手できないが、入手したあとは、誰でも賢者になれる仕様だっただろう」
 というのが、私の考えです。

(資料の初期アイテムリストに、けんじゃの石が載っていたら、そういうことも一発でわかったでしょうが、あいにくミュージアムにはそのページは掲示されてなかった)

 ストーリーラインを追っていけば、あきらかに、僧侶が賢者に転職するのがふさわしいと感じるように作られている
 が、ゲームの仕様としては、僧侶以外でも賢者になれる。

 ……というつくりになっているのがドラクエっぽいよね、と感じるのです。

 たとえばドラクエ2の「みずのはごろも」。機織りの達人ドン・モハメはみずのはごろもを「ムーンブルクの王女が着るのがよかろう」といって手渡してくれるのですが(アイテムのイメージとしても、それがふさわしいと感じられるのですが)、サマルトリアの王子も、まったく問題なく着用可能です。

 また、ドラクエ5の嫁選び。ストーリーラインを追っていけば、誰がどう見ても、「ビアンカを嫁にするのが物語としてふさわしい」といえるものになっています。
 でも、フローラを嫁に選ぶことができますし、それで何の問題もなくストーリーは展開していきます。

「ストーリーとしては、明らかにこっちを選ぶのが正しいように語られているが、そうでないほうをあえて選んでも全然問題ない」
 という作り方をドラクエは好むのです。

 なので、この記事の仮説が正しい場合、「勇者以外の誰でも賢者に転職可能」という仕様が選択されただろうと考えます。

 でもそうだとすると、
「勇者ではけんじゃの石を持ち帰れない、なぜなら試練のフリーライドが発生するから」
 という議論を経ているのに、僧侶が持ち帰った賢者の石を他のパーティーメンバーがフリーライドするのはOKだというのか? 矛盾してるじゃないか。
 という話になりますよね。

 それについてはこう思うのです。「そのくらいの矛盾はべつにあってもいいんじゃないかなあ」
 ほかの大部分が、わりときれいに説明できているので、多少合わないところがあっても、まあいいかっていう感じです。こういう「多少の合わない部分」が許せないせいで、せっかくの魅力的な仮説を、自分で捨てちゃうっていう人が多いような気がするんですね。

「たいしたことない部分をいちいち合わせないほうが、全体の魅力は増えることが多い」という経験則を私は持っていますので、みなさんもそのくらいに大ざっぱにとらえてみてはどうでしょう。

 そんな感じでご機嫌をうかがっておきますね。本日(この記事の更新日)、ドラクエ3の発売33周年記念日だそうです。33年たってもまだいくらでも語れるのだから凄い。

 

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コメント

いつもドラクエがますます楽しくなるすてきな考察ありがとうございます。
天と地の構図は天空シリーズでも繰り返されていますし、ドラクエ11の劇中の伝説において、勇者と賢者がフィーチャーされていたのも、本稿のような勇者と賢者は特別、みたいなお考えが下敷きになってたのかもしれませんね。
別世界の話であっても、ドラクエの考察はあれこれ繋がってきて、本当に味わい深い作品だなと思います。

とても興味深い考察と仮説ですね。初期段階の構想から生まれる別の世界への想像を楽しむことの面白さを,いつもありがとうございます。

「僧侶でないと転職アイテム《けんじゃの石》は入手できないが、入手したあとは、誰でも賢者になれる仕様だっただろう」とする仮説は,まさにその通りではと共感します。ただその後の,「僧侶が持ち帰った賢者の石を他のパーティーメンバーがフリーライドする」のは矛盾,という点については,むしろ「僧侶が得た物であるからこそ,他のメンバーにも分け与えられるようになる」という初期案を構想していた…説も考えられるのでは,と思いました。

僧侶という職業の特徴・本質は,他者を回復させる,いわば「力を与える」ことにありますよね。ゆえに,僧侶が持ち帰った場合は,その職業としての本質ゆえに,他のメンバーにも自分の得た悟りの力をわけ与えることができる…というように考えてみるのは無理がないようにも思いましたが,どうでしょう。光を知り,闇を知り,そして僧侶としての原点に立ち返る,と言いますか。なにせ,さとりは「ひらく」ものですし…

一方で,仮に魔法使いが洞窟の奥までたどり着いたときに得られる報酬は,まさに製品版の効果を持つけんじゃの石だったのではと思い至りました。ゲームバランス的には魔法使い単独でゴールするのは困難を極めますから,それがもし達成できたなら,その時点で破格の性能を持つ無限ベホマラーを得ることができてもおかしくはないかな,と思ったり。魔の力を求め,闇を突き詰めた先で,癒しの力を得るというのは,錬金術の発展史とも符合していて,中世世界を舞台とするドラクエ3の世界観にも合いそうな気も。

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