フォト

加納新太

  • 職業は著述家・作家・脚本家。自称では「物語探偵」(narrative detective)。

Twitter

カノウの本・既刊

  • : 君の名は。 Another Side:Earthbound

    君の名は。 Another Side:Earthbound
    新海誠監督の映画『君の名は。』の小説版です。新海監督執筆の『小説 君の名は。』が、映画と同じストーリーラインを追うのに対し、こちらでは、短編集形式で登場人物を掘り下げをしています。「これを読むと映画の内容がすんなり理解できる」と角川の玄人衆から高評価を受けました。リアル書店では見つけにくい本のようなので、取り寄せ等の対処をお勧めします。

  • : いなり、こんこん、恋いろは。

    いなり、こんこん、恋いろは。
    月刊ヤングエース(角川書店)連載中の漫画『いなり、こんこん、恋いろは。』(よしだもろへ)の小説化です。この作品に惚れ込みました。表紙はよしだ先生に描いていただけました。幸せです。

  • : アクエリアンエイジ 始まりの地球

    アクエリアンエイジ 始まりの地球
    カードゲーム「アクエリアンエイジ」のマンガ版です。短編形式で6編収録されています。月刊コンプティークで連載しました。全編の脚本を書いています。

  • : シャイニング・ブレイド 剣士たちの間奏曲

    シャイニング・ブレイド 剣士たちの間奏曲
    RPG「シャイニング・ブレイド」の小説版です。サイドストーリーを集めた短編集です。主人公レイジとヒロイン・ローゼリンデが初めて出会うエピソードも収録されています。

  • : アクエリアンエイジ フラグメンツ

    アクエリアンエイジ フラグメンツ
    トレーディングカードゲーム「アクエリアンエイジ」の小説版です。公式Webサイトでの連載に加筆修正したものです。

  • : 小説 劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH

    小説 劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH
    週刊少年サンデーで連載中、畑健二郎作「ハヤテのごとく!」が劇場アニメになりました。その小説版です。私はこの漫画が大好きで、書けて幸せでした。

  • : 秒速5センチメートル one more side

    秒速5センチメートル one more side
    映画『秒速5センチメートル』のノベライズです。新海監督版の内容を逆サイドから描いた物語になっています。第1話がアカリ視点、第2話がタカキ視点です。第3話は交互に入れ替わって展開します。

  • : シャイニング・ハーツ やさしいパンの薫る島

    シャイニング・ハーツ やさしいパンの薫る島
    RPG「シャイニング・ハーツ」の小説版です。原作の物語のサイドストーリー的な位置づけです。3人のヒロインは全員登場し、ゲームでは出番の少なかった海賊ミストラルも活躍します。牧歌的でやさしく、すべてが満ちたりた世界を書こうと思いました。満足しています。

  • : fortissimo//Ein wichtiges recollection

    fortissimo//Ein wichtiges recollection
    シナリオを担当しました。PCゲーム「fortissimo」のコミック版です。本編のサイドストーリーです。原作:La'cryma、漫画:こもだ。

  • : 世界めいわく劇場スペシャル

    世界めいわく劇場スペシャル
    全編ギャグのドラマCDです。シナリオを書きました。こういうのも書けます、というかこっちが得意技です。守銭奴の人魚姫、腐女子のマッチ売り少女、百合ハーレム状態の白雪姫、全ての言動が破滅的なシンデレラ、などが世界の名作童話をむちゃくちゃに解体します。役者さんにはほとんど無茶振りともいえる「一人最大9役」を演じていただいています。

  • : シャイニング・ウィンド -アナザーリンク- 鬼封じの剣士

    シャイニング・ウィンド -アナザーリンク- 鬼封じの剣士
    RPG「シャイニング・ウィンド」の小説版です。ゲーム本編のノベライズではなく、主人公たちの過去の物語を書きました。自分に伝奇小説が書けるか、ジェットコースター型の展開が書けるか、というのが、個人的なチャレンジでした。ありがたいことに、かなり好評を博しています。

  • : シャイニング・ティアーズ to ウィンド 姫君たちの冒険

    シャイニング・ティアーズ to ウィンド 姫君たちの冒険
    RPG「シャイニング・ティアーズ」「シャイニング・ウィンド」の短編集です。基本的に、原作の物語がスタートする前を舞台にしています。いわゆるプレ・ストーリーです。エルウィン、マオ、ヴォルグ、ブランネージュ、クララクランが登場します。

  • : ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる

    ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる
    原作/新海誠。新海監督のデビュー作を小説化したものです。少女視点の「あいのことば」、少年視点の「ほしをこえる」の二部構成となっています。表紙はブルーの箔押しで、美しいデザインです。『雲のむこう、約束の場所』と並べてみると、帯込みで対比的になるようにデザインされています。

  • : シャイニング・ティアーズ 神竜の剣

    シャイニング・ティアーズ 神竜の剣
    RPG『シャイニング・ティアーズ』の小説版、続編です。単独の本としても読めるつくりになっています。作者としては、前作よりも納得のいく出来です。勇ましい物語です。

  • : 雲のむこう、約束の場所

    雲のむこう、約束の場所
    原作/新海誠。劇場アニメーション映画『雲のむこう、約束の場所』を小説化したものです。装丁がとても美しく、それで手に取った方も多いようです。

  • : シャイニング・ティアーズ 双竜の騎士

    シャイニング・ティアーズ 双竜の騎士
    セガのRPG『シャイニング・ティアーズ』をもとにしたヒロイック・ファンタジィ小説です。ノベライズです。

  • : タウンメモリー

    タウンメモリー
    架空の海辺の街(モデルは藤沢あたり)に暮らす女子高生が主人公の日常小説です。題材的に、少し恥ずかしいなという気分もありますが、気に入っている作品です。

  • : アクエリアンエイジ Girls a War War!

    アクエリアンエイジ Girls a War War!
    マンガです。トレーディングカードゲーム『アクエリアンエイジ』のキャラクターが毎話ドタバタ暴れて大変なことになります。もとはゲームの遊び方をチュートリアルするマンガだったのですが、いつのまにか趣旨が変わっていました。シナリオを担当しました。絵は『少年陰陽師』のあさぎ桜さん。

  • : 月姫 アンソロジーノベル〈2〉

    月姫 アンソロジーノベル〈2〉
    PCゲーム『月姫』を題材にしたアンソロジー短編集、第2巻です。第二話『天へと至る梯子』を執筆しています。琥珀が主人公です。

  • : 月姫 アンソロジーノベル〈1〉

    月姫 アンソロジーノベル〈1〉
    PCゲーム『月姫』を題材にしたアンソロジー短編集です。遠野秋葉が主人公の第一話『かわいい女』を執筆しました。

無料ブログはココログ

« [ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(4) | トップページ | [ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(6) »

2019年5月 3日 (金)

[ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(5)

※注:「ドラクエ10」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 外伝等は参照しておりません。

●第1回からお読みください
[ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(1)
[ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(2)
[ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(3)
[ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(4)

こちらもどうぞ→[ドラクエ10]女神ルティアナ、あなたはだあれ

ドラクエ6がお好きな方はこちら
ドラクエ7がお好きな方はこちら
ドラクエ4がお好きな方はこちら
ドラクエ1・2・3がお好きな方は こちらこちらこちらこちら

 

●メルサンディの村とは

 まずは例のごとく、実装された現行のメルサンディ村のエピソードをご紹介します。
 今回ちょっと前置きが長いので、覚悟して読んで下さい。

 メルサンディの村は、いちめんの小麦畑のなかにぽつりと存在するのどかな農村です。

 この村はなぞめいた怪物におびやかされていました。手だけの怪物やら、足だけの怪物やらがとつぜん村に現れて、家をつぶしたり、人をさらっては去っていくということが繰り返されていました。

 しかし、この村には、「英雄ザンクローネ」という熱血漢の剣士がいます。ザンクローネも神出鬼没で、怪物があらわれるところ彼も必ず現れ、ザクーッ、メコメコーッと悪を退治してくれます。ザンクローネは村中の人々から愛され、尊敬され、頼りにされています。

 しかし、ある時ザンクローネは巨大な怪物と戦い、深い傷を負って、死んでしまいます

 あとあとわかることですが、実はザンクローネは、一寸法師ほどのサイズしかありません。こびとの英雄なのです。
 かれは元々は、人間サイズだったのですが、魔女によって身体を奪われ、魂だけの存在になりました。ひとかたまりの魂を、むりやり人の姿に変えているので、サイズがちっこいのです。
 奪われた身体はどうなったかというと、バラバラにされて、怪物に変えられました。村を襲う、手だけとか足だけとか顔だけの怪物の正体は奪われたザンクローネの身体です。

 しかし、魂だけの存在になったのには、メリットもありました。魂だけの存在は、そう簡単には滅びないのです。死ぬような手傷を負っても、自分を真っ赤な宝石のかたまりに変えて、長い時間休めば、元通りになるのです。ただし、宝石の状態では何の活動もできませんし、宝石を怪物に奪われ、どこかに捨てられてしまうかも知れません。

 そんなおり、不思議な旅人(プレイヤー。つまりわたしたち)がこの村を訪れ、冒険のすえ、失われていた宝石をみつけだして彼を復活させることに成功します。

 時を同じくして、村娘ミシュアが巨大な腕の怪物にさらわれるという事件が起きます。不思議な旅人(プレイヤー・わたしたち)とザンクローネは、地下水路に連れ去られたミシュアを救い、怪物を退治します。

 ミシュアの正体は、じつは記憶を失った勇者姫アンルシアだったのである……ということが、のちに明らかになります。

 以上が表面的なメルサンディの状況。

 

●童話の村にて

 上記のメルサンディ村は、じつはまるごと「つくりもの」でした。

 真のメルサンディ村は、「童話の村」と呼ばれて有名です。なぜなら、世界的な童話作家パンパニーニが住んでいるからです。
 パンパニーニはいくつかのヒット作をものした後、メルサンディ村を舞台にした「小さな英雄ザンクローネの物語」という連作童話を発表しました。

「小さな英雄ザンクローネの物語」は、メルサンディ村を舞台にしていますが、村人など登場人物の全員が架空です。架空の人々が住むメルサンディ村で、一寸法師のヒーロー・ザンクローネと怪物の戦いが描かれていきました。
 たとえば、ミシュアが腕怪物にさらわれるのは、「小さな英雄ザンクローネの物語 第3話」のエピソードです。

 つまり、クワガタおじさんマデサゴーラは、
「このメルサンディという小さな村も、ワシ好みに改造してやろう」
 と思ったとき、何を思ったか、「小さな英雄ザンクローネの物語」の舞台と登場人物をまるまる再現するという酔狂に出たことになります。

 マデサゴーラ製の偽メルサンディには、真のメルサンディに生きている人々は、一人もいません。
 そのかわり、童話に出てくる架空の村人たちが村に住んでいるのです。
 そして、マデサゴーラ製のメルサンディには、一寸法師のヒーロー・ザンクローネが実在します。
 ザンクローネの敵たちも存在します。

 マデサゴーラの作ったメルサンディは、童話の世界をそのまま再現したテーマパークのような村なのです。

 以上が、ちょっとややこしい偽メルサンディ村の状況です。忘れている人も多そうなので、まとめておきました。

 

●マデサゴーラはなぜ童話を再現するのか

 童話作家パンパニーニは、「小さな英雄ザンクローネの物語 第4話」で、ザンクローネの死(消滅)を描きました。そうしておいて、第5話で復活する姿を描こうとしたのです。
 が、パンパニーニは第5話を書く前に急死してしまいました。ですから、ザンクローネの復活は永久に書かれないことになりました。
 つまり、ザンクローネはいずれ必ず死ぬ運命にあり、その死が撤回されることは絶対にないということになります。

 偽メルサンディ村(マデサゴーラが作った村)には、パニーノという吟遊詩人がいます。この人は童話作家パンパニーニの分身のような存在です。

 パニーノは、
「マデサゴーラは、救いの英雄が決して生き返らないという悲劇がさぞ気に入ったのだろう」(だから物語上のメルサンディ村を再現するという酔狂に出たのだろう)
 と推測しています。マデサゴーラは英雄の死によって絶望した人々の顔が見たいからこの村を作ったのだろう、というのですね。

 でも私は個人的に、パニーノの推測はしっくりきませんでした。

 むしろ、マデサゴーラはアーティストなので、童話作家に対してシンパシーを持っている、と見るほうがしっくりくるんじゃないかと思いました。マデサゴーラは「パンパニーニ、いいじゃん」と思った。だからパンパニーニ・テーマパークを作ってしまった。こっちのほうが私は納得がいきます。

 この場合、マデサゴーラは、「自分以外のアーティストに対してリスペクトがある人」というプロファイリングになります。クワおじ、ますますナイスおじ

 

●いくつかのぎこちない点

 実際のゲームに実装された現行メルサンディ村ストーリーでは、「村娘ミシュア」の役を、なぜかアンルシアが務めています。
 アンルシアは、兄王子トーマが自分をかばって死に、「実は自分こそが勇者だったんだ」と知らされたとき、絶望のあまり、勇者としての運命を拒否し、自分の記憶を封印して記憶喪失になってしまいます。
 天馬ファルシオンは、心を閉ざしたアンルシアを安全な場所に保護するため、不思議な力で偽メルサンディ村にアンルシアを送りました。

 記憶喪失のアンルシアは童話の村人たちに発見され、村に受け入れられます。記憶喪失の彼女は、「ミシュア」という名前を与えられて村長の養女となるのです。
(つまり、メルサンディ村のストーリーにおいて、腕の怪物にさらわれるのは、ミシュアと呼ばれているアンルシアです)

 ……この一連の展開には、いくつかぎこちないところがあります。
 まず、天馬ファルシオンが勇者姫をかくまうための場所が、「大魔王マデサゴーラが創造した偽の村」であること。
 マデサゴーラが、どんな影響を及ぼしてくるかわからないし、そうでなくとも、日常的に怪物に襲われている場所です。

 もう一つ。アンルシアがミシュアになってしまったことで、「本来のミシュア」はどこかに消えてしまいました。ミシュアは童話の主要人物なので、マデサゴーラは当然、「童話に出てくる本当のミシュア」を村に配置したはずです。
 ミシュアの役をアンルシアが奪ったので、本来のミシュアは消えてしましました。「人をひとり消す」というのを、誰がどういう能力でやったのか。

 アンルシアがメルサンディから立ち去ると、村人全員の記憶の中からアンルシアに関する思い出が消えます。そして、「本来のミシュア」がどこからともなく現れて、アンルシアがいた位置に存在し始めるのです。ちなみに本来のミシュアさんはおさげ髪で、田舎なまりがきつい、たいへんイモっぽい娘さんでした。この娘さんは、必要ないときには舞台の外へ取り除かれ、必要となったらまた舞台の上に置かれました。

 

●偽メルサンディをアンルシアが作ったのなら

 さて、ここまでが長い長い前置きでした。「セカンドリリース構想文書」によれば、初期設定では偽レンダーシア世界を作る能力を持っているのはクワおじではなくアンルシアだったのです。

 上記のメルサンディを「アンルシアが作った」とする場合、どういうストーリーが流れるのか。

 アンルシアが、「ザンクローネのいるメルサンディ村」を創造したというのなら、アンルシアは「小さな英雄ザンクローネの物語」を読んだことになります。
「小さな英雄ザンクローネの物語」はベストセラーです。アンルシアは幼少時、ご本を読んで貰うのが大好きな女の子でした(という描写があります)。

 そんなアンルシアが、ハイティーンくらいの年齢で、「自分は世界を一身に背負うために生まれた勇者である」ということを知らされます。彼女はその運命を受け止めきれない、というのが、アンルシアの基本人物設定です。
 しかも、(今ここで検討している)初期設定では、
「勇者の能力とは、命とひきかえに、世界そのものを創造することである。その創造能力によって、モンスターがいない世界を創造することが求められている」
 ということになっています。
 これ人身御供ですよね。

 けなげなアンルシアは、未熟な状態でその能力を使い、なんとかグランゼドーラ周辺だけ、モンスターのいない世界を作ることに成功します。
 また、優しい彼女は同時にセレドの子供たちの命を救おうとし、また、アラハギーロのベルムドの絶望に心を寄り添わせたりします。

 グランゼドーラを救い、セレドの子供たちを救い、ベルムドを憐れんだアンルシアは、そこまでの素晴らしいことを行なったあとで、
「どうして私は、こんな重いさだめを背負ってしまったのだろう。どうして私は、世界のすべてに対して責任を持たねばならないのだろう。どうして私は、世界のために人身御供にならねばならないのだろう」
 と、自分に対して憐れをもよおします。これは誰でも納得できる感覚でしょう。

「セカンドリリース構想文書」によれば、勇者の力が完全に機能した場合、世界創造とひきかえに勇者は死ぬのです。文書によれば、アンルシアはたまたま未熟だったために「目覚めない眠りに落ちた」で済んだようなのですが、それは結果論であって、アンルシアは自分の命を投げ出すつもりで世界を救う行為に取り組んだのです。

 そんな彼女が、こう思ったところで誰も責められないでしょう。
「私だって、救われたい」

 だから彼女は、「ザンクローネのいる、童話のメルサンディ」を創造し、そこに自分自身を「ミシュア」の役で置くのです。

 勇者などでなかったらよかった。もしも私がただの娘だったら、こんな苦しみを味わわずにすんだ。
 だから自分を、村娘として配役する。

 私は勇者はなくなるので、誰か他の人が英雄となって、世界の困りごとを一手に解決してほしい。
 誰かって、誰?
 そう、不敵な顔つきで、どんな苦難も蹴散らしてしまう、不屈の英雄ザンクローネみたいな人がいればいい。
 ザンクローネが私の代わりに戦ってくれるなら、どんなにいいだろう……。

 だから、アンルシアは世界を再創造するとき、ザンクローネを存在させる。ザンクローネが活躍する舞台として物語のメルサンディも創造する。そして、自分は「そこに住む村娘」になる。

 勇者は、自分のすべてを消費して、無限に人々を救わなければならない運命の人だ。
 私は……アンルシアは、実際に自分のすべてをなげうって、そうした。

 けれど、その逆の可能性もあっていいはず。
 そんな夢を見ても許されるはず。

 勇者の役目は、他の誰かがやってほしい。
 私は、そんな勇者に救われるお姫様を味わってみたい。

 

●私はあなたに助けられたい

 だからアンルシアは、ミシュアという人物の立場をまるごと乗っ取るのです。

 前述のとおり、ミシュアは「ザンクローネと不思議な旅人に助けてもらえるお姫様役」です。

 偽メルサンディを作ったのは(この前提では)アンルシアなので、配役をいじるのは思いのままです。オリジナルのミシュアを創造せず、空席にしておいて、そこに自分がおさまるだけでよかった。アンルシア創造主説では、本来のミシュア(イモミシュア)を取り除いたり置き直したりという「小さな世界変更」を全く必要としません。

 一人で世界を救わなければならなかった勇者姫アンルシアは、自分の世界に、自分のかわりに戦ってくれる代理闘士ザンクローネを置き、自分を何の責務もない立場にし、「自分がただ一方的に救われる」という物語を導くことで、代償行為としたのです。

 現実の世界では、アンルシアの身体は、人柱の眠り姫としてベッドで昏睡しつづけます
 の世界では、アンルシアの魂は、何度でも化け物にさらわれては、ザンクローネに救われます
 重すぎる責務と、夢の中での代償行為が、ぎりぎりバランスを取った状態になります。
 もし偽の世界で、何か困りごとが起こったら、あの絶対にくじけない無敵のザンクローネが出張っていってなんとかしてくれるでしょう(という想定だったはず)。

「セカンドリリース構想文書」によれば、初期構想での大魔王は、アンルシアが世界創造能力を使ったときに、その余波で(たぶん覚醒の光で)大ダメージを受けて行動不能状態に陥っています。ですから、このアンルシアの世界は大魔王に脅かされることはないのです。
 アンルシアは夢の中で、好きなだけザンクローネに助けられ続けることができます。無限にそれを続けることも、不可能ではない……はずでした

 ところが。

 

●不思議な旅人

 そんなアンルシアの慰安を揺さぶる、ふたつの要素が顕在化してきます。

 アンルシアは、おそらく「小さな英雄ザンクローネの物語」を、誤読していました。この物語の中には、「そんなふうに自己停止していてもいいの?」と問いかけるような内容が含まれていたのです。これがひとつ。

 もうひとつは。
 賢者ホーローに「レンダーシアを救ってくれんか」と頼まれた五大陸の若い旅人が、グランゼドーラの眠り姫の噂を聞き、彼女を目覚めさせてあげようと考え、その方法を探す過程でメルサンディ村を訪れたことです。

 この旅人は……つまりわたしたちプレイヤーは、「不思議な旅人さん」という役どころになぜかすっぽりおさまって、ザンクローネと一緒にミシュア=アンルシアを助け出しました

 眠り姫(=アンルシア)を救おうとしてやってきた旅人が、ミシュア(=アンルシア)を救う。

 この符合が、
「アンルシアにとっての本当の救いとは何なのか」
「その救いをアンルシアに与えてあげられるのは、誰なのか」
 ということを暗示しはじめるのです。

 

 次回、アンルシアの精神世界に入ります。

 

 続き→[ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(6)

« [ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(4) | トップページ | [ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(6) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« [ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(4) | トップページ | [ドラクエ10]姫が夢見たオルタナティブ・ワールド(6) »

お知らせ

コンテンツの無断使用に関するポリシーについて

リンク

  • mixi
    mixi内のブログです。内容はここと同一です。
  • 活字屋 あすか正太ウェブ
    小説家・あすか正太さんのWebページです。ライティング業のノウハウはすべて彼から伝授してもらいました。師匠です。
  • Other voices-遠い声-
    映像作家・新海誠さんのWebページです。新海さんの作品「雲のむこう、約束の場所」と「ほしのこえ」を小説化させていただきました。
  • 上海マスターのブログで情熱颱風
    BAR上海人形マスターのBlog。この人が作るお酒は留保なしにうまい。
  • BAR SHANG HAI DOLL
    洋酒が揃っていて、カクテルが旨くて、その上なぜかたこ焼きと鉄板焼が絶品な、不思議な店。ライブスペース、ギャラリーとしても利用できるそうです。