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加納新太

  • 職業は著述家・作家・脚本家。自称では「物語探偵」(narrative detective)。

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    君の名は。 Another Side:Earthbound
    新海誠監督の映画『君の名は。』の小説版です。新海監督執筆の『小説 君の名は。』が、映画と同じストーリーラインを追うのに対し、こちらでは、短編集形式で登場人物を掘り下げをしています。「これを読むと映画の内容がすんなり理解できる」と角川の玄人衆から高評価を受けました。リアル書店では見つけにくい本のようなので、取り寄せ等の対処をお勧めします。

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    いなり、こんこん、恋いろは。
    月刊ヤングエース(角川書店)連載中の漫画『いなり、こんこん、恋いろは。』(よしだもろへ)の小説化です。この作品に惚れ込みました。表紙はよしだ先生に描いていただけました。幸せです。

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    RPG「シャイニング・ブレイド」の小説版です。サイドストーリーを集めた短編集です。主人公レイジとヒロイン・ローゼリンデが初めて出会うエピソードも収録されています。

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    アクエリアンエイジ フラグメンツ
    トレーディングカードゲーム「アクエリアンエイジ」の小説版です。公式Webサイトでの連載に加筆修正したものです。

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    小説 劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH
    週刊少年サンデーで連載中、畑健二郎作「ハヤテのごとく!」が劇場アニメになりました。その小説版です。私はこの漫画が大好きで、書けて幸せでした。

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    秒速5センチメートル one more side
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    シャイニング・ハーツ やさしいパンの薫る島
    RPG「シャイニング・ハーツ」の小説版です。原作の物語のサイドストーリー的な位置づけです。3人のヒロインは全員登場し、ゲームでは出番の少なかった海賊ミストラルも活躍します。牧歌的でやさしく、すべてが満ちたりた世界を書こうと思いました。満足しています。

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    RPG「シャイニング・ウィンド」の小説版です。ゲーム本編のノベライズではなく、主人公たちの過去の物語を書きました。自分に伝奇小説が書けるか、ジェットコースター型の展開が書けるか、というのが、個人的なチャレンジでした。ありがたいことに、かなり好評を博しています。

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    シャイニング・ティアーズ to ウィンド 姫君たちの冒険
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    シャイニング・ティアーズ 神竜の剣
    RPG『シャイニング・ティアーズ』の小説版、続編です。単独の本としても読めるつくりになっています。作者としては、前作よりも納得のいく出来です。勇ましい物語です。

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    雲のむこう、約束の場所
    原作/新海誠。劇場アニメーション映画『雲のむこう、約束の場所』を小説化したものです。装丁がとても美しく、それで手に取った方も多いようです。

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    シャイニング・ティアーズ 双竜の騎士
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    タウンメモリー
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    月姫 アンソロジーノベル〈2〉
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    月姫 アンソロジーノベル〈1〉
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2017年10月

2017年10月22日 (日)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)

 渋谷ヒカリエとひらかたパークで行われた『ドラゴンクエストミュージアム』に行ったら、ドラクエ3の制作資料が展示されていた。それをじっと見ていたら、「(製品版と違って)制作初期には、こんなプランがあったんやな」ということがだいぶわかった。それを皆さんにお知らせします……というシリーズの第二回です。

 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)

 このシリーズで主に取り上げているのは、ドラクエミュージアムに展示されていた、ドラクエ3のワールドマップのラフコンテです。
 これはどういうものかというと、白い紙一枚に、「上の世界」の白地図が描かれていて、その中に、城やら町やらダンジョンやらが書き加えられている、というものです。

 この「マップのラフコンテ」の位置づけがどうもわかりづらいようなので、あらためてここで整理しておきます。
 堀井雄二さんのエッセイ集『虹色ディップスイッチ』(ビジネス・アスキー)に、ゲームシナリオ執筆の作業工程を解説した章があります(p.86-90)。そこに書いてあることを要約すると、堀井さんの作業工程は以下の通りです。

・おおまかなストーリーを頭の中で作り上げる。
・モンスターの(外見の)ラフコンテを描いて鳥山先生に送る。
フィールドマップのラフコンテを作る。(←これ)
・城、町、洞窟、塔のマップを方眼紙に描く。
・フィールドマップ(地形などが完全に入ったもの)をパソコンで作成。
・人のセリフを書く。
・各種アイテムの指定(効力、値段、使った時のメッセージ等)。
・戦闘中のメッセージを書く。
・モンスターのパラメータを決める。
(注:これは厳密には「ドラクエ2」のときの作業工程です。3では多少の変化があるかもしれません)

 このエッセイの内容に従えば、
「堀井さんの頭の中にある物語が、初めて紙の上に出力される工程」
 が、この「マップのラフコンテ」であり、ドラクエミュージアムにはまさにそれが展示されていたのだ、ということになるのです。

 これは白地図みたいなもので、これに城や町、洞窟、塔などを描きくわえてゆく。
 そして頭のなかにあるストーリーに合わせて、どの洞窟でなにが見つかるか? あるいは、どんなイベントがあるか? どんな情報が聞けるか? 等を書きくわえてゆく。

堀井雄二『虹色ディップスイッチ』(ビジネス・アスキー)p.87

 いってみれば、「堀井さんが頭の中で最初につくった全体像」に、きわめて近いものが、ここに出ていると考えていい。

 そして、このマップコンテに「製品版には存在してない町が書いてある」とか、「製品版には存在しているダンジョンがなぜか書いてない」とかいった差異があるのです。
 そうした差を見比べることで、「初期にはこんなアイデアを実装しようとしていたのか」ということがわかってくる。
 そんなことをやっているのが、今回のシリーズです。前回から時間があいたので、おさらいをしてみました。


■伝説を再現する「猫馬」

 前回はノアニールと「すいしょうだま」に関して、想像をめぐらしました。
 今回注目するのは、アフリカ大陸に相当する場所です。

 前回は、文字だけでなんとか説明しようとしたのですが、やっぱり理解してもらうのが難しいようなので、画像を掲示することにします。
 この記事に掲示される画像はすべて、『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示された制作資料を、私が手書きで部分的に再現したものです。画像で示されている内容は、株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者の著作物です(たぶんアーマープロジェクトも権利を持っているはず)。著作権法第32条に基づき、研究を目的とする引用としてこれらを掲示します。展示会場で書き写したため、写し間違いが生じている可能性があります。これらの画像の転載・改変・再配布を禁じます。孫引きも遠慮してください。

 さて、アフリカ大陸近辺には、こんな感じでプランが書き込んでありました。順繰りに見ていきましょう。

Img058_2

 まず、右上に町「◎M2」。これはそのまんまポルトガです。王の手紙が手に入り、そののち船が入手できる。ここまでは製品版通りです。
「猫馬」「パープルオーブ」と書いてあるのがミソです。製品版のドラクエ3では、ポルトガにパープルオーブはありません。パープルオーブはジパングにて入手するのです。

「猫馬」ってなんだ。

 製品版のポルトガに、猫馬なカップルがいました。サブリナとカルロスは恋人同士なのですが、魔王バラモスに呪いをかけられてしまいます。サブリナは夜のあいだだけ猫になってしまう呪い。カルロスは昼のあいだだけ馬になってしまう呪い。二人は同時に人間でいられることは決してない……というような境遇です。
 製品版では、バラモスを倒すと、自然に呪いがとけてめでたしめでたしとなります。この二人に、主人公が能動的にからんでいく展開はありません。バラモス退治のお礼にサブリナが「ゆうわくのけん」をくれますが、この段階で入手しても戦力的な意味はほぼ無でした。

 この「猫馬」が、マップコンテにわざわざ書いてあるということは、おそらく本来はもっと重要なイベントだったはずです。

 ミュージアムで展示されていた別紙に、「アイテム効能表」のようなものがありました。これも堀井さんによる手書きの文書で、イベントアイテムなどについて「武器なのか防具なのか道具なのか」「誰が使用できるのか」「その効果は何か」ということがリスト化されているものです。

 そのアイテムリストの中に、こんな項目が書かれていました。

ラーのかがみ   K8の王の正体をみやぶる
           M2の猫馬の呪いをとく

 K8はサマンオサに相当する城です。「ラーのかがみを使って、サマンオサのニセ王の正体をあばく」というのは、ドラクエ3でもっとも印象的なイベントのひとつです。
 それに加えて、初期構想ではどうやら、
「ラーのかがみを使って、猫馬さんたちの呪いをといてあげる」
 というクエストが、実装される予定だったようなんです。
(パープルオーブは、そのお礼として入手されるものだったのかな?)

 堀井さんがこのクエストを実装したいと思った理由は、わりと簡単に想像できそうだ。

 まず、ドラクエ初期2作には、偉大なる「勇者ロト」という存在が、神話的伝説として語り継がれています。
 その後に登場した、この「ドラクエ3」という作品は、これまで語られてきた勇者ロト伝説をネタとして回収する物語なのです。
 ドラクエ3のエンディングで、「ドラクエ3の主人公は、実は勇者ロトその人だった」という真相が明らかになります。「勇者ロトって、オレのことだったんだ!」という、最大級の驚きが、ここで提示されるのですね。
 堀井さんは、ドラクエ3を作ろうということになったとき、「そういう驚きをバーンと提示したいよね」と考えていたのです。

 さて。
 ラーの鏡は、ドラクエ2で印象的に登場したアイテムです。ラーの鏡は、ものごとの真実を映し出す品物であり、呪いで犬にされていた王女を元に戻すのに使用されました。

「このラーの鏡は、かつて勇者ロトの手の中にあったものだ」
「勇者ロトもまた、この鏡を使って、動物の呪いを解いたことがあるのだ」

 と、そのような形になったとき……。

 ドラクエ2で、ローレシアの王子の手の中にあるラーの鏡は、どこかからポッと出てきた謎の鏡ではなく、かつて偉大な祖先がその手に持っていた伝説的遺物です。

 その伝説的遺物を使って、勇者ロトと同じように動物の呪いを解くとき、それは単に魔法の品物を使ったということにとどまらず、
「時代をこえて、伝説が再現されたのだ」
 という形になります。

 そのような形を作ることを、堀井さんは狙っていたのではないかと思うのです。そのために、動物の呪いを解くクエストを入れようとしたのだと思います。

 そして、このクエストがボツになった理由も、はっきりしています。
「オリビアの岬」のイベントと内容がかぶるからです。

 オリビアの岬では、
「死んでもなおお互いを思いあう恋人たち。その霊魂を再会させてやり、愛を成就させてやる」
 という物語が展開しますが、これは猫馬さんたちとほぼ同一といっていいストーリーです。

 容量が足りなくて、何か削らなきゃいけないということになったとき。

・ラーの鏡で真実を暴くイベントは2つも要らない。ひとつでいい。
・愛し合う恋人の再会をテーマにしたイベントも、2つは要らない。

 そういう判断がごく自然に導かれ、猫馬イベントはまっさきに削除され、「ゆうわくのけん」だけが半端に残った……ということなのでしょう。たぶん。


■君の名はムー

 ポルトガから湾岸沿いに南にくだって、中央右寄りの「◎M5」をご覧ください。

 製品版には、この位置に町はありません(そのかわり、「イシス西のほこら」、リメイク以降の名前では「旅人のほこら」がある位置です)。◎M5は製品版では削られた……ボツになった町なのです。

 ここには、イベント内容がまんま書いてあります。

 まほうのカギ
 ぬすまれる
 とりかえすと
 やみのランプ

 ◎M5に入ると、イシスで苦労して入手したまほうのカギを奪われてしまう。町中でなんやかや調べたり追い回したりして、取り返してみると、ついでに闇のランプが入手できる。
 ドラクエ8に、町中で馬車を盗まれてしまい、必死になって犯人をつきとめるイベントがありましたが、まさにそういうのがドラクエ3でも予定されていたわけです。
(というか、逆に言うと、ドラクエ8になるまでそれ系のイベントは実現できなかった)

 なんでそう「ドラクエ8みたいなやつ」と言い切れるかというと、例によってJICC出版局の『ドラゴンクエストⅢ マスターズ・クラブ』で、堀井さんがそのものずばり「そういうプランがあったよ」とおっしゃっているからです。

「(略)Ⅲでボツになったアイデアなんだけど、ひとつの町が完全に推理モノのアドベンチャーになってるってゆーのがあったのね。これがそれなりにオモシロかったわけ。そういった展開でゲームが作れるかなってゆーのはあるよね。表に出てない部分で、勇者じゃなくて、誰か違う人間を主人公にしたゲームってゆーのをね。たとえば、商人の話で金もうけだけをやるとかね。」
――そのボツになったイベントって、ストーリーには関係なかったんですか?
「いや、若干関係あったんだよね。解かなくてもいいんだけど、解くとちょっといいモノがもらえたの。実を言うと、闇のランプはそのイベントでもらうハズだったんだ。

『ドラゴンクエストⅢ マスターズ・クラブ』(JICC出版局)p.8

 このインタビューで、「商人の話で金もうけだけをやるとか」と、明らかにドラクエ4のトルネコ編を念頭に置いた話をおっしゃっています。なぜか唐突に、その話がぽろっと出てくるところが味わい深いのです。

 なぜなら……(これはだいぶ有名になったから知ってる人も多いと思うけど)。
 ◎M5に付けられる予定だった町の名前は「レイクナバ」というからです。
 レイクナバは、ドラクエ4における、トルネコ編のスタート地点の地名。

 堀井さんは、インタビュアーに聞かれて、ボツになった◎M5の町のことを思い出し、

「そういえば、あの町はレイクナバって名前になるはずだったんだよなあ」

「レイクナバって名前は、今作ってるドラクエ4の商人編に流用したんだよなあ」

ひたすら金儲けに精を出す異色のシナリオ・トルネコ編の話をぽろっと持ち出してしまう。

 という連想ゲームを働かせたのかなって思います。

     ☆

 あそうそう。

 どうして◎M5の名前がレイクナバだと言い切れるかというと、ドラクエミュージアムに、以下のようなペラ1枚のメモが展示されていたからです。以下の画像は加納が会場で見たその資料を再現したもので、現物はすべて手書きです。例によって著作権法上の引用による利用であり、禁転載・禁改変・禁再配布です。

Photo

 この資料でレイクナバ以上に衝撃的なのは、
「下の世界をアレフガルドと呼ぶように、上の世界をまとめてムーと呼ぶ」
 という初期設定が存在したことです。

 やっぱりそうなのか。
 という、納得がありました。

 いまとなっては、「ムー大陸」という単語じたいを知らない人が多いかもしれませんね。ムー大陸というのは、はるかな古代、太平洋に存在したとされる超高度文明の大陸……の伝説です。
 伝説といっても、UFOとかツチノコとか、口裂け女とかスプーン曲げとか、そういう方向のいかがわしい「デンセツ」であって、基本的に、一般的な教育を受けたまともな人間なら相手にしないタイプのやつです。

 太平洋に、ムー大陸という大陸があって、高度な文明を築いていたのだけれど、大陸が沈んで滅んでしまいました。現在残っている世界中のすべての文明は、じつはムー大陸から受け継がれた部分的な末裔なのである……みたいなおとぎ話があるのだと考えて下さい。

 ドラクエ3の上の世界は、現実の世界地図にそっくりである。そのことはたいへん有名ですけれど、ひとつだけ、現実の地図とは大きく違うところがあります。
 それはアリアハン大陸です。
 現実の世界には、あんな不自然にまんまるい大陸は存在しません。

 太平洋に浮かぶ、この不自然に丸い大陸は何なのか。
 太平洋……。

 ……となったとき、これを「失われたムー大陸が沈まずに残っている姿」に比定するのは、80年代ごろのボンクラ知識に詳しいダメ少年たちには、わりあい自然なことでした(だ、そうです)。

 ドラクエ3には、「かつてアリアハンは、すべての世界を治めていた」という基本設定があります。アリアハン城下町の老人がそういうメッセージを述べます。

 アリアハンが全世界を治めていたのなら、その当時、全世界がアリアハンだったのです。
 アリアハンが「ムー」であるのなら、全世界が「ムー」だった時代があることになります。

「上の世界をすべてまとめてムーと呼ぶ」という初期設定に触れたとき、そういう形での納得が、私の中に生じました。「上の世界にもし名をつけるとしたら、それがムーなのは納得だ」と。
 逆に言うと、上の世界をムーと呼ぶ(つまり、ドラクエ3の世界を、古代超文明に比定する)ためには、「アリアハンがかつて全世界を統治していた」という設定は必須なのです。
 この設定って何で存在するんだろう、というのが、ぼんやり疑問だったのですが、私はそれでようやく腑に落ちました。

 そして。
「どうして上の世界をムーと呼ぶ設定が削除されたのか」についても、なんとなく、わかる気がする。

 なぜなら、世界というものは、ふつう、唯一のものだからです。
 唯一のものは、通常、固有名詞を必要としません。なぜなら唯一だからです。われわれの現実世界に固有名がついていないのは、世界が唯一だからであって、ほかのものとの呼び分けの必要がないからです。「世界」と呼べばいいのです。
 アブラハムの宗教の神(キリスト教やイスラム教の神様)に名前がないのは、彼らにとってその神が唯一の神であって、ほかの神など存在しないという立場なので、ほかの神と自分の神とを名前で呼び分けるニーズが存在していなかったからです。

 もし、「世界」に、固有名詞がついていたとしたら。
 それはたちまち、「この世界は唯一のものではなく、ほかにもいくつか世界があって、それとの間に呼び分けの必要が生じたから」でしかありえません。

 堀井雄二さんは、ドラクエ3のプレイヤーに、そんなこと絶対想像されちゃ困る立場だったのです。

 なぜなら、
「世界はたった一つのものだと思っていたら、ギアガの大穴を飛び込んだ先に、もう一個の世界があって、しかもそれが見慣れた世界だったからビックリした」
 という体験を全員にしてもらいたい、と彼は考えていたからです。

 その体験を全員にしてもらうためには、
「あれ、名前がついてるってことは、別の名前の世界がもう一個別にあんじゃね?
 と思われては絶対にいけない。

 絶対にいけないということに、堀井さんはご自分で気づいて、「ムー世界」というプランをボツにした。
 ……というふうに私は想像します。


■ゾンビキラーで霊を斬る

 長くなったので、残りを手短に。

 地図南端に「〇V4」があります。これは製品版で「テドンの村」として知られている地点です。
 製品版のテドンと同様、「ゾンビキラー」「オーブG」と書かれており(実際のゲームでもゾンビキラーとグリーンオーブが入手できる)、端的な説明として「お化け町」と注釈されています。

 テドンの村は魔王バラモスによって滅ぼされ、死者の幽霊だけが暮らしています。夜のうちは人の姿をとって、商売をしたり宿屋を経営したりしているのですが、ベッドで眠って朝になってみると、そこには白骨死体がゴロゴロ転がっている……。そういうわりあいショッキングなイベントが展開します。

 ドラクエ3は、主人公の移動時間に応じて、昼になったり夜になったりするゲームです。堀井さんは、当然、それをギミックとして利用したクエストを入れたいと考えて、テドンのイベントを考案した(猫馬やサマンオサも同様)。
 つまり、このマップコンテが作られた再初期段階ですでに、「昼と夜がある世界にしよう」というプランが存在した。
 昼夜のプランが存在したということは、この段階ですでに、

「この物語は、光を代表する者と、闇を代表する者との闘争の話なんだ」

 ということが明確に自覚されていたことを意味する(闇のころもと光の玉、夜しかない世界と昼がある世界)。

     ☆

「ゾンビキラー」がキーアイテムっぽく書かれていることは、ちょっとしたポイントかもしれません。
 製品版でのゾンビキラーは、テドンの武器屋に売ってるちょっと性能のいい武器にすぎません。

 でも、ここにわざわざ「この村で手に入る重要アイテム」として書かれているのですから、もうちょっと印象的な役割を果たす予定だったのかもしれない。

 例えばだけど。一例ですけど。
 テドンの幽霊たちを死後も苦しめている「悪霊の親玉」みたいなものが棲みついている。
 幽霊たちから、「あの親玉をやっつけてくれませんか」と頼まれる。
 ゾンビキラーを入手して、悪霊の親玉をやっつける。
 幽霊たちは、お礼にグリーンオーブを手渡してくれて、成仏していく……。

 という、ドラクエ5における「レヌール城のお化け退治」みたいなイベントがプランされていた可能性は、ちょっとありそうな気がする。

(続きます。気長にお待ち下さい)

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