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加納新太

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    君の名は。 Another Side:Earthbound
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    秒速5センチメートル one more side
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    シャイニング・ハーツ やさしいパンの薫る島
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    シャイニング・ウィンド -アナザーリンク- 鬼封じの剣士
    RPG「シャイニング・ウィンド」の小説版です。ゲーム本編のノベライズではなく、主人公たちの過去の物語を書きました。自分に伝奇小説が書けるか、ジェットコースター型の展開が書けるか、というのが、個人的なチャレンジでした。ありがたいことに、かなり好評を博しています。

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    シャイニング・ティアーズ to ウィンド 姫君たちの冒険
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    ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる
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    シャイニング・ティアーズ 神竜の剣
    RPG『シャイニング・ティアーズ』の小説版、続編です。単独の本としても読めるつくりになっています。作者としては、前作よりも納得のいく出来です。勇ましい物語です。

  • : 雲のむこう、約束の場所

    雲のむこう、約束の場所
    原作/新海誠。劇場アニメーション映画『雲のむこう、約束の場所』を小説化したものです。装丁がとても美しく、それで手に取った方も多いようです。

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    シャイニング・ティアーズ 双竜の騎士
    セガのRPG『シャイニング・ティアーズ』をもとにしたヒロイック・ファンタジィ小説です。ノベライズです。

  • : タウンメモリー

    タウンメモリー
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    月姫 アンソロジーノベル〈2〉
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    月姫 アンソロジーノベル〈1〉
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2012年9月

2012年9月26日 (水)

「ドラクエ6」が本当に目指したもの(6)「語らない」という大きな物語

 ※注:「ドラクエ6」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 普通の人にはついていけないトコロまで走っちゃう可能性があります。小説版、外伝等は参照しません。

 順番にお読み下さい。
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(1)バーバラと竜
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(2)夢を叶えたホイミスライム
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(3)ゲント族の正体
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(4)マスタードラゴンの両親
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(5)バーバレラという《ドラゴン》

 最終回です。

     ☆

●前回のまとめ

 もしバーバラがドラゴンだとしたら、彼女の一族「カルベローナのバーバレラの血をひくもの」たちは、きっとみんなドラゴンだろう、と想像できました。
「ルビスの土笛を吹くと、バーバレラの一族はドラゴン化する」ということですから、バーバレラ一族と精霊ルビス(笛を作った人)には深い関わりがあるだろう、ということになりました。

 ドラクエ天空シリーズには、「魔物たちが、人間になりたがり、そしてときどき本当に人間になる」というフィーチャーがあります。

 このことから、「大魔女バーバレラとは、人間になりたいと願ったドラゴンではないか」という推測がなされました。
 精霊ルビスは、ドラゴンのバーバレラを人間にしてやり、「そのかわり、土笛が聞こえたときだけドラゴンに戻って、心正しき勇者を背中に乗せてあげる」という約束をむすんだ。

 そういう物語を提案したところまでが、前回でした。

●「勇者の乗り物」を提供する2つの部族

 さて。この一連のエントリの第三回でもご提案したように、
「癒しの民・ゲント族の始祖とは、人間になれたホイミスライムではないのか?」
 というお話があります。

 もし、ドラゴンのバーバレラを人間にしてあげたのが精霊ルビスなら、ホイミスライムのゲントを人間にしてあげたのも、きっと精霊ルビスだろう、ということがいえます。
 ゲント族は、もちろん精霊ルビスとのつながりがあります。なぜなら、神の船を貸し渋るチャモロに、「船を貸してあげなさい、そしてあなたも冒険についていきなさい」という神託を与えたのは、精霊ルビスだったからです。
 そういうシーンがドラクエ6に実際にあるからです。

 だから、カルベローナのバーバレラの例との整合をとってみると、ゲントの物語はこんなふうになる。

     *

 昔、ホイミスライムのゲントという者がいて、「人間になりたいな、神様、ボクを人間にして下さい」とお祈りをした。
 精霊ルビスが、その祈りに答えた。
「あなたを人間にしてあげましょう。そのかわり、あなたとあなたの子孫に、ひとつだけ重大な使命を与えます……

     *

 バーバレラが人間になったとき、代償を求められたのなら、ホイミスライムのゲントも何か代償を求められた可能性が高いのですね。
 だとしたら、その代償は何でしょう。

 そういえば……ゲント族って、癒しの他に、もうひとつ使命がありましたね。

 それは「神様から授かった《神の船》を、だいじに保管する」ということでした。

 精霊ルビスは、ゲントを人間にするかわり、こんな約束を与えたんじゃないかしら。
「あなたを人間にしてあげます。そのかわり、この船を、しかるべき時が来るまでだいじにだいじに守り続けて下さい」
 その約束を守って、ゲントとその末裔のゲント族は、神の船を代々、神殿の中に隠して、だいじに守り続けてきたわけです。

     *

 そんなゲント族のもとに、ドラクエ6の本編の、主人公が現れたわけです。
 船が必要なので、神の船をぜひとも貸してくれないか、とゲント族にお願いをしに来たわけでしたね。
 ゲントの長老とチャモロは、「冗談じゃないです」と一度はつっぱねたわけですが、その瞬間どこからともなく、精霊ルビスの声が響いたのでした。確かこんな感じでした。

「この人に神の船を貸してあげなさい。そしてあなたも一緒に冒険に行くのです」

 ルビスはそんなようなことをささやいていました。ルビスの口添えのおかげで、主人公たちは、チャモロから神の船を借りることができたのでした。(注:このへんは実際に「ドラクエ6」で展開した物語です)

 さて。
 そもそも、主人公たちは、どうして船を借りたいと思ったのでしたっけ。

 それは、ムドーの島に渡りたいのに、船がなかったからです。

 船がなきゃ、島に渡ることができないし、渡れなかったらムドー退治はできない。誰か船を持っているやつはいないか? ゲント族に借りに行こう! ということで、主人公とゲント族は出会ったわけなのでした。

 つまり、「悪魔の住む島に渡るための移動手段(神の船)」を、だいじにだいじに守り続けてきた一族が、ゲント族であった。……ということになります。

 あれ。
 この話の流れでは、カルベローナの魔法の民は、「悪魔の城に渡るための移動手段(空飛ぶドラゴン)」を、勇者に提供する使命を帯びた一族だったのでしたね。

 整理してみると、ドラクエ6には、「ふしぎな力を持った謎めいた民族」が、ふたつ存在するのです。
 ひとつは、ゲント族。僧侶系の、癒しの魔法を得意とする一族で、死者を生き返らせる大魔法すら操る。そして「悪魔の島へ渡るための船」を司っている。
 もうひとつは、カルベローナの民。魔法使い系の、攻撃魔法を得意とする一族で、魔王すら恐れおののく破壊魔法マダンテを操る。「悪魔の城へ渡るための翼」を司っている。

 そして、その両者ともに、ルビスが関与しています。

●ルビスが彼らに与えた「クエスト」

 だから、こういう物語を想定するのです。

 はるか昔、人間になりたいと願うホイミスライムがいた。
 精霊ルビスが現れて、こんなことを言った。

「ホイミスライムのゲントよ。あなたを人間にしてあげましょう。
 そのかわり、あなたの一族は、これから癒しの術の修行を積み、
 それを子々孫々へと伝えてゆくのです」
「また、あなたに《神の船》を授けます。
 いつか心正しき勇者が現れて、悪魔の島へ行きたいと願ったら、
 この船を差し出しなさい。
 そして、もし勇者が現れたら、一緒に悪魔の島へと赴きなさい。
 身につけた癒しの術で、勇者の旅を手助けするのです」

 そしてまた、はるか昔、人間になりたいと願うドラゴンがいた。
 精霊ルビスが現れて、こんなことを言った。

「ドラゴンのバーバレラよ。あなたを人間にしてあげましょう。
 そのかわり、あなたの一族は、これから魔法の研究をして、
 その成果を子々孫々へと伝えてゆくのです」
「また、あなたに《土笛の使命》を与えます。
 いつか勇者が、悪魔の城へ向かいたいと願って土笛を吹いたら、
 あなたはドラゴンの姿に戻って、彼を背中に乗せるのです。
 そして、もし勇者に出会ったら、あなたはその旅に同行しなさい。
 研鑽を重ねた魔法の技で、勇者の戦いを手助けするのです」

 だから、勇者がゲントの村に現れたとき、ゲントの後継者チャモロは仲間になり、船を提供し、魔王を倒す旅についていく。
 だから、勇者と出会ったとき、カルベローナの後継者バーバラは仲間になり、ドラゴンとなって彼らを運び、そして魔王を倒す旅についていく。

●復元された物語

 さて。ここまでの話をふまえて、

・バーバラはドラゴンになり、
・「バーバラ」「ドラゴン」「ミレーユの笛」の三題噺が展開し、
・(その結果ドラクエ4・5でおなじみの)天空城とマスタードラゴンが誕生する。

 という、例の条件を再整理してみます。

 すると、こんな物語が復元されます。

     *

 記憶喪失の家出娘バーバラは、主人公の旅についていくことにした。
 魔王ムドー退治に向かった先で、バーバラは、自分がドラゴンに変身した事を知り、驚き、おののく。私っていったい何なの? 人間じゃないの?

 主人公は、ムドーを退治したあと、ムドーによって奪われてしまった「自分の本当の肉体」を探し求める旅に出るわけだが、それは同時にバーバラにとっては「私って本当は何者なの?」ということを探し求める旅になっていく。
 主人公とバーバラ。2人の「自分探し」が始まる。主人公と仲間たちは、「記憶喪失娘バーバラの過去(素性)」をつきとめるべく、世界中をめぐっていく。

 やがて、夢の世界の中にカルベローナの町が発見され、バーバラは、自分が大魔女バーバレラの子孫であること、カルベローナの次期長老になるべき者であることを知る。
 そして同時に、バーバラは、ルビスによって定められた、「バーバレラの使命」を知ることになる。
 始祖バーバレラはドラゴンだったのだ。「世界を救う勇者を背中に乗せて飛ぶ」使命を引き受けることとひきかえに、「人間になる」という奇跡を手に入れた。
 また、魔法都市カルベローナが魔法を研究していたのは、「その力で勇者の戦いを手助けする」という目的のためであった。

 バーバラは、祖先のバーバレラから受けついだ膨大な魔力を持っていて、さらにはバーバレラから受けついだ「ドラゴンの魂」を宿している。
 魔王を倒す勇者には、空飛ぶ翼が必要だ。
 ルビスは勇者を助けるために、魔法の笛を作っておいた。この笛には、ドラゴンの魂を呼び覚ます力がある。この笛が鳴り響いたとき、ドラゴンハートをその身に宿したバーバレラの子孫たちは、ドラゴンの姿を取りもどし、勇者の翼となる。

 まさにそのようなことが、ムドーの島で起こったのだ。だからバーバラは、ドラゴンに変身したのだ。
 そういう真相が、ついに解明される。そうか、私のご先祖様は、ドラゴンだったんだ。そして、ドラゴンの力は、今も私の中に眠っているんだ……。

 バーバラと主人公は、長い旅を続けるうちに、絆を深め、恋をはぐくみ、そしてついに結ばれる。

 バーバラと主人公は、魔王デスタムーアを倒すことに成功する。
 夢の世界は、デスタムーアが魔力で実体化させていた世界だった。だから、デスタムーアがいなくなったことで、夢の世界は実体を失い、消えてしまう。
 カルベローナは夢の中にだけ存在する都市。カルベローナのバーバラは、夢の世界にだけ存在する住人だ。
 だから、夢の存在であるバーバラは、消えてしまった。バーバラは主人公の前から、姿を消した。

 でも、人々の夢や希望を統括するセンターとして、夢の世界の王城・ゼニス城だけは実体を保ったまま残ることになった。ゼニス城は、空飛ぶ城、天空城として、世界の空を飛び続けることになった。
 バーバラは、天空城の住人として、いつまでも世界を見守る存在になった。

 そしてある日。天空城のゼニス王は、こんなことを告げた。

「バーバラよ、そなたのお腹に宿っているのは、この世界の未来じゃぞ」

 やがて、子どもが生まれる。その子は、現実の人間と夢の住人のあいだにできた子どもだ。そして同時に、人とドラゴンのあいだにできた子どもでもある。
 その子がいずれ、世界の未来を守護する天空の竜神マスタードラゴンになるのだろう……という暗示をして、物語は幕を閉じる。

     *

 もっと端的に言えば。

 バーバラの「私っていったい何者なんだろう?」というクエストが起動する。
「私って、実はドラゴンだったんだ……」ということが、発見される。「どうして私ってドラゴンなのだろう?」ということについて、真相が解明される。(そう、この物語は「ドラゴンのクエスト(探求)」であったのだ)
 やがてドラゴンのバーバラは、未来を担う竜神の母親となる。

     *

 そしてまた時は流れ、ずっと遠い未来(ドラクエ5の時代)。

 竜神マスタードラゴンは、
「人間というのは、良いものだな。人間の暮らしとは、楽しいものだなあ」
 と思うようになり、下界に降りて人間として生きるようになります。
 さらには、《天空のベル》が鳴り響いたら、すぐさまそこに駆けつけ、みずから、勇者を背中に乗せて空を飛ぶ、ということを行なうようになるのです。
(ドラクエ5で、そうなっていました)

 マスタードラゴン本人もきっと気づいていないことでしょうが、それは、彼の母親や、祖母が行なっていたことの、はるかなリフレインなのでした。

     *

 ……という物語は、なかなか端正で、美しいでしょう。

 まあ、いってしまえば全部私の想像にすぎないのですが、ドラクエ6を丁寧に見ていけば、当初の構想として堀井雄二さんのアタマの中に、これに近いストーリーは想定されていたはずだ、と、けっこう強い自信を持って言えます。
(ドラクエ6中盤以降はほとんど全て「主人公の自分探しの旅」なのに、その流れに「記憶喪失少女バーバラの自分探し」という動きを乗せていかないのは、明らかに不自然なんだ。天空城の卵と、主人公の冒険との間に、なんら関係性が存在しないという構成も、絶対おかしい。ゼニス王は人間なのに、次世代の世界を担う天空王が「竜」であることに何一つ説明がないことも不自然)

 堀井さんのアタマの中に、これに類する物語は、絶対あったはずだ。

 ところが、この整った物語が、断念され、つまりボツになったわけです。
 それはいったい、なぜか。

●断念された理由

 その理由は、私が思うに、ふたつあります。

 そのひとつ。小さなほうの理由としては、こうです。
 説明がこみいっていて難しすぎるから。
 ようは、「こんな話は、ややこしすぎて、とても説明できない」のです。

 バーバラは夢の住人でなおかつドラゴンで、そもそもカルベローナの民はドラゴンで、ルビスの笛はこういう目的でこういう効能があって……
 それを言葉で説明しはじめたら、「ちょっと今からだまって説明を聞いといて」というフェイズが生まれてしまう。

 もっとミモフタモナイ言い方をすれば、だめなフィクションによくある、「わたしの考えたスゴイ裏設定を今から聞いて下さい状態」がはじまってしまいます。
(この「わたしの考えたスゴイ裏設定を今から聞いて下さい状態」を、もんのすごいうまく描いて、もんのすごく魅力的に見せるという、奇跡的なワザを持っている超人作家が、私が思うにTYPE-MOONさんです。が、そんなことは普通の人は真似できませんし、真似してはいけません)
 だから堀井さんは、「これはいかん」と思って、情報量をどんどん削って、各人の想像に任す、という方向でチューニングする。

 堀井さんのインタビューに、
「その辺どこまで書くかという問題があって、書くことは出来るんですけれども、饒舌になってしまうし、それでは想像して楽しむという要素がなくなってしまう」
 という発言がありました。
 まさにそれです。

 そしてもう一つの理由は。

●回収しないという大きさ

 ひとことで言うと、「説明がついちゃう物語って、つまらない」んだ。

 何やら正体がよくわからない現行のドラクエ6のほうが、広がり感があって、あきらかに、魅力的。

 私の案は、へぇ……なるほど、そうなのね、という感じで、「おさまって」しまい、そのおさまり感があまりにも強すぎる。
 きれいにまとまって、綺麗に説明されて。はい、オッケーという感じになってしまい、後に引かない。
 ぜんぶわかってしまうので、読者の中で、はい、了解、となって、「済」のハンコが押されてしまう。
 それはつまらないのです。

 そうではなくて、「あれってなんだったのだろう…」という感じで、いつまでも解決せずに心の中にゴロゴロ残り続ける……そういう形になっているのが、現行のドラクエ6です。

 大きい物語を読者に手渡したいと思う作家は、あまりきれいに「なるほど」と合点がいっちゃうものを書いては「いけない」のです。
 なぜなら読者は、ふーん、なるほどなあ、と納得し……納得して終了してしまうので広がりがありません。

 つじつまの合った、きれいにまとまった説明というのは「小さい」のです。内側に向けて閉じる方向にベクトルが向かう、「内閉する」からです。
 大きな物語を、大きなままで手渡したいと願う語り部は、外向きに発散する方向で、情報をカオス方向に処理します。つまり、「つまらないつじつまを合わせないことによって、物語を放出方向に持っていく」のです。

 聖書や、古事記や日本書紀や、ギリシア神話が、どうして今の時代まで読み継がれ、読み減りしないのか。
 それはつじつまがあっていないからです。
 納得感のある説明が放棄され、理不尽だからです。

 物語というのは消費されてしまうものです。たいていの「お話」は、何度もくりかえし繰り返し読んでいると、目減りしてだんだんどうでもよくなってくる。
 減らない物語を書きたい作家は、どう読んでも読み切れない、消化できずに胃袋の中にずうっとゴロゴロしつづけるような、消化不良を起こすようなものを組み込む必要があるのであって、堀井さんみたいなすぐれた人は、もちろんそのことをわかっているのです。

 また、繰返しになりますが、堀井さんは、「書いて説明することはできるが、あえて書かずに想像させる方向にしたい」という意味の発言をしています。
 これはここでも重要な意味を持っています。
 説明することは、いくらでもできる。ただし、説明すると、「説明としてはこれこれだけです」ということになるので、その時点で、定量化が発生し、「物語のサイズが決定してしまう」のです。

 しかし、説明しなくて、ぼやかしておいて、想像できるようにしておくと、そのサイズは無限の大きさがあるのです。
 定量化が発生しませんし、想像というのは理論上無限だからです。
 ドラクエを、「これだけのサイズのもの」にしたくなかった堀井雄二さん、という姿が、あるような気がします。

 そういうわけだから、
 黄金竜とバーバラの関係性はぼやかしたまま。
 カルベローナの魔女はドラゴンに「変身できる」「かも」といった程度の説明に。
 土笛の由来はほとんど語られない。ミレーユがいつのまにか手に入れていたもの。
 マスタードラゴンは来歴不明のタマゴの中から生まれる。

 そういう処理になったのでしょう。

 勘違いしてはいけない点があって、「単に散らかって、ただつじつまが合わないだけ」の物語に、広がりはありません。
「やろうと思えば、いくらでも綺麗に整えることができる」物語を、「あえて乱し」「回収しない」ところに、広がりがあるのです。「回収できそうな物語を回収しない」というところに、「この物語を想像で埋めたい」という欲望が生まれて、ふくらんでいく。

 これは物語の「ぜいたくな」使い方です。だって、今ここに、「端正に成立したひとつの物語」というものがどっしりと存在するのに、それを「わざとほとんど伝えない」という使い方をするのですからね。

 すなわちこれが、「あえて綺麗におさめない」というワザであって、これは高等テクニックなのです。
 このテクニックのすごさを理解出来る人は、実はなかなか少ないようです。わたしも、「綺麗におさめない」「わざと回収しない」という技を意識的にたくさん使っているつもりなのですが、理解されることは少ないです。いや、うまくいってないだけかもしれないのですが。

     *

 そんなわけで、以上のようなことが、「ひょっとしてありえたかもしれないもう一つのドラクエ6」の物語です。
 いわば、現実のドラクエ6に対する、「夢の世界のドラクエ6」だと思っていただけると、わたしとしては、ちょっといい気分なのです。

(全6回・おわり)

■いくつかの補足→「ドラクエ6」が本当に目指したもの(補遺)ドラゴンたちの「悟り」

2012年9月25日 (火)

「ドラクエ6」が本当に目指したもの(5)バーバレラという《ドラゴン》

 ※注:「ドラクエ6」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 普通の人にはついていけないトコロまで走っちゃう可能性があります。小説版、外伝等は参照しません。

 順番にお読み下さい。
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(1)バーバラと竜
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(2)夢を叶えたホイミスライム
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(3)ゲント族の正体
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(4)マスタードラゴンの両親

     ☆

●前回のまとめ

 バーバラは、ドラクエ6の序盤で登場して仲間になる、記憶喪失の家出娘です。
 冒険を進めていくと、彼女は、夢の世界にだけ存在する魔法都市カルベローナの次期長老候補(魔女)だった、ということが明らかになります。

「カルベローナの魔女は、その巨大な魔力によって、ドラゴンにでも変身できる」
 という情報があります。

 ですから、
「ミレーユの土笛が鳴り響くと、どうしてカルベローナの魔女はドラゴンに変身してしまうのか」
 ということについて説明がつけば、「バーバラ、ドラゴン、笛」という三題噺が成立することになります。

●ルビスが作った土笛

 まず、ミレーユが持ってるあの笛は、いったい何なのか、ということをまとめておきます。

 冒険を進めると、笛の来歴が、すこしだけわかるようになってます。海底に隠れた「精霊ルビスの城」に行くと、そこには精霊ルビスがいらっしゃいます。この世界における女神さまのようなものです。
 ルビスは、「これまで、不思議な声であなたを導いてきたのは私ですよ」という意味のことを言ったあと、ふと、こんなことをおっしゃる。

ルビス「ムドーがいた島には
    いくどとなく 悪魔が
    住みつきました。
ルビス「あの島には 闇のチカラを
    よびやすい性質が あるのかも
    知れません。
ルビス「そのため 私は かつて
    ある笛を つくっておいたのですが…
ルビス「めぐり めぐって その笛も
    やくにたったようですね。

 つまり、ミレーユが持っていた土笛は、精霊ルビスが作ったものでした。
 それも、そうとう昔に作ったもののようです。

 ここで彼女が言っていることをまとめると、どうやら、ムドーが出現する前にも何度か、あの島(あの城)には、別の悪魔が住み着いて悪さをしていたようですね。
 ムドーの城は、切り立ったガケの向こう側にあるので、人間は渡ることが出来ません。

 ということは、勇気ある若者が、「あの城の悪魔を退治しよう!」と決意したとしても、退治しに行く方法がないわけです。

 そこでルビスは、土笛を作り、「これを吹いたらドラゴンが現れて、城まで乗っけてってくれる」というシステムを作っておいた。
 このシステムを使って、これまでにも、何人もの勇者が、島に住み着いた悪魔たちを退治してきたのでしょう。
 そして今回、この島にはムドーが住み着いたわけなのですが、ミレーユが運良く土笛を手に入れたので、主人公たちは問題なくドラゴンに乗ることができ、ムドーをやっつけに行くことができた。
 そんな感じですね。

     *

 ところで余談。このルビスのセリフを元にして、「《これまで城に住み着いた悪魔》って、たとえばゾーマや竜王のことじゃないのか?」「つまりムドーの島は、もとは竜王の島であって、ドラクエ6の世界はアレフガルドのなれの果てじゃないのか?」という想像をする人が、けっこうたくさんいるみたいです。
 でも、そんなふうに考えなくていいと私は思います(あえてそういうふうに考えるのも面白いですけどね)。アレフガルドとドラクエ6は別の世界。魔王さんたちは島みたいな隔絶した場所がお好きなので、そういうとこに根拠地を据えたがる。そんなところでよろしいと思います。
 だって、ドラクエ6の世界がアレフガルドであるのなら、ムドーの城に行く方法として、土笛を作る必要がないと思うのです。だってアレフガルドには、もうすでに「虹の雫システム」があるのですから。太陽の石と雨雲の杖があれば良くて、それで虹の橋をかければいい。また、アレフガルドならそれがあるべきだと思うのです。わたし的にはそんなフィーリングです。

 ドラクエ6とアレフガルドの関係性をうんぬんするのもいいけど、それよりは、
「ドラクエ3の上の世界(世界地図そっくりな世界)って、私たちが今住んでるこの現実世界に対応する《夢の世界》なんじゃないの?」
 といったことを考えるほうが、広がりがある気はするのです。
 余談おわり。

     *

 さて、ここで展開している議論では、「ルビスの土笛で呼び出せるドラゴン。その正体はバーバラである」という前提なのですから、
「バーバラのドラゴン化は、ルビスが作った輸送システムの一部である」
 ということになります。

「バーバレラの血を引く魔女は、ドラゴンになれる」という情報があるのですし、「土笛システム」はどうやら、バーバラが生まれるよりずっと昔から存在していたみたいなのですから、

「大魔女バーバレラの血を引く魔女は、ドラゴンになる。そしてそのドラゴン化は、ルビスが作った輸送システムの一部である」

 ということになりますね。
 ようするに、以前に土笛が吹かれたときには、バーバラはまだ生まれる前だったわけです。まだ生まれていないバーバラは、ドラゴンになることも、ましてや人を乗せて空を飛ぶこともできません(存在してないんですからね)。
 ということは、バーバレラの血を引く別の魔女、つまり先代カルベローナ長老や、先々代カルベローナ長老や、先々々代カルベローナ長老がドラゴンになって、勇者を悪魔の城に運んだのだろう、という想定ができます。

 ということは、大魔女バーバレラという人は、どうもルビスと深い関わりがあったらしいぞ、ということが推測できます。ひょっとして、魔法都市カルベローナの成立において、精霊ルビスがかなり関与してるんじゃないか。

●バーバレラがルビスと交わした約束

 もっとはっきり言うと、

 ルビスとバーバレラの間に、
「あなたとあなたの子孫は、この土笛の音が聞こえたら、必ずドラゴンになって勇者を城に運びなさい」
 という契約(約束)があったんじゃないだろうか。
 そう考えると話の筋が通るように思うのです。

 ルビスとバーバレラは、何らかの取引をしたんだと思うのです。ルビスは、バーバレラに何らかの便宜を図ってあげた。
 そして、
「この便宜を図ってあげるかわり、誰かがあのガケで土笛を吹いたら、あなたの子孫たちはドラゴンになって必ず駆けつけなければならない」
 という契約をした。

 だから、ミレーユが土笛を吹いたとき、「現代におけるバーバレラの子孫」であるバーバラが、魔法の契約に従って、ドラゴンになって駆けつけた。

 そんなふうに想定することにします。

 だとしたら、この約束の報酬として、バーバレラがルビスから受け取った便宜とは、いったい何なのか。

 こんなふうに想像してみました。
 いま、ここで展開している話の流れを振り返ってみると、ドラクエ天空シリーズには、「魔物たちが、人間になりたがり、そしてときどき人間になることに成功する」というフィーチャーがあります。
 それに基づいて、「ゲント族のルーツは、人間になることができたホイミスライムである」というサブストーリーを想定しました。
 それと同じなんじゃないか、と考えてみるのです。

 つまり、
 大魔女バーバレラは、もとは魔物であった。モンスターでありながら、「私は人間になりたい……」という夢を抱いた。
 精霊ルビスが現れて、
「あなたの願いを叶えましょう。あなたを人間にしてあげましょう
 とささやいた。
「でも、そのかわり一つだけ、約束してほしいことがあります。この土笛の音が聞こえたら、あなたと、そしてあなたの子孫は、元のドラゴンの姿に戻って、勇者をその背に乗せて飛ばなければなりません……」

 そう、つまり、魔法都市カルベローナを創設した古代の大魔女バーバレラという人は、元から人間だったのではなく、実はドラゴンだったんじゃないのか、と言いたいわけです。

 かつて、バーバレラという名前のドラゴンがいて、人間になりたいという夢を持った。精霊ルビスはそれを叶えたが、代償として、求められたときに勇者の乗り物になれ、という制約を与えた。
 ドラゴンは、賢くて、魔力を持ち、時には魔法を使えたりする生き物です。
 人間になったバーバレラは、ドラゴンのころと同様の、すさまじい魔力を持っていたので、魔法使いとして大成し、魔法研究都市であるカルベローナを築き上げました……。

     *

 バーバラたち「大魔女バーバレラの血を引く長老魔女」は、人の親から生まれてくるのではなく、「バーバレラの魂が宿った石像の中から」「100年おきに生まれてくる」のだ、という、不思議な説明が、作中にありました。

*「その女神像には 伝説の大魔女
  バーバレラさまの たましいの
  なきがらが やどっておる。
*「100年に いちど その女神像から
  この町の長となる者が
  生まれてきたのじゃ。

 こんな変な設定が存在する理由も、この仮説では説明がつくのです。
 カルベローナには、どんな時代にも、どんな世代であっても、いつも必ず絶対に「ドラゴンに変身できる者」が一名以上存在していなければならないのです。でないと、土笛が鳴り響いたときに、飛んで駆けつけることができませんからね。
 ドラゴンになれる者がどんな時代も必ず存在しなければならないので、バーバレラの子孫が人間との婚姻をくりかえして、ドラゴンの血が薄まってしまい、ドラゴンに変身できなくなる……という状況になってしまってはいけない。
 だから、バーバレラの後継者は、バーバレラの石像の中から、「バーバレラのドラゴン能力を丸ごとコピーした存在」として生まれてくる。……と考えれば良い。
 カルベローナの魔女たちは、血が薄まったりせず、何千年経とうとも常に全員が「バーバレラから数えて二代目」だ、ということになるわけです。しかも、ハーフになることはないのだから、全員が純血のドラゴンです。
「バーバラたちカルベローナの長老魔女は、能力的には常にバーバレラのコピーである」といったような想定をするわけです。こうすれば、カルベローナから「ドラゴン変身者」が失われることはない。

 もうひとつ。長老候補の魔女は、「100年おきに生まれてくる」のですが、現行のドラクエ6で語られていることによれば、現・長老のブボールは「200歳」だとされています。

*「わたくしたちが たましいの存在と
  なって 夢の世界へ この町を
  きずいたとき 長老さまは200才。

 十代のバーバラは当然、最近生まれてきたのです。ですから、長老魔女が生まれてくるのが100年おきなら、カルベローナにはもう一人「100年前に生まれてきた100歳の魔女」がいなければならないはずです。
 でも、そういう人はいない。
 どうしていないのかについては、説明としては「事故か病気か戦争で死にました」くらいのことで良いのです。
 しかし、どうして堀井さんは「100年前の魔女にあたる人は不在」という設定を必要としたのか。そこには疑問が残ります。
 でもこれも、この説では説明がつくのです。現・長老ブボールは現在、死にかけています。ということは、とてもドラゴンに変身して飛ぶなんてことはできないでしょう。ですから、もし笛が鳴ったときにはバーバラが変身するしかないわけです。バーバラがドラゴンに変身するからこそ、物語が動き出します。
 もしここに、「100歳の魔女」が健在だったとしたら、カルベローナには「ドラゴンになれる者」が2人存在することになります。ということは、ミレーユが笛を鳴らしたら、「どっちか片方がドラゴンになれば良い」ことになります。
 でもそれって、ドラマとして、緊張感を削ぐことおびただしい。「もう、ドラゴンになれる者は私しかいないんだ」というところに、悲壮があり、ドラマがあるのです。
 ミレーユが笛を吹いたときに、「(他の人が変身するので)バーバラがドラゴンにならない」としたら、この物語は動きだしませんよね。
 ですから、この物語を駆動させるためには、「100年前の魔女」が存命していてはいけないのです。

     *

 バーバラ・ドラゴン・笛。
 以上のような感じで想定すると、三題噺はきれいにまとまります。

 きれいにまとまるけれども、それってただの想像じゃんか、ということも、もちろんできます。
 そしてもちろん、仰るとおり、ただの想像にすぎないのです。

 ……すぎないんですが、このことには、多少の根拠があるといえばあります。
 というのは、カルベローナの存在の仕方って、「ゲント族」のあり方と照らし合わせてみると、すごく収まりが良いのです。

(続く・次回で終わります)

■続き→「ドラクエ6」が本当に目指したもの(6)「語らない」という大きな物語

2012年9月24日 (月)

「ドラクエ6」が本当に目指したもの(4)マスタードラゴンの両親

 ※注:「ドラクエ6」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 普通の人にはついていけないトコロまで走っちゃう可能性があります。小説版、外伝等は参照しません。

 順番にお読み下さい。
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(1)バーバラと竜
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(2)夢を叶えたホイミスライム
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(3)ゲント族の正体

     ☆

●「異類婚」で構成された天空シリーズ

 ゲント族の正体について考えていたら、ドラクエ天空シリーズを貫く「異類婚」というキーワードが「さいごのカギ」として手に入った。そこまでが前回でした。

     *

 異類婚(異類婚姻譚)というのは、人間と、人間以外のものの結婚物語のことです。世界各地の神話、民話に登場するモチーフです。人間と神様のあいだに出来た子どもが英雄になるとか、王様になるとか。そんなお話が典型的ですね。
 助けた鶴が嫁入りしてきて機を織ってくれるというのも、それです。

 ドラクエの天空シリーズは、重要な設定のほとんどが、この「異類婚」によって構成されています。

 例えばドラクエ4は、天女の羽衣伝説のモチーフです。天空の城から降りてきた天空人の美女と、地上の木こりが恋をして、子どもが生まれる。天空人の女は神様の怒りに触れて天空城に連れ戻される。生まれた子どもはやがて超能力を備えた「人類の勇者」となって、世界を救います。

 ドラクエ5は、二重の異類婚によって成り立っています。
 ドラクエ5の主人公は、「魔界と通じることのできる超人」エルヘブンの民と、人間の王様のあいだにできた子どもです。
 いわば、普通の人類と、魔界側の人類とのあいだにできた子どもです。
 そして作中で、主人公は結婚するのですが、お嫁さんは天空人の血をひいていました。
 つまり、魔界と人間の異類婚によってできた子が、さらに天界との異類婚をして、天界・魔界・人間界のみっつをまたぐ存在になっていくのです。

 ドラクエ4と5を作ったとき、堀井雄二さんや制作スタッフが、「この天空シリーズは異類婚シリーズだ」ということを意識していたかいなかったかは、さだかではありません。偶然、2作にわたって同じネタが重なっただけかもしれませんしね。
 でも、ドラクエ6を作っているときには、堀井さんや制作スタッフは、確実に気づいていました。「ああ、天空シリーズって、振り返ってみると異類婚の物語じゃないか」ということに。

 なぜなら、ドラクエ6は、それを思わせるモチーフがてんこ盛りなのです。

●ドラクエ6の異類婚モチーフ

 たとえばフォーン王と鏡姫のエピソード。これは「鏡の世界にだけ存在していた美女」と人間の王様との婚姻でありました。

 またたとえば、雪国マウントスノーの雪女ユリナと老人ゴランのエピソード。この2人は(結果的に)恋仲にはならないのですが、ゴランは「決して秘密をしゃべってはいけない」という約束を破ったせいで氷の呪いをかけられます。「タブーの設定」「それを破ったことによる破滅」というのは、「鶴の恩返し」でもおなじみの、異類婚姻譚の典型的なパターンなのです。

 そう、「鶴の恩返し」といえば。ドラクエ6のスタート地点、ライフコッドの村は、「機織り」によって生計を立てている村ではなかったでしょうか(村が襲われたとき「この機織り機だけは守り通すんだ!」と体を張っていた村人が印象的ですね)。そして、そんな機織りの村に「ケガをした主人公」という謎めいたマレビトが村にかつぎこまれて保護されたことから、物語は始まってゆくのでした。

 そしてもちろん「ゲント族」。これも異類婚をほのめかされた部族であることは、先に説明したとおり。

(☆追記)
 さらに、一つとんでもなく重要なエピソードを忘れていました。ドラクエ6には、「漁師ロブと人魚ディーネの純愛」というイベントがあるのです。主人公たちは、漁師と人魚の仲をとりもってやり、2人はめでたく結ばれるのでした。
(追記ここまで)

 このように、ドラクエ6は、意識的に異類婚のモチーフをいくつも盛り込んでいる……という分析ができます。ドラクエ6は、作り手が意識的に、異類婚姻譚の物語として作り上げている。そう考えられます。

 としたら。
 ここで最初の問題に戻ります。ドラクエ6の、「本来想定されていた物語」とは、どんなものだっただろうか。
 その答えを、「異類婚」というキーワードで、あぶりだせそうな気がするのです。

●マスタードラゴンの「両親」

 最初の問題をもういちどまとめます。前々回で分析しました通り、当初想定されていたが断念されたドラクエ6(のバックグラウンドストーリー)は、

・バーバラはドラゴンになり、
・「バーバラ」「ドラゴン」「ミレーユの笛」の三題噺が展開し、
・(その結果ドラクエ4・5でおなじみの)天空城とマスタードラゴンが誕生する。

 どうやらそういうお話であったようでした。そういうお話が予定されていたのです。

 これだけの情報では、どうも漠然としすぎていて、物語としてうまく駆動しそうにありませんでした。
 が、いまや私たちは、「天空シリーズは異類婚の物語である」という重要な条件を手に入れています。
 この条件があると、物語が急に駆動しはじめます。

 この物語は、最終的に「天空城の支配者マスタードラゴンの誕生」という結末を要求するのですから……。

 ドラクエ4の勇者が、人間と天空人の間に生まれたように、
 またドラクエ5の主人公が、魔界と人類と両方の血を引く存在であるように、

「人間と、人間でないものが結婚をして、その結婚によってマスタードラゴンが生まれる」

 という物語があればよいのです。

 実際のドラクエ6では、ゼニス城に最初から「卵」が安置されていて、ここからマスタードラゴンが生まれる(らしい)わけです。
 でも本来は、異類婚によって、人間と非人間の両親がいて、その2人のあいだから、マスタードラゴンが生まれる」想定だったのではないかな、と、わたしは推測するわけです。

 さて。
 だとすると、マスタードラゴンを生むためのお父さんとお母さんが必要になります。しかも、そのうちかたっぽは人間でないものでなければなりません。

 ふたつほど、有望な組み合わせがあります。

●夢の世界に住まう竜

 そのひとつは。
 ドラクエ6は、「夢の世界」と「現実の世界」をいったりきたりする物語です。現実の世界には現実の人間がいて、夢の世界には夢の住人がいます。
 現実の人間と、夢の世界の住人とが結婚して、子どもが生まれたら、それは異類婚によって生じた子といえますね。
 天空城は夢と現実の境界のような場所ですから、「天空城のあるじは夢の住人と現実の人間とのあいだに生まれた」という設定があると、きわめておさまりが良いです。

 もうひとつ。
 この異類婚の結果、「マスタードラゴン」が生まれてくれないと困るわけですから、お父さんかお母さんのどっちかは「ドラゴン」であってほしいところです。人間とドラゴンが結婚したら、これは異類婚です。

 さあ、ここまでくると、「あっ」と思うわけです。
 ドラクエ6には、あつらえたように、「夢の住人であり、同時にドラゴンでもある」というキャラクターがいました。

 それは「バーバラ」です。

 バーバラは、夢の世界にだけ存在する魔法都市カルベローナの子でした。だからこそ、エンディングで夢の世界が消滅するとき、バーバラもまた、主人公の前から姿を消したわけなのでした。バーバラは夢の世界の住人なのです。
 そして、この話の前提では(つまりドラクエ6の初期設定では)、バーバラは、ムドーの城の黄金竜でもあります。バーバラは「夢の世界の」「ドラゴン」なのです。

 つまり。
 ドラクエ6で本来想定されていた「真相」とは、
 現実世界の人間である主人公と、夢の世界のドラゴンであるバーバラがむすばれて、ふたりの間にマスタードラゴンが生まれるというものであった……
 というのが、私が提案したい仮説なのです。

 人間世界の男の子と、夢の世界に住むドラゴンの少女が、出会って、惹かれて、恋をして、むすばれた。そしてひとりの子が生まれた。
 夢とうつつの両方に属し、人とドラゴンの両方に属するその子は、やがて、世界を治める父なる竜神マスタードラゴンとなった。

 ……という物語は、これはドラクエっぽいし、天空シリーズっぽいし、ロマンチックで堀井さん好みっぽいなあというのが、私の感じる手触りなんです。

     *

 余談ですが、だからこそドラクエ6では、「絶対にバーバラをルイーダの酒場に預けられない」という仕様になっているのかも知れませんね。
(「ルイーダの酒場」は、使い道のない仲間をしまっておく場所です。ご存じないかたもいるかもしれませんが、ドラクエ6は、バーバラをルイーダに預けることができないようになっています。他の仲間はいくらでも預けられるのです)

 この物語を成立させるためには、「主人公とバーバラは、ずっと一緒に旅をしてきて、いつも、苦難も喜びも分かち合いました」という状況が必要です。
 もし、ルイーダの酒場に預けることが可能になってしまうと、プレイヤーの遊び方によっては、「バーバラは出会った直後からルイーダの酒場に預けられて、酒飲んでクダ巻きながらお留守番をしていました。冒険はほとんどしていません」という状況が発生できてしまいます。
 それでは、この恋物語を成り立たせるための「ふたりの絆」が生まれようがないわけです。
(「竜に変身しなきゃいけないから、パーティから外せない」という考え方もありますが、それだったら、ドラゴンに変身するシーンが終わったあとは、外せるようにしてもいいはずです。必要なとき、自動的にパーティに入る仕様にしたっていいのです)

●《バーバラ、ドラゴン、笛》の三題噺

 というわけで、ここで展開している話にもとづけば、「本来のドラクエ6の物語」は以下のようになるわけです。

・バーバラは、ムドーの城の黄金竜であり(それが判明して)、
・「バーバラ」「ドラゴン」「ミレーユの笛」の三題噺が展開して、
主人公とバーバラが結ばれて、
2人の間にマスタードラゴンが生まれる。

 これらの条件をうまいことつなげるようなストーリーを見いだすことができれば、それは「本来想定されていた(そして採用されなかった)ドラクエ6の物語」にかなり近いものになりそうなのです。

 さて、これらの条件のうちで、まだ、まともに検討していないものが、ひとつありますね。

「《バーバラ、ドラゴン、笛》の三題噺が展開する」

 特にこの中でも「笛」が問題です。
 ミレーユが土笛を吹くと、バーバラはドラゴンに変身し、一行を乗せてムドーの城に運んでくれる。
 この展開は、どうやら、当初から存在したみたいです。

 ということは、こういう「謎」が存在することになります。

「ミレーユが持っている土笛を吹くと、どうしてバーバラはドラゴンになるのか」

●大魔女バーバレラは何者なのか

 バーバラは、魔法都市カルベローナの長老の座を継ぐ子どもです。

 カルベローナは、「大魔女バーバレラ」という人が作った町です。
 そしてカルベローナでは、大魔女バーバレラの血をつぐ者が長老になる、という決まりがあります。
 バーバラはバーバレラの血をひいているので、いずれ長老になる予定です。

 以前のエントリで紹介したとおり、「バーバレラの血を継ぐ者はドラゴンに変身できる」といった情報がありました。

*「いだいなる 大魔女 バーバレラの
 血を引く バーバラさまなら
 きっと ドラゴンにでも…

 ですから、笛とドラゴンに関わる謎は、以下のように言い換えることができます。

「ミレーユの土笛が鳴り響くと、どうしてバーバレラの子孫はドラゴンに変身してしまうのか」

 次回はそのことについて、想像力で整えます。わりと簡単に整いそうですよね。そろそろ、何をいいたいか全体像が分かってきた人もいそうだ。続きます。

(続く)

■続き→「ドラクエ6」が本当に目指したもの(5)バーバレラという《ドラゴン》

2012年9月23日 (日)

「ドラクエ6」が本当に目指したもの(3)ゲント族の正体

 ※注:「ドラクエ6」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 普通の人にはついていけないトコロまで走っちゃう可能性があります。小説版、外伝等は参照しません。

 順番にお読み下さい。
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(1)バーバラと竜
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(2)夢を叶えたホイミスライム

●ゲント族とは?

 前回は、「人間になりたいホイミスライム」というモチーフが繰り返されているよね、という気付きを手に入れたところまででした。

 それをさりげなくふまえて、今回は「ゲント族」のお話です。このゲント族の謎が、「本来のドラクエ6」を想定するための重要なパーツになります。たぶん。

     *

 ドラクエ6の世界には、ゲント族という少数民族がいます。

 やまあいに住んでいて、あんまり積極的に外との交流はしないみたいです。でも、排他的というほどではなくて、旅人などには友好的なようです。
 ゲント族は不思議な力を持っています。それは治癒の力です。病気を治したり、ケガを治したり、はなはだしくは死んだ人を生き返らしたりする能力があります。それで救済を求めて村にやって来た人々を治療してあげたりしているようです。
 彼らは「ゲントの神」というものを信仰しているそうです。

 ゲントの村にはチャモロという少年がいて、彼は長老のマゴにあたります。このチャモロ少年は主人公の仲間になってくれます。けっこう強力なキャラクターです。ホイミ系の癒しの魔法を、どんどん勝手に習得してくれます。おまけに、専用武器であるゲントの杖は、回復魔法ベホイミをノーリスクで無限に使用できるという最重要アイテムです。

 このゲント族って、いったい何者なの? というところから、話を始めてみたいのです。
 彼らが信仰しているゲントの神というのは、いったい何なのか。

●魔物の因子を持つチャモロ

 チャモロを戦闘要員として使っていると、ある時点でユーザーは「おっ」と思うはずです。
 というのは、彼はなぜか、モンスター専用防具である「さんかくぼうし」「スライムメット」「スライムアーマー」を装備できるのです。
 それに気づいたとき、「あれっ? 着られるの?」という軽い驚きがあったはずです。

 本来なら、モンスターでないと着られないはずの、モンスター用の武具。それを何故か装備できて、使いこなせるのが、ゲント族のチャモロ少年なのです。

 ここから類推できる、比較的穏当かつ妥当と思われる想像は、こうです。
「どうも、ゲント族というやつは、魔物と何か関係があるか、もしくは魔物の血が流れているらしいぞ」
 じっさい、そういう想像をしている人は、ネット上で調べてみると何人かいらっしゃるみたいです。

 わたしは、大づかみな方向性として、その意見に賛成です。ゲント族はモンスターと近しいらしい、と。
 賛成なのですが、もうちょっと踏み込んで、こういうところまで言っちゃってみたい。

     *

 この、ドラクエの天空シリーズには、
「よい心を持った魔物が、人間になる」
 という現象が、フィーチャーされているんです。

 たとえばドラクエ5や6の、「魔物が人間と心を通わせあい、人間の味方をしてくれる」というゲームシステムも、その一環ですし、その甚だしい例が、「人間になることに成功するドラクエ4のホイミン」です。
 ドラクエ5には、「住人のほぼ全員が、人間になれた元・魔物」というすごい町が登場します(ジャハンナという町です)。

 だから、「不思議な力を持ち、モンスター武具を装備できるゲント族」というものに接したとき、想像可能ないちばんドラマチックな真相は、こうじゃないでしょうか。

「ゲント族は、はるか昔に、人間になることに成功した魔物の末裔である」

 だから、閉鎖的な文化を持っていて、普通の人間にはない不思議な力がある。

 だとすると、彼らが信仰している「ゲントの神」というのは、彼らの最初の祖先、ルーツではないか、という想像をすることができます。
 すなわち、「ゲント」という名前を持った魔物がいて、人間になることに成功した。そして繁栄し、一族を形成した。
 ゲント族はゲントのことを、神様としてあがめるようになった。
 そんな感じかもしれません。

 そして、もう一つ、想像を進めてみます。
 思い切って、こういうことを決め打ちしたいんです。

 ゲント族とは、どういう民族だったか。
 それは、癒しの術を使うことができる特別な民族でした。
 ゲント族の宝、ゲントの杖はどういう杖だったか。
 それは、癒しの魔法が封じられている杖でした。

 このシリーズには、魔物が人間になりたがる、という物語がフィーチャーされています。
 そういう魔物として初めて登場したのはドラクエ4の「ホイミスライムのホイミン」でした。
 ドラクエ6にも、人間になりたいホイミスライムのホイミンが登場しました。
 ホイミスライムは癒しの魔法を使うスライムです。

 だから、こうなります。

「ゲント族は、はるか昔に人間になりたいという夢を抱き、そして人間になることに成功したホイミスライムの末裔である」
「ゲントの神の正体は、《人間になる》という偉業に成功した偉大なホイミスライムである」

 よくよく思いだしてみると、チャモロがなぜか装備できるスライムアーマーやスライムメットは、「スライム系モンスターの」専用装備でした。
 そして、チャモロ専用武器「ゲントの杖」ですが、じつはチャモロ以外にも装備できる者がいるんです。
 ゲントの杖は「スライム系モンスターも」装備できるのです。

●ホイミスライムの夢

 だから、こんな物語なんです。

 はるか昔に、やさしい心を持った(そう、「gentle」な)、偉大なホイミスライムがいたのです。名前を「ゲント」といい、彼は「ボクも人間になりたいなー」という願いを抱いたのでしょう。

 その夢を神様が叶えて、ホイミスライムのゲントは人間になることができました。

 人間になったゲントは、人間と結婚して、子孫ができて、やがて村ができます。
 一族は「ゲント族」として繁栄していきました。
 ゲントの子孫たちは、ホイミスライムの魔力をうけついでいました。ホイミスライムは治癒の魔力を持ったスライムですから、ゲントの一族は、癒しの術を使うことができました。
 ゲント族は、治癒のわざを極めた不思議な人々として、ときに畏怖されたり、または尊敬されたりしていったのでした。

 そのようにして、時は過ぎ、世代も移り変わっていくのですが、魔物たちの群れの中にときおり心優しいホイミスライムがいて、
「人間になりたいな」
 と天に願っていることは、時を超えても変わらないのです。

 だから、ドラクエ6では、ホイミンが「空を飛びたいな、人間になりたいな」と願って冒険を繰りひろげ、さらに時代の下ったドラクエ4では、やっぱりホイミンが、「人間のお供をしたら、人間になれるかな?」と思いついて、戦士ライアンの従者となる。

 そういう、「時の流れの中で、それでも変わらないホイミスライムたちの夢」という物語が、伏流水のように横たわっていることを、発見できるのです。

●余談・提示されざる物語

 まえまえから、さりげなくささやいていることですが、ドラクエって、「はっきり提示される謎」と、「提示されない謎」があると思うのです。
 たとえば、「ラゴスの行方はいずこ?」とか「金の鍵を持っているのは誰?」というのは、前者の例です。
 ドラクエは、「町の人々から聞いた情報を組み合わせて、謎解きをする」ゲームですから、町の人々にたんねんに問い合わせていけば、答えは出てきます。

 でも「提示されないけれど、そっと仕込まれている謎」というものが、ドラクエには確実にあります。
 たとえば、「チャモロがスライム装備を身につけられるのは何故?」といった謎。
 こういうタイプの謎には、はっきりした答え合わせはありません。

 でも、この謎を「あ、謎だ」「これは出題じゃないか?」と認識することができれば、「癒しの民であるゲント族」「魔物は人間になれるという展開」「人間になりたがるホイミンたち」「ジャハンナの元・魔物たち」という「町の人から聞いた情報」を組み合わせることで、(当たっているかどうかはともかくとして)ひとつの答えを出すことはできるのです。

 閑話休題。

●「異類婚」というさいごのカギ

 さて。
 以上の謎解きをもとにすると。ゲント族は、ホイミスライムと人間との結びつきによって生まれた民族です。つまり人と魔物との異類婚によって発生した民族、ということになります。

 ここで我々は、「異類婚」という、重要なキーワードを手に入れることができました。

 この「異類婚」というキーワードを持った状態で、ふと、シリーズ全体を振り返って見るのです。
 言うなれば、さいごのカギを持った状態で、今まで訪れたことのあるお城をもう一回見て回って、宝物庫を開けてみよう、というようなものです。

 すると。

「ああ! ドラクエの天空シリーズって、振り返ってみると《異類婚》のオンパレードだったじゃないか!」
「天空シリーズって、ほとんど全部《異類婚》のキーワードで説明できるじゃないか!」

 という重大な気付きがここで手に入るわけです。

 そのことについて、次回語ります。

(続く)

■続き→「ドラクエ6」が本当に目指したもの(4)マスタードラゴンの両親

2012年9月22日 (土)

「ドラクエ6」が本当に目指したもの(2)夢を叶えたホイミスライム

 ※注:「ドラクエ6」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 普通の人にはついていけないトコロまで走っちゃう可能性があります。小説版、外伝等は参照しません。

 順番にお読み下さい。
「ドラクエ6」が本当に目指したもの(1)バーバラと竜


●前回のまとめ

「ムドーの城の黄金竜は、バーバラなのか、バーバラではないのか」

 という問題に対して、

「当初の予定では、黄金竜はバーバラであったが、そのストーリーを明示的に語ることが断念された。だから、どっちともとれる表現になっているのだ」

 という仮説を立てたところまでが、前回でした。

 ドラクエ6って、どうしてこう全体的にあいまいで、断片的で、わかりにくいのか。
 という疑念に対する答えは、全部こんな感じでいいと思います。

 ドラクエ6には、制作当初には、「つじつまの合った、ハッキリしたストーリー」が用意されていた。それを語っていく方向で最初は作られていたんだけれども、途中で、
「こんなにハッキリ語ることはやめよう」
 というふうに、方向転換がなされた。
「ハッキリ語らない」ようにするために、断定表現がカットされた。
 それによって、情報が制限され、表現はあいまいなレベルに抑制された。すると、元のストーリーを構成していたパーツが断片的に残った状態となり、漠然としたイメージだけが伝わる物語となった。

 そのように考えると、
「どうしてドラクエ6って、こう曖昧でぼんやりしたお話なのか」
 について、納得がいくのです。

 何で「ハッキリ語ることが断念された」のか、その理由については、ひとまず、後回しにします。

「じゃあ、だとしたら、本来ドラクエ6は、どんな物語が想定されていたのか」

 ということを、これからおいおい考えていこうというのが、この一連のエントリの趣旨です。

●インタビューが提示する大事なこと

「本来語られるはずだったものが、いくつかカットされ、表現が曖昧な方向に抑えられているな」

 というのは、SFC版ドラクエ6を私が最初にやったときから、漠然と感じ取れていましたが、最近、そのことを裏打ちしてくれる堀井雄二さんの発言を見つけました。

 ネット上で、ドラクエ6に関する情報をさぐっていたら、堀井雄二さんの雑誌インタビューをスキャンしたものを拾いました(あまり良い拾い方じゃないですね)。出典がちょっとわからないのですが、おそらくドラクエ6発売当時の「ゲーム批評」ではないかと推測されます。「堀井雄二 今だから語れるドラゴンクエスト」というタイトルのインタビュー記事です。
(あとで国会図書館に行って、原文にあたってきます)

(■追記・原文にあたってきました。このインタビューは『ゲーム批評 Vol.8 1996 APRIL』に掲載されているものです)

 堀井さんは、こんなことを言っています。

堀井:「6」って、僕の中でいえば、天空城ができたいわれみたいな程度のつなぎなんですけどね。夢の世界が消えてお城だけが残った、という。「3」ほど具体的に何もいってないですけども。あとはやる方の想像にまかせようと。
編:最初にミレーユが笛を吹きますが…。
堀井:あれについていろいろ作ろうと思ったんですよ。だんだんその時間とメモリがなくなってきて、最後の方にお城のじいさんにもらったということにしちゃったんです。最初の設定では、バーバラがドラゴンになるというのもあったんですけれどもね。
編:バーバラだけはパーティからはずせないんで、絶対何かあると思ったんです。
堀井:本当はバーバラとドラゴンと笛の三つのテーマのお話が一本裏にあったんですけど、なくなってしまった(笑)。
編:もったいないですね。
堀井:バーバラ自体、カルベローナが滅んじゃって、精神体だけの存在ですよね。だから住むところは夢の世界というか、天空城しかないということで。
編:それでドラゴンになって、一つの体を得るんですか。
堀井:その辺で、バーバラがマスタードラゴン(笑)という話もあるんですよね。そこまでいっちゃうと逆にちんけになるような気がして、あえていってないんですよ。
(中略)
その辺どこまで書くかという問題があって、書くことは出来るんですけれども、饒舌になってしまうし、それでは想像して楽しむという要素がなくなってしまうというのがありまして、匂わしてるのが必要なんです。

「SPECIAL INTERVIEW 堀井雄二 今だから語れるドラゴンクエスト」(ゲーム批評 Vol.8 1996 APRIL)
(原文ではローマ数字で書かれているところを、可読性を優先し、アラビア数字に変えました。下線は引用者によるもの。それ以外は原文ままです)

「最初の設定では、バーバラがドラゴンになるというのもあった」とおっしゃっていますね。つまり、バーバラは竜、という想定で、物語が作られていた。これはどうも間違いないようです。
 どっかの段階で、それはなくなった。少なくとも「明示しない」という判断がなされた。
「ドラクエ6は、天空城ができたいわれを語る物語である」と、制作者がハッキリ意識していることも、重要なポイントです。

 このインタビュー(の、この部分)で語られている重要なポイントを抜き出して、以下のようにまとめます。

・(ミレーユの笛のシーンに関して)初期設定では、バーバラがドラゴンになっていた。
・本当は「バーバラ」「ドラゴン」「ミレーユの笛」という三つのお題によるバックグラウンドストーリーが展開されるはずだったが、なくなった。
・ドラクエ6は、天空城(とマスタードラゴン)の誕生秘話である。

 このようにまとめられるはずです。

 バーバラは竜になれる。このことはすでに検討済みです。これはこのまま納得しても良いでしょう。堀井さんご本人がそう言っているのですしね。
 天空城とマスタードラゴンの成立秘話である。これもたいていの人が納得するでしょう。これもOKです。

 その両者の中間に、「バーバラ、ドラゴン、笛」の三題噺が展開するはずだったんだ、というのが、最重要ポイントです。

 つまり、

 バーバラがドラゴン化するシーンから物語が駆動し始めて、「バーバラ、ドラゴン、笛」という三題噺がストーリーとして展開していき、その結果、「天空城とマスタードラゴンが誕生する」という結末が得られる。

 ドラクエ6は、本来、そういうストーリーが予定されていた(でも、なくなった)。
 インタビューから、そのようなことを読み取ることができます。


●時間や容量だけではない

 本来のストーリーがカットされた理由を、堀井さんは「容量と製作時間の都合」としています。そういう事情もあるでしょうが、それだけではないはずです。
 このことは気をつけておきたいし、注意を喚起したいところです。
 本当に容量と時間の問題だけで、「断腸の思いであきらめた」のであったら、リメイクのときに元に戻したって良いのです。
 でも、そういうことはなされていない。
 なされていないということは、「ドラクエ6は、このかたちで良いんだ」と制作者側は思ってるってことになります。

 ……まぁ、ひょっとして思ってないかもしれませんが、ここでは、そう思ってるっていうことで話を進めます。

 単に容量や時間の問題だけではない。そうではなくて、
「このお話は、ちょっと、言わないでおいて、匂わすだけにしといたほうが良いな」
 という判断が絶対に加わっているのです。
「そこまでいっちゃうと逆にちんけになるような気がする」という発言に注目したいところです。これは、バーバラドラゴン説の一カ所だけのことではなくて、物語全体を通して言えることだと思うのです。
「言い過ぎると、物語はちんけになる」
 という判断基準を堀井さんは持っていて、そういうさじ加減を非常に重要視しているんだ、ということを読み取ることができます。

 このことは重要だと思うので、後でまた取り上げることにします。
 話をもう少し先に進めましょう。


●「夢は現実になる」というささやき

「ドラクエ6は、当初どんな物語が予定されていたか」
 を考えるための土台作りとして、まずホイミスライムの話から始めたいのです。

 ドラクエ6は、ごくさりげなく、控えめにですが、「夢はかなうんだ、現実にできるんだ」ということをささやいている物語です。

 ドラクエ6序盤は、悪の怪物ムドーに脅かされている国が舞台です。ムドーはこの国を脅かしていますが、誰一人としてこれを退治することができなかった。
 ムドーは、夢の世界と現実の世界、その両方に存在していて、両方の世界を脅かしていました。

 主人公は、まず夢の世界で、ムドーを倒すことに成功しました。夢の世界は、人々の「こうだったらいいのに」という願望をかたちにした世界です。そういう世界で、人々の夢を背負った主人公が、力を合わせて、ムドーをやっつけた。
  無敵で不死だとしか思えないムドーだけど、そうじゃないはずだ。夢の世界で、あんなふうにムドーを倒すことができたのなら、現実でも、きっと、ムドーを倒すことができるはずだ。
 そして現実世界でも、人々はムドーを滅ぼすことに成功するのです。

「あの夢でのできごとは、現実でも再現できるはずだ」そう、「夢は現実にできるはずなんだ」という基調が、ドラクエ6にはあるのです。
 同様の、夢と現実を照らし合わせるような展開は、この後いくつもリフレインされていきます。
(これを、「夢はかなうんだ!」っていうような陳腐なコトバでは決して言わないところが、堀井雄二さんの良いところですよね。センスがいいよね)

 さて、それをふまえて。
 DS版のドラクエ6に、とんでもなく重要なイベントが追加されました。

●ホイミン登場

 それは、
 ホイミスライムのホイミンが、主人公たちの仲間に加わってくれるというイベントです。

 ホイミスライムはモンスターです。本来は悪役なのですが、かわいい外見をしています。フワフワと空中を浮遊して移動し、ケガを治癒する「ホイミの魔法」を唱えることができる、気の良い魔物です。

 DS版ドラクエ6のホイミンは、空を飛びたいな、という「夢を抱いている」ホイミスライムです。
 空を飛んでみたいホイミンは、クリアベールの町にいました。クリアベールは、「空飛ぶベッドの伝説」がつたわる町です。

 ホイミンは、「人間(主人公)と一緒に旅をする」という選択をします。主人公は、冒険の結果、空飛ぶベッドを手に入れて、空を飛びました。
 ホイミンは、人間の仲間になることで、ついに空を飛ぶ夢を叶えたのでした。

 このホイミンが、DS版のエンディングで、重大な告白をするのです。
 実は彼は、もとはホイミスライムではなく、ただの地を這うスライムだったというのです。
 でも、あるとき彼は「空を飛びたいな」と思った。だから、「空中をフワフワ浮遊できるホイミスライムになりたいな」という夢を描いた。そして、夢が叶って、ホイミスライムになることができたのです。
 そんな昔語りを、エンディングで、ホイミンは語るのです。

 ホイミスライムになって、宙を浮けるようになったホイミンは、次に、
「もっと空高く飛べたらいいのに」
 という夢を抱きました。
 主人公に出会って、仲間になって、空飛ぶベッドに乗ることができました。
 それどころか、空飛ぶカーペットにも乗ることができましたし、天馬ペガサスに乗って天空を駆ける経験さえもしました。夢が叶いました。

 そんなホイミンは、「新しい夢ができた」と言うのです。
「こんどは、人間になってみたいな」
 DS版ドラクエ6のホイミンは、そんなことを言うのでした。

     *

 ドラクエの「4」をやったことのある人が、これを読んだら、「あっ」と思うはずです。
 ドラクエ4には、「人間になりたいな」と思って、人間のお供をする、ホイミスライムのホイミンというキャラが登場するのです。そして「4」の後半で、みごと人間になった姿で再登場を果たすのです。

 だから、天空シリーズを通しでプレイした人は、「もしかして……」と思うのです。
「もしかして、このホイミンと、『4』のホイミンは、同一個体、同じホイミンなんじゃないのか……」

 その一方で、「さすがに時代が離れすぎているだろう」という冷静な判断もあるはずです。ドラクエ6と4は、少なくとも百年単位で時間が経過しているはずです。ですからその場合は、
「たまたま同じ名前のホイミスライムが、同じ願いを抱いたんだなあ……」
 という素敵な偶然に、感じ入ることになります。

 これっていったいどっちなんだろう? という疑問に対しては、答えは簡単です。そんなの、どっちでもよろしい。

 これこそ、インタビューにある、「想像して楽しんでもらうために、匂わすことが大事なんだ」の典型的な例です。どっちもが想定されています。このクエストのシナリオを書いた人は、読んだユーザーが両方を想像することをちゃんとわかっています。そして「どっちなのかなあ」と揺れ幅を持つことまで、きちんと想定しています。
 この「どっちなのかなあ」という幅の中で、ユーザーをゆらゆらさせたいというのが、物語の作り手の考えていることです。

 どっちなのか、ということについては、どっちでも良いんです。
 そんなことよりも重要なことがあります。

 いつの世であっても、たとえ時代は移り変わろうとも、優しい心を持ち「人間になりたいな」という夢を描くホイミスライムたちがいるんだな。

 という、そのことが一番だいじなことだと思うのです。

 なぜ、だいじなのか。
「時代を超えて、人間になりたいホイミスライム」
 というキーワードを設定すると、ドラクエ6に出てくる「ゲント族」について、面白いことが言えるようになるからです。

 ということで次回は「ゲント族の正体」について。

(続く)

■続き→「ドラクエ6」が本当に目指したもの(3)ゲント族の正体

2012年9月21日 (金)

「ドラクエ6」が本当に目指したもの(1)バーバラと竜

 ※注:「ドラクエ6」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 普通の人にはついていけないトコロまで走っちゃう可能性があります。小説版、外伝等は参照しません。

●ドラクエ6は、本当はどうなるべきだったのか

 ネットゲームになったドラクエ10が話題になっている今日このごろですが、私は10をやらずにドラクエ6のことをねぶねぶと考えていました。
 ねぶねぶ考えていたら、だいたい、「ドラクエ6の正体」というか、謎解きがわかってきましたので、これからしばらく書きつらねてみたいと思います。
 以下、一連のエントリは、ドラクエ6をやったことがないと、まず理解できない話になっていきますが、ご容赦ねがいます。

     *

 ドラクエ6は、私はかなり好きなゲームです。ドラクエの4、5、6はまとめて「天空シリーズ」と呼ばれていますが、その3作の中では、4と6が同率で良い。その2つと比べると5はいくぶん落ちると思います。
 世間の評価とはちょっとずれてるかもしれませんね。ついでにいいますと、なんと! わたしは フローラ派です

 ドラクエ6って、ネット上では、ほとんど「駄作」に近い評価をされていることがあります。
 そこまではっきり切り捨ててはいなくとも、
「何が起こっているのかよくわからない」
「とっちらかったお話」

 という感想を持った人が、多いようです。

 それは、その通りなんです。

 ドラクエ6には「現実の世界」「夢の世界」という、2つのフィールドがあって、主人公が行ったり来たりする構成になっている。
 現実の世界で失われてしまった大事なものが、夢の世界にはまだ残っていたり、現実では不幸になってしまった人が、夢の世界ではしあわせに暮らしていたりする。
 それで、夢の世界の宝物を現実側に持ち込んで事件を解決したり、現実世界の問題を解決することで夢の世界の活力を取りもどさせたりする。
 そういう趣向になっています。

 そういう趣向になっているものだから、行ったり来たりしているうちに、
「今、自分はどこにいるんだ?」
 ということがわからなくなり、混乱してしまって、
「なんか、よくわからないから、もういい!」
 という気分になってしまいがちです。(私も、初回はそう思いました)

 しかも、ストーリー的な説明が、だんぜん、足りないのです。
 ただ単に情報が足りないだけではなくて、

「明らかに、背後で何か統一感のある物語が動いている気配がするのに、説明が足りなさすぎて、何が起きているのかわからない」

 という状態になっているものだから、フラストレーションがたまる。

 だけれども、作中のいくつかの情報をつなぎあわせて、想像力でおぎなって、方向性を与えてみたら、ある程度統一感のあるストーリーが見えてきました。
 その想像したストーリーが、なかなか魅力的だと思えたので、皆様にお知らせしたいと思います。

 といっても、現行のかたちで公開されている「ドラクエ6」の謎が解けたということではないのです。
 そうではなくて、

「ドラクエ6は、本来、どういう物語になるはず(予定)だったのか」

「どうしてそれが、断念されたのか」

 そういう設問の立て方をして、その方向で考えたら、だいたいわかったように思えたのです。
 そして、「本来こうなるはずだったドラクエ6」をふまえて描写をみていくと、ドラクエ6で不思議だったり説明不足であったりするように思えた部分がわかると思うのです。

 そういうことを、これからしばらく語っていきます。


●前提共有・二つの謎

 まず、前置き的に、前提条件として2つの謎を提示しておきます。
(この謎に答えることはべつに本論ではありません。ただの前提共有です)

 ドラクエ6には、大きく、2つの謎があって、ユーザー間でいまだに議論されています。

 ひとつが、
「ドラクエ6は、ドラクエ4と5から見て、過去の時代を描いた物語なのか?(つまり、同一の世界を扱った物語なのか?)」
 ということ。

 もうひとつが、
「ムドーの城に渡るときに、突然現れて、背中に乗せてくれた金色のドラゴンの正体は、バーバラなのか、そうではないのか」
 という謎です。

●ドラクエ4・5とのつながりはあるのか

 ドラクエ4と5(つまり天空シリーズ前2作)には、「天空の武具と天空城」というフィーチャーが、ありました。天空の武具を4つ集めると、空飛ぶ城に行くことができる。そこには、天空の竜神マスタードラゴンがいる。

 ドラクエ6には、天空の武具という名前ではなくて、「伝説の4つの武具」があります。そして、その4つを集めると「ゼニス城」という夢の世界の城にゆくことができます。 このゼニス城には、ドラゴンはいないのですが、形状や内部構造が「天空城」とまったく同一です。そしてゼニス城は、ドラクエ6のエンディングで空を飛び始めるのです。

 このことから、
「ドラクエ6は、4や5よりはるか昔の(しかし同一世界の)物語ではないか」
「伝説武具は天空武具の過去の姿。ゼニス城は天空城の過去の姿ではないか」
「これは、天空城がどうして空を飛び始めたか、という説明のエピソードではないか」

 ということが類推でき、通説となっていました。

 ついでにいえば、
「ドラクエ6のエンディングで、《未来の卵》から生まれ出てきたものとは、マスタードラゴンその人ではないか」
 とも言われており、これも通説となっています。

 通説になっていますが、その一方で、「違う。ドラクエ6は、4や5とつながっていない」という説を唱える人も、ときどきいます。

 しかしこの問題は、リメイクされたDS版ドラクエ6で、解決されました。「ドラクエ6は、4や5よりも過去の世界である」「歴史の順番は、ドラクエ6→4→5である」ということが、ほぼ明言されたのです。
 DS版には、クリア後に、「この世界の近い未来を見る」「この世界の遠い未来を見る」ということができる場所があります。
「近い未来を見る」と、そこには、ドラクエ4の登場人物たちが現れて、話をすることが出来ます。
「遠い未来を見る」と、そこにはドラクエ5の登場人物たちが現れて、同様に話をすることができます。

 ですから、ドラクエ6→4→5は、同一世界であって、時間の流れはこの順序だということは、ほぼまちがいなくなりました。タマゴから生まれたのはマスタードラゴン、というのも、ほとんど確定でよろしいでしょう。

 では、黄金竜とバーバラの関係はどうでしょう。

●バーバラはドラゴンなのか

 ドラクエ6の序盤には「ムドー」という悪役がいて、孤島に城塞を築いて悪だくみをしています。
 主人公たち一同は、ムドーをやっつけよう! ということで、船に乗って孤島に向かうのですが、仲間の一人である少女バーバラは、突然「私は船に残る」「みんなで行ってきて」と言い出すのですね。
 それで、バーバラを除いた主人公たちご一行は、ムドーの城まで近づいていきます。しかし、城は切り立ったガケの向こう側にあり、徒歩ではたどり着けないようになっています。それ以上進めません。

 ここで、仲間の一人である美女ミレーユが、突然、土笛を取り出すのです。
「もし言い伝えが本当ならこの笛で…」
 かなんか言い出して、笛を吹きます。

 すると、どこからともなく、金色に光りかがやくドラゴンが飛来して、一行を背中に乗せてくれるのです。ドラゴンは彼らを乗せて、ムドーの城へと運んでくれて、そしてまたどこへとも知れず去っていきます。

「バーバラはなぜか、一緒に行かない」
「いきなりどこからともなく、黄金のドラゴンが現れる」

 この2つの条件を重ね合わせたとき、
「あの黄金のドラゴンの正体は、バーバラだ。笛が吹かれたとき、船に残っていたバーバラは人知れず竜に変身して、仲間を運ぶために飛んできたのだ。だからバーバラは一緒に行かなかったのだ」
 という背後のストーリーが、見いだされるわけですね。

 ゲーム後半、魔法都市カルベローナに行くと、このストーリーを補強するような情報が手に入ります。

*「私たちは 肉体から 精神をときはなつことが できます。

*「それぞれの まほうりょくにもよりますが その肉体を べつの物に変身させることも できるのです。

*「いだいなる 大魔女 バーバレラの血を引く バーバラさまならきっと ドラゴンにでも…

 バーバラは大魔女バーバレラ(魔法都市カルベローナの始祖)の血を引いているから、きっとドラゴンにでも変身できる、というのです。

 しかしながら、一方で「バーバラは竜なんかじゃない」「黄金竜とバーバラは何の関係もないと思う」という人も、ドラクエ6のファンの中には、いるのです。
 バーバラが黄金竜だったら、いろいろつじつまが合う気はするけれど、ほとんど「ほのめかし」程度の情報しかないから、全然はっきりしない。
 はっきりしないから、想像するしかない。想像するしかないから「そうだ」と思う人もいるし「そうじゃない」と思う人もいる。そして結論は出ない。ドラクエ6って、そういう状況になっています。このことは、リメイクのDS版が出ても変わっていません。

 これは、「どっちが正しいのか」と言われれば、私は「黄金竜の正体はバーバラです」とするほうがしっくりくる(ストーリーとしても魅力的)と思います。

 けれどもまあ、「どっちが正しいか」という問い自体が、ナンセンスといえば、ナンセンスです。だって、どっちともとれるように、わざとそういう語り口になってるんですからね。

 とはいえ、「まーどっちでもいいしー」という態度は、それはそれで投げやりです。思考停止になってしまいますしね。
 ですので、考えを先に進めるために、「正しいか正しくないか」ではない、もう少し方向性の違う問題設定をしてみたいのです。

●「物語が断念された」という仮定

 こういう問題設定をしてみたらどうでしょう。こんな仮説です。

■ドラクエ6は、当初は「バーバラが竜になってムドーの城に連れて行ってくれる」というストーリーが想定されていた。
■しかし、そういう物語としてハッキリ語ることが、断念された。
■だから、「バーバラは竜かもしれないと思えるし、単なる考えすぎとも思える」というくらいの状態に、表現の後退がなされた。

 つまり、最初は完全に「バーバラは竜です」という話にするつもりだったんだけど、途中で堀井さんが「やっぱやめようか」と言い出した。少なくとも、ハッキリ「竜です」って言うのはやめようってことになった。だから、どっちともとれる、あいまいな扱いになっちゃってる。
 そういう感じなんじゃないか。そう考えると、いくつものことが、同時に説明がつくんじゃないか。

 どうしてそう言えるのか。
 もしそれが言えるとしたら、どうなるのか。
「ドラクエ6」って、本当はどういう物語になるはずだったのか。

 ということを述べるのが、今回の一連のエントリの目的です。

 次回から本論にはいります。

(続く)

■続き→「ドラクエ6」が本当に目指したもの(2)夢を叶えたホイミスライム

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