ウルトラマンより強きもの、それは
BSで再放送されていた「帰ってきたウルトラマン」を1年かけて全部見た。現代の目で見るとさすがに厳しい部分があるわけだけれど、それでも面白かった。「11月の傑作群」は確かに名作だった。そして「エヴァンゲリオン」と「パトレイバー」のルーツであるという目で見ていって、その部分も面白い。「帰ってきたウルトラマン」と「エヴァンゲリオン」を両方見ると、庵野監督がアマチュア自主制作したのがなぜ「Q」でも「マン」でも「セブン」でもなく「帰ってきたウルトラマン」でなければならなかったのか、という点に納得がゆく。
ところで、「帰ってきたウルトラマン」最終回に登場する怪獣はゼットンだった。ゼットンは初代ウルトラマンの最終回に登場する怪獣だ。そしてなんと、ゼットンは初代ウルトラマンを殺してしまう。ウルトラマンを倒した怪獣を創意工夫によって人間がやっつける。そして、「これからは人類自身が人類を守っていくのだ」という感じで初代ウルトラマンのお話はおわる。
ゼットンというのはウルトラマンよりも強い最強の怪獣だ。「帰ってきたウルトラマン」でも、最終回はゼットンが現われる。物語はウルトラマンに最大のピンチを用意したわけだ。
この「ゼットンはウルトラマンより強い最強の怪獣である」というのが、話のポイント。
ゼットンの外見は、このような感じである。
この怪獣をデザインしたのは成田亨というアーティストです。
だいたい定説というか、公式な説明では、成田亨先生は、カミキリムシと西洋の甲冑のイメージを融合して、この怪獣を生み出したとされている。
が、以前からぼくは、このゼットンという怪獣に、何か気に障る、違和感のようなものを感じていました。
今回、番組を見ていて、その違和感の正体がわかったというか、「気付いた」ことがありました。
それはこうです。
「ゼットンは女性だ」
この怪獣はきっと雌なんだな。というか、宇宙からやってきた怪獣にオスメスがあるかどうかはわからないんだけれど、デザインとして、あきらかに「女」であることがイメージされていると思う。
ふつう、巨大で強力であるというイメージを伝えようとする場合、ボディビルダーのような逆三角形の肉体が選ばれそうなものだ。
けれどもゼットンは、肩まわりはすっきりと細くて、なで肩で、そのかわり、腰にまるっこくボリュームがついている。逆三角形ではなく正位置の三角形だ。
なんというか「オカン」みたいというか、ちょいと太りじしの中年女性みたいな体型をしている。
胸についている左右一対の発光体は、これは、乳房をイメージしたもの。
そして、顔についている発光体は、「縦に切れている」。これはもう、はっきり言わなくてもおわかりでしょう。キャラクターを表わす最大の要素である顔が、あれなんだ。
ウィキペディアのゼットンの項によると、「デザイナーの成田亨は最強の怪獣という注文を受けた」という記述がある。
想像になるが、成田亨はデザインの発注を受ける際、
「この怪獣はウルトラマンを倒してしまうんだ。だからその強さに見合ったデザインが欲しい。最強の怪獣を作って欲しいんだ」
といった説明を受けたんじゃないだろうか。シナリオを手渡されて読んだかもしれない。
ウルトラマンを倒す、ウルトラマンより強い最強の怪獣……。
そこで、成田亨はこんなことを考えたのではないかと想像する。
ウルトラ「マン」という究極の男性性をしのぐ強さとは、「女性性」である。
だから、女性をモチーフにした外見をデザインする。しかし、「ゼットンは女なんですよ」ということをおおやけにすると、少年たちが見ているヒーロー番組としてはいささかさしさわりがある。さらにいうと、いったん気付いてしまうとあまりにもあからさまに何かを語ってしまういくつかのパーツが問題になりそうだ。
そこで、女性をイメージしたということは伏せられる。「カミキリムシ」「西洋甲冑」という、あたりのいい説明だけがなされる。
ということに気付き、これはいろんな人がすでに指摘しているのではないかと思ったので、ネットで検索してみたのだが、このことを論じている人はいなかった。
が、これに今まで誰も気づかなかったわけはない。怪獣ファンの皆さんは、おそらく一様に、「このことはウルトラマンを楽しむにあたってノイズになりかねないから、あまり大声で語らないようにしよう」という判断をなさっているような気がする。怪獣映画というのは、ちょっとした無粋によってこわれてしまうのを、みんなでそっと守り続けていくような、そういう手触りのジャンルであるように外からは見えるのである。
余談。ラジオパーソナリティーの鷲崎健さんが、「子供のころ、ゼットンの怪獣消しゴムを持っていた。胸のところにピンクのペンで点を描いたらめちゃめちゃ興奮した」というエピソードを語っていたのを今思い出した。その感覚は理解できるし、正しい。
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