四角いタコ焼き(上海人形の消失)
たぶん7~8年くらい通い詰めたバー上海人形が閉店してしまった。カクテルが本当においしい数少ない店だったのに。こうなると眠れない日をどう始末したものか本気で困ってしまう。いくつかのオリジナルカクテルだってどうすればいいのだ。
いや、酒以上に問題なのはタコ焼きだ。
バーなのにタコ焼きが名物の上海人形のタコ焼き。あれは他の店にはちょっとない珍しいタイプのタコ焼きで、カリっとかじるとポシュっとつぶれてトロっと出てくる。え、上海のタコ焼きもう食えないの? えーっ。
というガッカリした気分を抱え、たまにタコ焼き屋の前を通りがかるとなんとなく悲しい気持ちになるという日々を送っていたある日、たまたま喫茶店でモーニング連載のクッキングパパを読んだ。ご家庭では、タコ焼き用の鉄板がなくても、玉子焼き器に生地を流し込むことにより、丸くないタコ焼きを作ってしまえばよい、という内容だった。
おう、それは盲点だった。
急に、ロボット三原則ならぬ「男の子三原則」のひとつがピコーンとネオンのように頭の中で光り出した。すなわち、「なければ、作れ」。よし、作る。
実は、だーいぶ昔、マスターからタコ焼きの生地の配分を、こっそり聞き出しておいたのだ(聞けば教えてくれちゃうところが凄い)。しっかりメモしてある。その他の材料も作り方を見ていたからだいたいわかる。専門道具と腕前以外のものは自前でそろえることができる。
玉子焼き器に流し込む。
ひっくりかえす。
けっこう半信半疑で作っていたのだが、わりあいおいしそうに焼けてくるのでびっくりする。
さて、味はどうか。
うまい。
味付けは問題なく再現できていると思う。
と思うのだが……やはり、丸いやつが食べたいな。味は悪くないのだが、丸いやつがいい。その思いが新たになってくる。
それはなにも、食べ慣れた可愛いカタチのやつがいいなーといった、「ウチの味噌汁が一番」的な意味で言うのではない。
四角い玉子焼き器は、下からしか加熱されないのだ。
だから側面はどうしても、焼かれないまま、切り口そのままになってしまう。
あの、丸いくぼみで作る丸いタコ焼きは、焼き面が半球であるから、底からも、側面からもまんべんなく加熱される。
だから熱の力をまんべんなく吸収し、外側は焼き色がついて皮になり、中身にとろっと熱がたまってくれる。
昔の道具でいえば、かまどにかける釜だって、フロの釜だって、底は半球だったのだ。なるほど、そういうことだったか。あの形状は。
タコ焼きというのは、なにもハッタリでああいう球状を作っているのじゃァ、ない。あれは効率的に火を通すための合理的帰結であったのだ。手を動かしてみると、メカニズムがわかる。そこにあるものの意味が理解される。エンジニアリングである。
さて、タコ焼きの鉄板っていくらくらいするのかな……。
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