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加納新太

  • 職業は著述家・作家・脚本家。自称では「物語探偵」。

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    君の名は。 Another Side:Earthbound
    新海誠監督の映画『君の名は。』の小説版です。新海監督執筆の『小説 君の名は。』が、映画と同じストーリーラインを追うのに対し、こちらでは、短編集形式で登場人物を掘り下げをしています。「これを読むと映画の内容がすんなり理解できる」と角川の玄人衆から高評価を受けました。リアル書店では見つけにくい本のようなので、取り寄せ等の対処をお勧めします。

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    月刊ヤングエース(角川書店)連載中の漫画『いなり、こんこん、恋いろは。』(よしだもろへ)の小説化です。この作品に惚れ込みました。表紙はよしだ先生に描いていただけました。幸せです。

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    RPG「シャイニング・ブレイド」の小説版です。サイドストーリーを集めた短編集です。主人公レイジとヒロイン・ローゼリンデが初めて出会うエピソードも収録されています。

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    トレーディングカードゲーム「アクエリアンエイジ」の小説版です。公式Webサイトでの連載に加筆修正したものです。

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    小説 劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH
    週刊少年サンデーで連載中、畑健二郎作「ハヤテのごとく!」が劇場アニメになりました。その小説版です。私はこの漫画が大好きで、書けて幸せでした。

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    秒速5センチメートル one more side
    映画『秒速5センチメートル』のノベライズです。新海監督版の内容を逆サイドから描いた物語になっています。第1話がアカリ視点、第2話がタカキ視点です。第3話は交互に入れ替わって展開します。

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    シャイニング・ハーツ やさしいパンの薫る島
    RPG「シャイニング・ハーツ」の小説版です。原作の物語のサイドストーリー的な位置づけです。3人のヒロインは全員登場し、ゲームでは出番の少なかった海賊ミストラルも活躍します。牧歌的でやさしく、すべてが満ちたりた世界を書こうと思いました。満足しています。

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    fortissimo//Ein wichtiges recollection
    シナリオを担当しました。PCゲーム「fortissimo」のコミック版です。本編のサイドストーリーです。原作:La'cryma、漫画:こもだ。

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    世界めいわく劇場スペシャル
    全編ギャグのドラマCDです。シナリオを書きました。こういうのも書けます、というかこっちが得意技です。守銭奴の人魚姫、腐女子のマッチ売り少女、百合ハーレム状態の白雪姫、全ての言動が破滅的なシンデレラ、などが世界の名作童話をむちゃくちゃに解体します。役者さんにはほとんど無茶振りともいえる「一人最大9役」を演じていただいています。

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    シャイニング・ウィンド -アナザーリンク- 鬼封じの剣士
    RPG「シャイニング・ウィンド」の小説版です。ゲーム本編のノベライズではなく、主人公たちの過去の物語を書きました。自分に伝奇小説が書けるか、ジェットコースター型の展開が書けるか、というのが、個人的なチャレンジでした。ありがたいことに、かなり好評を博しています。

  • : シャイニング・ティアーズ to ウィンド 姫君たちの冒険

    シャイニング・ティアーズ to ウィンド 姫君たちの冒険
    RPG「シャイニング・ティアーズ」「シャイニング・ウィンド」の短編集です。基本的に、原作の物語がスタートする前を舞台にしています。いわゆるプレ・ストーリーです。エルウィン、マオ、ヴォルグ、ブランネージュ、クララクランが登場します。

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    ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる
    原作/新海誠。新海監督のデビュー作を小説化したものです。少女視点の「あいのことば」、少年視点の「ほしをこえる」の二部構成となっています。表紙はブルーの箔押しで、美しいデザインです。『雲のむこう、約束の場所』と並べてみると、帯込みで対比的になるようにデザインされています。

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    シャイニング・ティアーズ 神竜の剣
    RPG『シャイニング・ティアーズ』の小説版、続編です。単独の本としても読めるつくりになっています。作者としては、前作よりも納得のいく出来です。勇ましい物語です。

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    雲のむこう、約束の場所
    原作/新海誠。劇場アニメーション映画『雲のむこう、約束の場所』を小説化したものです。装丁がとても美しく、それで手に取った方も多いようです。

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    シャイニング・ティアーズ 双竜の騎士
    セガのRPG『シャイニング・ティアーズ』をもとにしたヒロイック・ファンタジィ小説です。ノベライズです。

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    タウンメモリー
    架空の海辺の街(モデルは藤沢あたり)に暮らす女子高生が主人公の日常小説です。題材的に、少し恥ずかしいなという気分もありますが、気に入っている作品です。

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    アクエリアンエイジ Girls a War War!
    マンガです。トレーディングカードゲーム『アクエリアンエイジ』のキャラクターが毎話ドタバタ暴れて大変なことになります。もとはゲームの遊び方をチュートリアルするマンガだったのですが、いつのまにか趣旨が変わっていました。シナリオを担当しました。絵は『少年陰陽師』のあさぎ桜さん。

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    月姫 アンソロジーノベル〈2〉
    PCゲーム『月姫』を題材にしたアンソロジー短編集、第2巻です。第二話『天へと至る梯子』を執筆しています。琥珀が主人公です。

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    月姫 アンソロジーノベル〈1〉
    PCゲーム『月姫』を題材にしたアンソロジー短編集です。遠野秋葉が主人公の第一話『かわいい女』を執筆しました。

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2024年12月10日 (火)

[HD-2D]ドラクエ3と死の巡礼

 HD-2D版ドラクエ3には、良いところがいくつもある。私がとくにぐっとくると思ったのは、キラキラ採集だ。
 
 キラキラ採集(キラキラ拾い)は、ドラクエでは10から実装された要素で(たぶん)、フィールド上にきらきらと青く輝くポイントがある。
 ボタンを押して調べてみると、さまざまなアイテムが獲得できる。
 
 フィールドをうろうろと歩き回る、という行為に対して、インセンティブを与えてくれるものとなっている。HD-2Dの売りはフィールドの美しさなので、「どうぞ歩き回って下さい、そうしたら利益もありますし」という形を作っているのは納得だ。
 
 ただし、HD-2D版ドラクエ3では、それ以前の10や11のキラキラ採集とはちょっと趣がちがう設定がなされている。
 
 ドラクエ10や11においては、キラキラ採集で獲得できるのは鉱物や植物だった。これを材料にしてクラフト(加工)をおこない、さまざまな有用アイテムを作っていくというものでした。
 
 HD-2D版ドラクエ3にはクラフト要素はほぼないから、キラキラポイントに材料を置くことはできない。なので、武器や防具や、回復アイテムが落ちているという形になっていた。
 
 なぜ武器や防具がそこにあるのかという説明が、きちんと作中にある。あれらは、道中に行き倒れた旅人の持ち物だったものである。あるいは、何らかの理由で持っていけなくなった荷物が置き去りにされたものである。
 そういう先人たちに思いをはせたうえで、ありがたくもらっておいて使いなさい、というようなメッセージが置かれている。このへんすごくいいよねぇ。
 
 じっさい、「前の持ち主」がしのばれるように置いてあるところが、じつにいい。そろばんとまえかけが落ちていたら、「ああ、旅の商人がここで旅を終えたのかな」と思う。鉄の槍と盾が置いてあったら、「戦士かな、もしくは僧侶かもな」と自然に想像できるのです。
 
 この、キラキラで取得できる武器防具が、ゲーム的にすごくありがたいので、私はかなり熱心に採集していました。
 そうしたら、意識がじわじわ変わってきた
 
 当初は、どっちかというと、自分を「お得なアイテムを探すスカベンジャー」のようなつもりでいました。
 だけど、先人たちの痕跡を拾い集めていくうちに、自分のやってることが、
 
「無数の死者たちをしのぶ巡礼の旅」
 
 だと思うようになってきたのです。
 
 志なかばで倒れた先人の姿を、そこに残された武具から想像する。
 そこに、なにがしか祈りのようなものが発生する。
 その武具を装備して、使うとき、彼らの旅の続きを、自分がひきついでいるのだという感覚が生まれる。
 
 自分のやっていることは、さまざまな人の「死のかたち」の収集だ。
 わたしは、進めば進むほど、死の匂いを濃くして、新たな地へと歩を進めるのだ。
 
 そういった感覚が生じたところに、「オルテガのゆくえを探す」という物語が乗ってくる。
 
 ドラクエ3は、「父オルテガが戻らない」という事実から話がはじまる。おそらく死んだのだろうという推定のうえで、その旅をひきつぐために主人公が家を出る。
 
 野山を分け進み、死者の痕跡を探し、祈りに似たものを感じることを繰り返しているうちに、私の意識はこうなっていく。
 
 あの山のむこうに光って見える誰かの旅の遺物は、ひょっとしてオルテガがそこで死んだことを示すものかもしれない。
 
 これは不思議な感覚で、ドラクエ3をこれまでたっぷりやってきたわたしは、オルテガがまだ生存していて、闇の世界を旅している途中であることを知っているのです。
 知っているのに、ひょっとしてここで死んだのはオルテガではないのかという感覚が生じているのです。
 
 これは死者の痕跡をめぐる物語だ。
 
 そして、このストーリーは、地面にあいた大穴に飛び込んで、闇しかない世界へゆき、死の権化が統べる場所へと向かう。
 わたしは死の匂いを少しずつ体にまとわりつかせた結果、死そのものを擬人化したような存在の前に立とうとする。
 その物語の果ての位置に、今まさに死なんとするオルテガを見出すのです。
 
 ここにきてわたしが連想していたのは映画『スタンドバイミ―』でした。この映画の主人公たちは、さまざまな危険な目にあって、それこそ死ぬような思いをして、自分の足で歩いて旅をし、その結果、目指してきた死体を発見する。
 そのいっぽうで、車に乗って、お気楽な音楽なんかをかけて、ご機嫌でやってきて死体を発見した主人公の兄という人がいて、それとの対比が描かれる。
 主人公のようにして発見した死体と、その兄のように発見した死体では、その意味合いが明確に異なっているはずだ、ということが映画で語られる。
 
 少しずつ先人の死の匂いを身体にまとわりつかせて、父の死を目撃して、そのうえで死の権化であるゾーマと直面する物語は、そうでない物語と対比して、肩にのっかってくる何かが明確にちがうなというのがわたしの感触でした。
 
 そのようにして体験の質がちがってきている以上、ここであらわれてきている「主人公像」も、おのずと異なってきていると感じます。
 
 HD-2D以前のドラクエ3の主人公像は、光の世界・生の存在の代表闘士となって、闇と死の権化と戦う、というヒーロー像でした。そういうティピカルなイメージでじゅうぶん間に合う、と考えてきました。
 
 でもHD-2D版の主人公は、こういう造形に見えました。
 
 死を内包していながら、生の存在であろうとする。
 闇を抱えてなお、光であろうとする。
 
 ひょっとするとそれは、FC版のころから、ひそかに握られていたイメージかもしれません。
 闇しかない世界アレフガルドと対置される上の世界は、光しかない世界ではなく、昼も夜もある世界でした。
 それに、死の権化ゾーマと対置される精霊ルビスは地母神、つまり「女である」ことが強調されたキャラクターです。
 世界各地の神話の地母神(生命や、世界そのものを産む存在)は、イザナミもそうですが、死や冥界とのかかわりが深いことが多いのです。女性は出産で死ぬことが多かったり(赤子の生と自分の死を引き替えている)、血を流すからでしょう。
 勇者と同様に、超自然の存在に選ばれた者だとされる「賢者」(賢者は神に選ばれし者、というセリフがドラクエ3にはある)は、シリーズが進むと、「光と闇との両方を内包した者だけがなれる職業だ」という説明が加わっていきます。
 
 HD-2D版の制作者たちが、そういうことを意図してキラキラを置いたかはわかりません。でも、わたしの体験としては、こうなっていました。それをお知らせします。このお話は、死の巡礼のはてに、生を見いだす物語だと。

2024年8月11日 (日)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(9)

 第9回となりました。
 
 当記事は、堀井雄二さんが書いたドラクエ3の制作資料から、(製品版とは違う)初期構想を読み解いていこうというシリーズです。
 
 前回にひきつづき、「ドラゴンクエストカーニバル in 横浜・みなとみらい」にて展示された資料を読んでいきます。
 
 
●ご注意:当ブログの内容を紹介する際は、URLを示し、出典を明らかにして下さい。どこかの誰かが言っていた風説としての紹介・言い回しを変えての自説としての流布をお断りいたします。
 
 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)
 第二回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)
 第三回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)
 第四回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(4)
 第五回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(5)
 第六回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(6)
 第七回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(7)
 第八回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(8)  
 
 ※注:「ドラゴンクエスト」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、情報のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 小説版、外伝等は参照しておりません。
 
 当記事に掲示する画像のうち、再現画像はすべて、「ドラゴンクエストカーニバル in 横浜・みなとみらい」にて展示された制作資料を、私が部分的に再現したものです。画像で示されている内容は、株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者の著作物です。著作権法第32条に基づき、研究を目的とする引用としてこれらを掲示します。展示会場で書き写したため、写し間違いが生じている可能性があります。これらの画像の転載・改変・再配布を禁じます。孫引きも遠慮してください。
 (特記ある場合を除き)テキストによる引用部も出所は同じであり、扱いは同様です。
  
 
■すいしょうだまの効果判明
 
 なんと、あの例の「すいしょうだま」の効果が判明しました。こうです。

2024dq3_suisyoudama

 おお、すいしょうだまは、「魔法使いと僧侶と賢者(つまり魔法職)」が使う「道具」で、効果は「未来のできごとを見る」。使用すると、使用時の状況にあわせてメッセージが表示される、というものだったのですね。
 
 すいしょうだまについては、当シリーズ記事の第一回にて詳しく取り上げています。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1) 
 そこで行った推論としては、
「すいしょうだまは、ストーリー進行にあわせて、《ボストロールが王様を襲う場面》とか《やまたのおろちが娘を食う場面》とかが、再現映像的に表示されるものだったのではないか」
 というようなことでした。
 
 でも、今回の資料を見ると、再現映像みたいなものはさすがに想定されていなくて、文字ベースで何らかのことを語るものだったみたいですね(さすがに容量の問題があって無理だよね)。
 
 たとえば、これは私が想像で書く文言なんだけど、
 
 
 ****は すいしょうだまを じっとのぞきこんだ…
 
 どこかのおしろの おうさまのへやが うつっている
 ねむる おうさまに くろいかげが しのびより…
 きょだいな うでが おうさまに つかみかかった!
 
 すいしょうだまの ひかりは そこでとだえた
 
 
 ……みたいなメッセージが表示されるような感じだったのかもしれませんね。
 
 自分で書いてみて思いましたが、この種のメッセージは長すぎてFC版ドラクエ3にはとても入りませんね。削っても1行減るくらいだろうし、すいしょうだまに必要なメッセージはこれひとつではありませんしね。
 
 FC版ドラクエ3をやるたびに思うのですが、メッセージが極限まで削り込まれていて、もはや俳句か短歌みたいです。「これ以上削ったら物語が支えられない」というくらい、ことばが削り込まれているのです。
 なぜそんなに刈り込まれているのかといえば、それは明らかで、容量が足りないからです。
 
 シナリオ進行にともなって内容がかわるすいしょうだまのメッセージなんて、とてもカートリッジに入らない。ノアニールのすいしょうだまがまるごとなくなったのはそういうことだと思います。
 
 
■キメラのつばさと死のオルゴール
 
 いくつかのアイテムをかんたんに触れておきます。
 
2024dq3_kimeranotubasa
 
 
 キメラのつばさですが、コメント欄に「戦闘中はランダムワープ」とあります。ドラクエ3から、キメラのつばさを戦闘中に使うと戦闘から脱出できるようになりました。
 
 製品版では、戦闘中にこれを使うと、強制的にアリアハンに飛ぶ仕様なのですが、この資料が書かれた段階では、どうも「行ったことのある拠点のどこかにランダムで飛ぶ」という仕様が想定されていたっぽいです。
 
 続いて、有名なボツアイテム「死のオルゴール」。効果は、よく語られている通り、「敵味方関係なく、その場にいる全員にザラキ」。
 
2024dq3_sinoorugooru
 
 効果説明欄に「音楽が鳴り」とありますから、使用するとオルゴールの音が聞こえる指定となっています。すぎやん先生(すぎやまこういち先生)は、オルゴールの曲を作曲なさったのかな? 存在したのなら聴いてみたいよね……。
 
 このアイテムを実装すると、曲が一曲増えることになりますし、存在自体がお遊びアイテムです。容量問題で削られたのはよくわかる話ですね。
(ミュージアム版資料の白地図に、死のオルゴールは記載されていないので、イベント関連のキーアイテム「ではない」と考えられる)
 
 ところで、この「死のオルゴール」、ドラクエ2でも実装が予定されていて、たぶん同じような理由で見送られたのですが、「ドラクエ2で死のオルゴールが企画された理由」は、わりと明らかだと思います。それについてはまたいずれ……。
 
 
■おうごんのツメは道具だった
 
 カーニバル版資料のアイテム欄にはおうごんのツメも載っていました。これ、アイテム種別としては「武器」と指定してあるのですが、なぜか道具リストのページに掲載されているんです。
 他の道具がずらーっと並んでいるリストのなかに、ぽろっと一つだけ、「おうごんのツメ 武器」みたいに指定してあって、異彩を放っていました。
 
2024dq3_ougonnotume2
 
 コメント欄に書いてある効果は、製品版と同じです。ですが、使用結果欄に「つかうで身につける」と書いてあります。

 つまりおうごんのツメは武器だけど、「そうびコマンド」からは装備できない。おうごんのツメを装備するには、どうぐ欄から「つかう」指定をする。
 ほしふるうでわを装備するときのような手順で、おうごんのツメを装備するってことになります。なんでまた?
 
 なぜそんなことに? と思ったので5分くらい考え込んだのですが、おうごんのツメは武闘家専用の武器です。
 武闘家は、武闘家専用「じゃない」武器を装備するとかえって弱くなるという特性があります。
 
 おそらく、この資料が書かれた段階では、武闘家は、「専用じゃない武器を装備すると」ではなく、「あらゆる武器を装備すると」弱くなるという想定だったのではないかと思います。
 
 なぜなら、そのほうがだんぜん、わかりやすいからです。前者では、「武闘家専用武器か、そうでないかを見分けて下さい」という話になりますが、後者なら「とにかく武器を装備させないで下さい」というシンプルなオファーにすることができます。
 
 ようは、「そうびコマンドから装備できる武器は全部ダメですよ」という仕様が想定されていたんじゃないかと考えるのです。
 
 でも、武闘家は武器をいっさい装備しないほうがいい……っていうんじゃあ、「武器を更新するよろこび」が一人分、へってしまうことになる。装備の入手はRPGのよろこびのうち、大きなもののひとつだから、これを欠いてしまうのはうまくない。武闘家用の武器はやっぱり必要だ。
 
 そこで、武闘家専用の武器は、道具のような扱いにする。たとえば、「そうびコマンド」には出てこないようにする。
 じゃあこれ、どうするんだ? とプレイヤーは試行錯誤する。そうすると、どうぐコマンドから装備できることがわかる。
 なるほど、どうぐコマンドから装備できる武器は武闘家専用で、これなら装備しても弱くなったりしないんだな、ということが体験的にわかる。
 
(たとえば、どうぐからの使用で「****は、おうごんのツメを、そうびできない!」というメッセージが出てくれば、「じゃあ、これ、誰が装備できるんだ?」と思って自然にいろいろ試す)
 
 そんなわけで、企画段階のおうごんのツメは、武器だが道具扱いだという特殊なアイテムで、そうなった理由は武闘家専用武器を明確に区別するためだったろうというお話。
 
 
■はやぶさのけんを商人が使うと?
 
 武器の話にうつります。最初にひとつ手早く済ませますが、はやぶさのけんの「使用可能者」(装備可能者ではない)の欄に、「商人」が指定されています。
 
2024dq3_hayabusanoken
 
 でも、「使用したら何が起こるか」の欄は空欄になってます。つまり「使っても何も起きない」の指定です。製品版でも何も起きません。こんな指定がしてあるのははやぶさのけんだけです。
 なんでだろう……と2時間くらい考えましたが、何も思いつきません。単なる書き間違いかなあ……。
 
 
■属性Cはバギ系と判明
 
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(6) を先に読んでいただくとわかりやすいのですが、堀井さんは、使うと攻撃呪文の効果がある武器について、とてもクセの強い記述をしています。
 
 たとえば(ミュージアム版資料では)、まどうしのつえは「一匹ギラ小A」、らいじんのけんは「グループギラ大A」、ふぶきのつるぎは「グループギラ中B」といった具合です。
 
 なんだこれはって感じなのですが、推定では、どうもこの時期のドラクエ制作スタッフ間では、攻撃呪文のことをぜんぶひっくるめて「ギラ」と呼ぶ風習があったようです。
 
 なぜなら、ドラクエ2まで、攻撃呪文はシステム内部的に全部おなじ属性だったからです。呪文名がちがっても、取説に書いてある説明書きに「風の刃で切る」とか書いてあっても、ギラもバギもイオナズンもまったく同属性でした(というか「攻撃呪文」という属性しかなかった)。
 
 ですので「グループギラ大」というのは、「敵1グループに」「攻撃呪文をかける」「大ダメージ」という意味だと解することができます。
 
 じゃあ、AとかBとかついているのは、何の意味なんだという疑問が生じます。
 
 らいじんのけん(ベギラゴンの効果・ギラ系・炎)がAで、ふぶきのつるぎ(ヒャダルコの効果・ヒャド系・氷)がBなので、
「AとかBとかは呪文の属性を示すものだろう。炎がAで、氷がBだろう」
 という推測をしたところまでが、第六回でした。
 
 さて時は流れて、カーニバル版資料。

 アイテム表の中に、いなづまのけん、いかづちのつえ、おおじゃのけん(おうじゃのけん)の欄がありました。堀井さんは、ミュージアム版資料を書いたのち、どっかの段階で、「やっぱいなづまのけんといかづちのつえはあったほうがみんなよろこぶよねえ」と思ったことになりますね(たぶん)。
 
2024dq3_buki

 
 資料によれば、いかづちのつえが「グループギラ中A」、いなづまのけんが「全体ギラ中A」、おおじゃのけん(「おおじゃ」は資料通りの表記です)は「グループギラ大C」です。
 
 いかづちのつえがベギラマの効果(敵1グループに中程度の炎系攻撃)、いなづまのけんがイオラの効果(敵全体に中程度の炎系攻撃)なので製品版通りです。
(ドラクエ3のイオ系呪文はギラ系と同属性、炎系です)
 
 さて「おおじゃのけん」。製品版の効果はバギクロス。バギクロスは敵1グループに大ダメージのバギ系(風系)攻撃です。
 おおじゃのけんの指定は「グループギラ大C」なので、Cはバギ(風)系の指定ということになりそうですね。
 
 ABCは属性の指定であろう、という推定は、これによりさらに裏打ちされました。
 
 この調子ですと、デイン(雷)系はDということになりそうです。
 
 なお、製品版のドラクエ3では、いかづちのつえは魔法使いと賢者が装備可能ですが、この資料では、魔法使いのみが装備できる指定となっています。
 
 
■カナの制限かそうでないのか
 
 エンゼルローブという防具が指定されていました。
 
2024dq3_enzerurobu
  
 これは製品版では、「てんしのローブ」という名前で実装されました。資料の内容は、製品版通りとなっています。
 
 ところでなぜ名前が変わったのか。
 
 これは単純な話で、ドラクエ3には、カタカナの「セ」の字が(フォントが)入っていないのです。一文字も使われていません。堀井さんは、容量を減らすために、使用頻度の低いひらがなやカタカナのフォントをを抜いて、それ抜きで全部のテキストを書くという荒業をしています。
 
「セ」がなければ「エンゼル」が書けない。なのでこの名前は使えない。「てんしの」に置き換えた。
 
 ところでもうひとつ。「かわのマント」
 
2024dq3_kawanomanto
 
 かわのマントという防具は製品版にはありません。でも、「名前が初期装備っぽい」「武闘家以外の全職業が装備できる」となると、これは製品版で「たびびとのふく」として実装されることになったものでしょう。
 
 なぜ名前が変わったのか。「か」「わ」「の」「マ」「ン」「ト」は全部ドラクエ3に入っています。文字制限のためではない。
 
 おそらくですが、このアイテム表を書いたあとで、「かわのよろい」を追加することにしたんじゃないかな? と想像します。
(もしくは、最初からかわのよろいを実装するつもりでいたが、「かわ」が重複していることが問題だとあとで気づいた)
 
「かわのマント」と「かわのよろい」が、同時に(プレイの同時期に)存在するのはうまくない。イメージが近すぎるし、どっちがいい防具か、感覚的にわかりにくい。
 
 かわのよろいは前作の初期装備で、なじみが深いので、こっちが優先され、マントのほうの名前を変えた。
 
 でも私見ですけど、変えてよかったですねぇ。「たびびとのふく」というネーミングはすごくいい。イメージがひろがります。「ああ、自分はこれから、旅に出るんだ」っていう旅情がふくらんで、たまらない。愛しい。
 
 
■ドラクエ3新機軸リスト
 
 ところで、「①/ 《各種アイデアメモ》4・14」という手書き資料が展示されていました。
 
 これは、「ドラクエ1と2には存在しなかった、こんな新しい要素を、ドラクエ3に入れてみたいな」というアイデアをペラ一枚で箇条書きにしたものです。
 
 一部、実装されずに終わったものもありますが、ほとんどは何らかの形でFC版ドラクエ3で実現しています。
 これも、わりときれいに清書されているので、エニックスの上のほうに提出するための企画書の一部だったのかもしれません。
 
 今気づきましたが、4月14日の日付があります。これは87年の4月14日でしょう。ドラクエ2の発売日が87年1月なので、約3か月後。ドラクエ3の発売が88年2月ですから、発売の10か月前ということになります。
 
 マスターアップから発売まで、少なく見積もっても2か月はかかるでしょうから(任天堂がカートリッジを生産する時間が必要)、ここから8か月で完成までこぎつけたことになります。
 
 これを全部書き写してきましたが、全部をのっけるわけにはいかないので、気になるところや、実装されずに終わったものをいくつか拾いだしてみます。
 
 
■最初期のアイデアのすごい断片

 
 以下、引用部はすべて、「①/ 《各種アイデアメモ》4・14」の内容の一部です。
 

・にげると追げきをくらうこともある。あるいは、5歩あともどりする等 にげるの再考

 
 どうも堀井さん、「逃げるのペナルティが少なすぎる」とお考えだったようです。
 
 たぶんですが、「逃げるを使いまくって、適正レベルでない(敵が強い)エリアまで進みすぎてしまう」プレイヤーがでるのを恐れたのかな、と思います。
(以前、国会図書館でむかしの週刊ジャンプを読んでいたら、キム皇のファミコン110番で、「逃げまくってロマリアまで行ったけど、敵が強すぎて歯が立ちません」という読者ハガキが紹介されてるのを見たことがある)
 
 逃げても一発なぐられるとか、マップを後戻りしちゃうとかの仕様があったら、逃げたら損だということになり、戦うから、しぜんとレベルがあがりますね。
 
 このアイデア結局どうなったのかというと、ドラクエ2に比べて、ドラクエ3はいくぶん逃げるが成功しにくくなりました。そのかわり、逃げるに失敗したときの敵側の攻撃が若干マイルドになったみたいです。
 差し引きでいうと、逃げるのペナルティは前作と同等か、むしろちょっと少なくなった感じがします。
 
 たぶん、「逃げにくいのは体験として気持ち良くない」と判断されたのだと思います。
 

・町の中の城、町・城の中の塔など(町の井戸)

 
 町の中に城があるというのは、まさにアリアハンがそうでした。いっぽう、町や城の中に塔があるというのは、ドラクエ3では実現していません。
 
 が、次回作となるドラクエ4で、「ロザリーヒル」というかたちで実現しました。
 
 ドラクエ2で企画していたローレライが、ドラクエ3で実現した例もそうですが、堀井さんは思いついたアイデアが実現できなくても、それをだいじにとっておいて、次回以降の作品で使うということをされています。
 

・エルフの町、ドワーフの町

 
 エルフの町はノアニールの近くに隠れ里として存在しますが、ドワーフの町は実現しませんでした。
 
 ミュージアム版資料の白地図には、「ドワーフの店」という施設が書かれていたのですが、これは結局なくなったようです。
 
(まったくの余談ですが、ドラゴンクエスト大辞典さんに「ノルドの洞窟は初期の開発資料ではドワーフの洞窟と書かれていた」という意味の記述がありますが、洞窟ではなく「ドワーフの店」ですし、位置はノルドの洞窟とは別の場所にありました。ドワーフの店は世界樹の葉のすぐ左下あたり。カスピ海のそば。ずっと気になってたので、ここでソッ…と指摘しておきます)
 

・カマゆでをする老婆など 人物のおもしろさ

 
 まほうのたまをくれる老人が、ツボで何らかのものをゆでていた記憶がありますが(注:リメイク版)、あのへんは「あやしげな秘薬をつくってるあやしげな老婆」みたいなイメージの痕跡かもしれません。
 
 また、これ以降のシリーズで、なにかをグツグツ煮ているお婆さんというキャラクターはいたような気がします(もはや記憶がおぼろ)。7のパミラとかどうだったかな……。
 

・日本的(江戸的)な町とか。(ジパングの存在)

 
 今回ビックリしたポイントの一つがこれ。「ジパングに行くと、花の大江戸八百八町が広がっている」みたいなイメージが、当初は握られていたのですか!?
 
 製品となったドラクエ3では、ご存じの通り、ジパングは邪馬台国のイメージで作られていました。そこでやまたのおろちを退治してくさなぎのけんを手に入れるわけです。
 
 こんな鮮烈なイメージは、いちばん最初からあったにちがいないと私は思い込んでいたのですが、そうではなかった。なんと堀井さんは、最初は江戸のイメージにしようと思っていて、あとから邪馬台国と草薙の剣のアイデアを出してきたことになる。
 
 想像するに、「このへんで中ボスを倒す展開がほしい」「日本で有名な大物の怪物と言えば、やまたのおろち?」「だったら古代のほうがいいね」みたいな発想の流れがあったのかしら。堀井さんにお会いしたら聞いてみたいなぁ……。
 

・もんしょうにかわるものを集め、どこかにあずける。
   ⌒かけら
  ⌒彫こくにはめこむ
(すると別の物くれるとか

 
 なんとこの資料は、まだオーブという言葉がなく、鳥に乗って空を飛ぶイメージが存在しない段階だ。
 
 主人公=勇者ロトは、不死鳥にのって空をはせる「鳥の人」である、という、ドラクエシリーズ全体をつつみこむといってもいいようなこの大きなイメージは、最初から握られていたものではなく、途中でふと思いつかれたものだったのです。
 
 私はなんとなく、鳥山先生が描いてきたドラクエ2の箱絵に、鳥の紋章が描いてあるのを堀井さんが見て、その瞬間に「あ! 勇者ロトって鳥の人なんだ!」と思いついた、ような気がしていたのですが、そんなドラマチックな感じではなさそうだ。
 
 たぶん、発想の順序としては、「せいなるまもりがのちにロトのしるしになるという真相を思いついた」「ロトのしるしってどんな形だろう、と漠然と想像した」「そういえば鳥山さんの絵に鳥の紋章が描いてあることを思い出した」「あ、勇者ロトは鳥の人だ」くらいなのかもしれない。
 

・エンディングのどんでんがえし
 →{陸に  ―すいこまれる
  {海に大穴

 
 ここにある「エンディングのどんでんがえし」は、「バラモスを倒すと」という意味のように思うのですけど、どうだろう……。
 つまり、最終的にギアガの大穴になっていくアイデアのように読めます。
 
 この資料の段階では、まだ不死鳥ラーミアは想定されていなかったので、「ラーミアに乗るとギアガの大穴の近くまで行ける」というアイデアは当然なかった。でも、おそらく地下世界に行けるというアイデアはあった。
 
 この時点のイメージでは、どうやって地下に行くのかというとそれは「強制的に大穴に吸い込まれる」というものだった、という話になります。これはこれで、すごい。
 
 そして、その大穴は、陸にあると限ったものではなかった。ひょっとしたら海に大穴があいているという表現になる可能性もあった。
 
 ……ここまで見てきて思いましたが、この「アイデアメモ」、白地図が描かれるより前に書かれたものですね。
 そうなると、「カーニバル版資料は(全部)ミュージアム版資料より後に書かれた」という推定は、ちょっと疑問符がつきます。アイデアメモがミュージアム版資料より前に書かれたのはほぼ確実で、ひょっとしたらアイテムリストも前後が逆という可能性もあります。
(でも、カーニバル版アイテムリストは内容が明らかに製品版に近づいているから、あとの方だという気がするんだよな……)
 

・下の世界にいく階段=
 落ちるだけの穴(2度と上の世界にもどれない)

 
 これは「大穴に吸い込まれる」の直後に書かれていました。
 下の世界がある、というアイデアがこの時点で確実にあったことがわかります。
 
 下の世界に行く穴は、穴ではなくて、階段があって降りていく表現にするかもしれなかった(堀井さんは迷ってた)というような意味にとれます。
 
 地面に階段があって、別レイヤーの世界に移動するというイメージは、ドラクエ6を思い起こさせますね。ドラクエ6の世界移動の階段イメージは、この時点で堀井さんの中にあったことになります。
 
 それと、「2度と上の世界にもどれない」というのはまたすごい。アレフガルドに行ってしまったら、元の世界にはもう行けないというアイデアです。このアイデアを思いつくのは、よくわかる。ビックリするし、はっきりと心が動くからです。
 でもこれを本当に実装したら、不評でしたでしょうね。感覚としては「それまでに征服してきた領土を、まるごと奪われる」に近しい。たぶん周囲から、「それはさすがに」という声が出て、やめられたんだと思います。
 
 でもこのアイデアは、「エンディングまで来ると、空の大穴が閉じて、上にルーラできなくなる」というかたちで部分的に実現されました。
 
 
 ■追記(20240817)
  
 カーニバル版資料を書き写してきたメモに書き落としがあったので、再び現地にいって、メモの校正を行いました。
 
 それで、見落としていたいくつかのことを以下にご報告します。
 
 
■ムー城
  
「ドラゴンクエスト・カーニバル」のランドマークタワー会場には、アリアハンの城下町の手描きマップ(正確にはそのコピー)が展示されていました。
 
 その内容は基本的に製品版と同一ですが、そこには、アリアハンではなく「ムー城」と書かれていました。
 
 すなわち、アリアハンのお城は、「アリアハン」という名前が思いつかれる前は、「ムー城」という名前だったのです。
 
(カーニバル版ではなく)ミュージアム版資料によれば、ドラクエ3の制作中の一時期には、
「上の世界の名前はムーであり、下の世界の名前はアレフガルドである」
 という構想が存在しました。
 
(それについての詳しい解説はこちら
 
 ミュージアム版の該当の資料をもういちど引用します。以下の画像は筆者(私)が『ドラゴンクエスト・ミュージアム』会場で見たその資料を再現したもので、現物はすべて手書きです。例によって著作権法上の引用による利用であり、禁転載・禁改変・禁再配布です。

Photo_20240817074401

 

 ミュージアム版資料では、旅立ちの地のお城の名前はアリアハン、アリアハンを含む上の世界全体の名前がムー、となっています。
 
 つまりアリアハンとムーにかかわるネーミングは以下のように変遷したと推定されます。
 
・旅立ちのお城の名前はムー城である(上の世界の名前は不明)
  ↓
・旅立ちのお城の名前はアリアハン、上の世界の名前はムーである。
  ↓
・旅立ちのお城の名前はアリアハン、上の世界に名前はない。
 
 
■手書き? タイプ?
 
「ドラゴンクエスト・カーニバル」の展示では、ドラクエ3のシナリオ原稿のごく一部も展示されていました。具体的には、アリアハンの「とうろくじょ」のセリフ原稿を見ることができました。
 
 それで、おやと思ったのですが、この原稿、PCもしくはワープロで書かれ、プリントアウトされたものです。
 プリントアウトした紙の上に、堀井さんの筆跡で、手書きの修正が書き込まれているというものでした。
 
 あれぇ、じゃあ「ドラクエ6まで、堀井さんのシナリオは全部手書き」という伝説はどういうことなんだ?
 
 そういう伝説があるのです。伝説というか、私はこのときまで、伝説ではなく真実だと思っていた。
 
 この伝説の出所は、雑誌『ゲーム批評 VOL.8』に掲載された「SPECIAL INTERVIEW 堀井雄二 今だから語れるドラゴンクエスト」という記事です。
 
 当該記事のp.56に、ドラクエ6の制作資料だとされる、分厚いファイルの山を写した写真が掲載されている。そのうちの一ページ、ライフコッドの手描きマップも写真掲載されている。
 それらの写真にそえられたキャプション(写真説明の短文)に、こう書いてある。
 

全18冊にもおよぶ、「Ⅳ」の資料。中身はすべて、堀井氏自身の手書き。
シナリオからマップ、武器データに至るまでち密に書き込まれている。
資料の一冊、ライフコッドのマップ。
もちろん手書きです。

 
 こう書いてあるから、「ふえええ、あの膨大な文章量を手で書いたの? 堀井さんすげええ」と思っていたわけです。
 堀井さんが雑誌に持っていた連載で、実際に、手書きで書かれたシナリオの一部が掲載されたこともあります。たしか1か2の原稿だったかな。
 
 でも実際は、ドラクエ3の段階で、すでにキーボード入力が行われていたのです。
 
 よくよく考えてみると、わざわざ手書きで書くというのは不自然で、タイピングしていたほうが自然ですよね。
 
 だって、堀井さんはパソコンを当然持っていた。堀井さんはもともとフリーランスのライターで、雑誌の読者投稿ページを担当しており、雑誌投稿者のリストを管理するという名目でパソコンを購入したのです。当然、プリンターも持っていたものと想定されるし、雑誌の原稿をタイピングで書かなかったわけがないと思うのです。
 
 なにより堀井さんは『ポートピア連続殺人事件』や『軽井沢誘拐案内』を、PCで独力で作った。『ポートピア』のシナリオ原稿を、「手書きで書いてPCで打ち直した」とは考えにくくて、画面上でセリフを書いたり消したりしながら作っていったと考えた方が自然です。
 
 そういうわけで、「ドラクエ3の段階で、PCを使った原稿作成は行われていた。少なくとも、試みられていた」というところが、新しいファクトです。
 
 じゃあ、『ゲーム批評』の記述はどうなんだという話になる。
 
●可能性1
 堀井さんは、PCでの原稿作成をやめてしまい、手書きに戻した。
(だからドラクエ6の原稿は完全に手書きなのである)
 
●可能性2
 堀井さんは、PCでの原稿作成をずっと行っていた。
(『ゲーム批評』のライターが、何らかの理由で、全部手書きだと思い込んだのである)
 

 後者については、「全部手書きである」と言っているのが堀井さんではなく、ライターが書いたキャプションであるというところに着目したもの。
 堀井さんは、マップについてはドラクエ6でも手描きでやっているのです。ライターはそれを見た。で、
 
(以下架空の会話)
堀井「これねぇ……(この膨大な量のうちかなりの部分が)手描きなんですよ」
ライター「ええっ! (この膨大な量の全てが)手書きなんですか!?」
 
 くらいの行き違いが起こったとかそんな感じの想定ね。
 
 でも、後者(可能性2)の想定は、全然おもしろくないので、私としては、
「なんかしっくりこないな、くらいの感覚的な判断で、堀井さんは手書きに戻した」
 というストーリーのほうに魅力を感じます。
 
 誰か、「ドラクエ4やドラクエ5の、PC入力されたシナリオを見た」という人はいないかな……。
 
 
■20240822さらなる小さな追記
 
 もうひとつ可能性を思いつきました。
 
●可能性3
「とうろくじょ」のセリフ原稿は、堀井さんが雇っていたアシスタントがPCで作成したものである。そこに堀井さんが手書きで直しを入れたのが当該資料である。
 
 うろ覚えですが、堀井さんはドラクエ制作にあたって、個人的にアシスタントを使っていた、というような記述を見たことがあります。
 というか、当時堀井さんのそばにはミヤ王・宮岡寛さんがいた。FC版ドラクエ3のエンディングには、シナリオアシスタントという肩書で宮岡寛さん柳沢健二さんの名前が載っている。
 
 堀井さんは、とうろくじょやルイーダの酒場やセーブポイントなどの、さして重要でない部分のメッセージを宮岡さんや柳沢さんに書かせたと推定する。
 宮岡さんか柳沢さんが、メッセージや会話フローをPCで書いて堀井さんに提出する。
 堀井さんはそこに手書きで直しを入れて、完成原稿とする。
 
 ……というような想定を取る場合、「タイピングされたドラクエ3のシナリオ原稿」と「堀井さんシナリオ全部手書き伝説」が両立することになります。
 
 
 今回の資料で取り上げるものは以上です。また何か思いついたら、追記して、X(旧twitter)で告知しますので、よかったらフォローしてお待ちください。

 

(この記事が良いと思った方はXにてリポストを!)

2024年8月 4日 (日)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(8)

 第八回です。前回から間があきましたが、続きました。
 
 2024年7月20日から8月18日のあいだ、横浜みなとみらいの各地でドラクエ関連の展示イベントがありました。「ドラゴンクエストカーニバル in 横浜・みなとみらい」といいました。
 
 横浜ランドマークタワー69階に、ドラクエ3の展示がありました。こちらに、堀井雄二さんが手書きで記したドラクエ3の制作資料が公開されていたので、見に行って、例のごとくメモをとりまくってきました。
 
 展示量はそう多くはなかったのですが、いろいろとおもしろい部分がみつかりましたので、また皆さんにお知らせします。
 
 
 当記事は、堀井雄二さんが書いたドラクエ3の制作資料から、(製品版とは違う)初期構想を読み解いていこうというシリーズです。
 
 
●ご注意:当ブログの内容を紹介する際は、URLを示し、出典を明らかにして下さい。どこかの誰かが言っていた風説としての紹介・言い回しを変えての自説としての流布をお断りいたします。
 
 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)
 第二回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)
 第三回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)
 第四回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(4)
 第五回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(5)
 第六回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(6)
 第七回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(7)  
 
 ※注:「ドラゴンクエスト」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、情報のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 小説版、外伝等は参照しておりません。
 
 当記事に掲示する画像のうち、再現画像はすべて、「ドラゴンクエストカーニバル in 横浜・みなとみらい」にて展示された制作資料を、私が部分的に再現したものです。画像で示されている内容は、株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者の著作物です。著作権法第32条に基づき、研究を目的とする引用としてこれらを掲示します。展示会場で書き写したため、写し間違いが生じている可能性があります。これらの画像の転載・改変・再配布を禁じます。孫引きも遠慮してください。
 (特記ある場合を除き)テキストによる引用部も出所は同じであり、扱いは同様です。


 
 
■資料の概要
 
 イベントの展示では、ドラクエ3のアイテムリストの一部が公開されていました。私が見たことのなかったものです(以後カーニバル版資料と呼称)。
 
 これらアイテムリストは、定規できっちり引かれた罫の中に、ていねいに清書されていました。「ドラゴンクエストミュージアム」で展示されていたもの(ミュージアム版資料)は、ラフに書きなぐったものでしたので、ミュージアム版とカーニバル版は、別の時期に書かれた別バージョンだとわかります。
 
 カーニバル版資料の内容は、かなりの部分、製品版の内容と一致します。ですので、製作がかなり進んできた時期に、ほぼほぼFIXの内容を提示するというつもりで作成されたものと推定できます。
 
 ですので、ミュージアム版資料がに作られ、カーニバル版資料はに作られたことになります。
 
 推定ですが、ミュージアム版資料は、ドラクエ3のアイデア出し合宿(というものが行われた)の直後くらいに、白地図と同じようなタイミングで書かれた。
 書かれた意図は、チュンソフトに詰めている制作スタッフに、現状のアイデアを把握してもらうため。
「いまのところ、こういうアイデアを持っていて、こういう効果のアイテムを必要とするから、先に作れるところを作り始める場合は、これらのアイテムが実現可能となるようにしておいてくれ」
 といったようなことだったでしょう。
(ミュージアム版資料はファックスでチュンソフトに送られた)
 
 いっぽう、カーニバル版資料は、シナリオのアイデアがかなり整理され、システム側の仕様も煮詰まって、「アイテムは合計何個実装可能」だとか、そういうことがわかったあたりで、「じゃあ、決定版のアイテム表をだしましょう」ということで書かれたのかなと思います。
 
 イベントでは、ドラクエ3の企画書の1ページ目も公開されていましたが、書式や文字のていねいさが、企画書とアイテム表でよく似ていました。ですからアイテム表は、企画書の一部としてエニックス上層部に提出するものだった可能性もあります。
 
 さて、ここから中身の検討に入ります。
 
 
■ひかりのよろいの効果がちがう!
 
 今回の資料でいちばんびっくりしたのこれです。


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 ひかりのよろい。勇者のみが装備可能。製品版にもある鎧です。というか、のちの世に「ロトのよろい」として伝承される見込みの伝説的鎧です。
 
 その効果が。
「ゾンビ(ディスペル防≠3)ダメージ1/2をむこうにかえす」
 
 ぱっと見ただけでも、我々のしってるひかりのよろいと違う。
 
 
 この文言、わかりづらいですが、かみくだくとおそらくこういうことです。
 
「ゾンビからもらったダメージの半分を、そのゾンビにはね返す」
「ニフラム耐性が完全耐性でないモンスターは、すべてゾンビとみなす」
 
 ディスペル防というのはニフラム耐性のことです。ミュージアム版資料の呪文リストに、ニフラムの効果として「ディスペル」と書いてありました。

 ドラクエ3 極限攻略データベースさんによれば、ドラクエ3のモンスターのニフラム耐性は0から3までの4段階で、0は無耐性(成功率100%)、3は完全耐性(成功率0%)です。
 
 で、ディスペル防(ニフラム耐性)が「3ではない(≠3)」モンスターの攻撃を反射するということは……。
 
 つまりニフラムがちょっとでも効く可能性があるモンスターの攻撃を、いつでも半分はね返すという、アタックカンタ的な効果が指定されている。この文言からはわからないけれど、ひょっとして呪文やブレスも半分はね返す想定なのだろうか?
 
 さて問題は、なんでこんなことになっていたのかだ。
 
 
■ゾンビ反射の理由
 
 以後、「ひかりのよろい(ゾンビからの攻撃を反射)」の能力を、「ゾンビ反射」と呼称します。
 
 勇者専用鎧が、ゾンビ反射の鎧として設定された理由は明白です。
 ドラクエ3の物語そのものが、「生命あるもの」vs.「ゾンビ」の対立のお話だからです。
 
 この話は何度してもいいと思うから何度でもしますけれど、ゾーマはゾンビの帝王です。「非生命の世界の王」という言い方でもいい。
 
 終盤のボス三連打で出てくるバラモスゾンビの正体は、上の世界で倒したバラモスの死体です。ギアガの大穴を囲っていた壁をこわして穴を通って行った「何か」の正体はバラモスの死体です。バラモスの死体を魔力で取り寄せたのはゾーマで、バラモスの死体をゾンビにつくりかえたのもゾーマです。
 ……ということを想像してほしい、と期待していると思うのです。この物語は。
 
 ゾーマというのは、ネクロマンサー(死体をあやつる魔法使い)なのだ、ということが、ここでは示唆されていると思うのです。
 
 おそらく、ゾーマのキャラクター造形において参照されているのは『指輪物語』のラスボス・サウロンだと思います。サウロンは「死人つかい」「死人占い師」と呼ばれ、これは原語ではNecromancer。ついでにいえば、ドラクエ3は、それまで登場していなかったエルフとホビットが登場し、火山の火口にだいじなアイテムを投げ込む物語です。これを指輪物語の影響ぬきに書いたとしたら私はバリイドドッグみたいにめんたま飛び出るよ。
 
 ゾーマが「なにゆえ もがき いきるのか」と問うのは、べつに哲学的問いをなげかけているのではなく、「君はなんでまた、生命ある存在であることにこだわるのかね」という、そのまんまの意味だと(私は)解しています。
 
「しにゆくものこそ美しい」というのは、死者の王であるゾーマが、「私の世界は美しい」と自画自賛しているわけで、「わが腕の中で息絶えるがよい」というのは、「うちの国民にしてあげるからおいで」くらいにかみくだいてやるとめちゃくちゃわかりやすい。
 
 ようするにゾーマのあの名台詞は、ひとことふたことにつづめていえば、「死ぬってサイコー! 死体ってサイコー!」くらいのことなんですね。まあ私見ですけれど。
 
 ゾーマは死者の王なので、彼の世界はである。アレフガルドを死が統べる世界にしようとするから、アレフガルドを闇に閉ざす。
 ゾーマと対になる存在、大地の母神、生命の世界の女王ルビスを屈服させる。
 
 そこに、ある上の世界から、生命の力あふれる若者がやってくる。生命の世界の女王ルビスを復活させる。そして光ある世界から光(の玉)を持ってきて、光と生命の代表闘士となってゾーマと対決する。ドラクエ3はそういう、生命(光)と非生命(闇)との対立のお話です。
 
 さてそこで、生命の世界の女王ルビスを助けたときに、同時に手に入る「ひかりのよろい」。
 そこで手に入る最強のよろいが、「非生命の側の存在を文字通りはじき返す(ゾンビ反射)」ものだったらめっちゃシビレるよな! このアイデアは最高だ! イェッフゥー! と堀井さんは思ったにちがいないと私は思うわけです。
 
 たしかに、この符合はめっちゃキマってる。
 どのくらいキマってるかというと、「1・2のロトのよろいと性能がぜんぜんちがっちゃうけど、ちがっちゃってもいいからこっちのほうがいい!」と堀井さんが思いそうなくらいキマってる。かっこいい……。
 
 ちょっと余談だけれど、堀井さんは、そういう「違っちゃうこと」をあんまり気にしない人らしいです。ドラクエ6のラミアスのつるぎは、どう見ても絶対に後の世に「天空のつるぎ」として伝承される剣なのだけど、備わっている特殊効果は、天空のつるぎとは全く別のものです。
 
 そういう齟齬を「なんで違っちゃっているのか」「本当は天空のつるぎじゃないんじゃないか」みたいな感じで、物語や設定的にうまく合う理屈を探している人もいるみたいなのだけど、もちろんそういうのを「シャーロキアン」的に掘っていくのも面白いのだけど、大前提として「堀井さんはそういうのあんまこだわらない人」で、「違うようにしちゃったけど、まあいいんじゃない」くらいの処理をする人っぽいよという点は、ちゃんと握っておいた方がいいのかもなってときどき思います。
 
 ところで、「いのちのよろい」はどうなったんだっけ……。
 
 
■いのちのよろいの行方・再び
 
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(6)で取り上げたのですが、ミュージアム版資料には「いのちのよろい」という防具が指定されています。
 
(余談だけど、ここで俎上にのってるふたつの鎧が、「いのち」と「ひかり」なの、最高にいいよな!)
 
 これは、攻撃呪文とブレスのダメージを軽減し、歩くとHPを回復する、という鎧で、効果としては完全に、製品版のひかりのよろい、およびロトのよろいと同一です。
(ただし「戦士も装備できる」というところだけ違っていた)
 
 当初の予定ではおそらく、これが勇者の最終装備となり、エンディングでそのまま、この鎧がロトのよろいとして伝承されることになる、というプランだったはずです。
 
 でもそのあとに書かれたカーニバル版資料には、いのちのよろいの欄はなく(アイテムリストそのものが、全体のうち何枚かを抜粋したものにすぎないので、展示されてないだけかもしれない)、そのかわりのように、ゾンビ反射能力をそなえたひかりのよろいが記述されている。
(これは戦士には装備できず、勇者専用となっている)
 
 そして最終的な製品版では、名前が「ひかりのよろい」、効果は耐性と回復(いのちのよろいのもの)、装備可能者は勇者のみ(ひかりのよろいの仕様)となったわけですね。 
 ここで疑問に思うのは、ひかりのよろい(ゾンビ反射版)が思いつかれて「これだ!」となったとき、いのちのよろいはどうなったんだろうってことです。
 
 
●可能性1
・いのちのよろい(耐性防具・回復)を設定した。
・新たにひかりのよろい(ゾンビ反射)を設定した。
・その両方を実装するつもりだった。
・でもけっきょく、その2つをガッチャンコして、名前はひかりのよろい、効果は耐性と回復、というかたちになった。
 
 ようは、「いのち」と「ひかり」の両方がゲームの中にある、と想定している時期があった、という場合。
 
 当初はいのちのよろいをロトの鎧にするつもりだった。
 だが、ひかりのよろい(ゾンビ反射)という、すげー物語に即した鎧を思いついてしまった。
 こっちを勇者の最終装備にしたい。
 じゃあ、いのちのよろい、ボツにする? うーん。それはそれで惜しいよね。ロトのよろいと同じ効果を持つのは、いのちのよろいのほうなんだよね。
 
 それなら、両方ともゲームに採用しよう。「勇者の最終装備はひかりのよろいだけど、後世に残ったのはいのちのよろいでした」くらいでいいじゃん。
 いのちのよろいは勇者も装備できるから、勇者が装備した時期もきっとあるでしょ。だから問題ないよ。
 
 しかしながら、当然というか、中村光一さんか千田幸信さんあたりから、「それはちょっと、さすがにさァ……」と物言いが入る。
 
「だって、この仕様だと、戦士がいのちのよろいを、勇者がひかりのよろいを装備するのが最適解になるよ。『ロトのよろいは勇者じゃなくて、マッチョなピンクおじさんが着ていたやつです』って話だよ。それはさすがに、夢がないよ」
 
 堀井さん、「ムムム……」。言われたことがもっともすぎるので二の句がつげない。「やっぱ、勇者専用の鎧は、ロトのよろいと同じ効果じゃないとダメかぁ……」
 そんなわけで、ひかりのよろい(ゾンビ反射)はボツになった。
 
(注:見てきたように書いてますが想像です)
 
 
●可能性2
・いのちのよろい(耐性防具・回復)を設定した。
・新たにひかりのよろい(ゾンビ反射)を設定した。
・いのちのよろいはボツにした。
・しかし、その後さらに、ゾンビ反射の能力をボツにした。
・名前はひかりのよろい・能力は耐性&回復、という折衷案を採用した。
 
 こっちは、いのちのよろいを不採用にして、そのかわりにひかりのよろい(ゾンビ反射)を採用したという場合。
 
 この場合は、
「ロトのよろいとひかりのよろいは性能が違っていてもいい! ていうかひかりのよろいはロトのよろいでなくていい! ロトのよろいは歴史のどっかでぽろっとまぎれこんできたよくわからない何かです!」
 とかいう、めっちゃロックなディレクションを堀井さんはしたことになる。すげえ。
 
(後世になって、ルビスがひかりのよろいの性能をいじくりました、とかでも全然いいですけどね。前述のとおり、「ひかりのよろいはロトのよろいです。性能がちがっているけど、それでもロトのよろいなんです」でもいい)
 
 ところが、ひかりのよろい(ゾンビ反射)を採用できない理由が出てきてしまった。
 
 その理由は単純だ。「この性能、あんま強くないね」ということが判明したからだ。
 
 ひかりのよろい(ゾンビ反射)が手に入るのは、当然、終盤だ。終盤の敵は、大多数が、ニフラム完全耐性を持っている。そうなると、ひかりのよろい(ゾンビ反射)は、反射効果を発生させないので、単に打撃に強いだけの鎧ということになってしまう。
 
 なにより、この性能の鎧は、ゾーマ戦において、ほとんど何の意味もない。ゾーマのニフラム耐性は当然100%だから、ダメージを反射しない。まほうのよろい着たほうがましかもしれない。
 
「堀井さん、これ、ダメですね」
「むむぅ」
 
 いっぽう、いのちのよろい(耐性防具・回復)のほうは、終盤でめちゃくちゃ強い。終盤戦は、ブレスと呪文の連打戦になるので、ブレスと呪文を軽減する効果はあきらかに優秀。
 そしてゾーマは、ブレスと呪文がメインスキルなので、いのちのよろい(耐性防具・回復)は最高の切り札になる。
 
「やっぱこっちかぁ。ロトの鎧も、この性能だしなぁ」
 
 そんなわけで、いのちのよろいは、名前と装備可能者だけ若干変更されて、最終装備となり、これがロトのよろいになることになった。そんな感じかしら。
 
 余談ですが、ミュージアム版資料では、ゾーマ戦のキーアイテム「ひかりのたま」のもうひとつの効果として「戦闘中に使うとニフラム」が書かれていました。
(正確には「怪物をディスペル。」と書いてある。
 
 死者の世界の王ゾーマへの切り札に「ニフラム」の効果をつけようと堀井さんが思ったのは、ひかりのよろいにゾンビ反射を付けようと思ったのとまったく同じ理由であり、そしてその効果をボツにしたのも、ひかりのよろいと同じ理由だと思います。
 
 というか、「このゲームにニフラムという呪文を入れよう」と思った理由がまさにそれですよね。ニフラムはFC版ドラクエ3で初めて実装された呪文です。
 
 
■うっかり書き忘れたので追記(20240804)
 
 ひかりのよろい(ゾンビ反射)は、たぶん上記のような事情でボツになったわけですが、ボツにしようと思った段階ですでに、「ニフラム耐性を参照して、ダメージをはね返す」というギミックをシステムに組み込んでしまっていたのだと思われます。
 
 なんでかというと、製品版に登場する「やいばのよろい」が、まさに「ニフラム耐性が完全耐性じゃない敵のダメージを少量はね返す」という性能だからです。
 
 おそらく「ひかりのよろい(ゾンビ反射)をボツにしよう」と決定したはいいけれど、ゾンビ反射のしくみはもうプログラムされている。今からそのしくみを抜こうとしたら、バグが出そうだ。だから抜くに抜けない。
 でも、何の意味もなくなったゾンビ反射のシステムをそのまま残しておくには、容量が惜しい。このへんのプログラムを抜けば、代わりに何か別の物が入るかもしれないのだ。
 
 じゃあどうする? という話になったとき、「ひかりのよろい(ゾンビ反射)をいくぶん弱くしたような性能の鎧を入れよう」ということになったのではないか。それが、我々のよく知る「やいばのよろい」なのではないか。
 
 やいばのよろいを、「ニフラムが効く可能性があるモンスターの打撃を少量反射する」くらいの性能にすれば、ひかりのよろい(ゾンビ反射)のために組み込んでいたプログラムをそのまま利用できる。中盤で入手できることにすれば、ひかりのよろいのスペシャル感とカチあわない。ゲームの中に、ちょっと変わった魅力的な防具がひとつ生まれたことになるので、プレイヤーもうれしい。
 
 そんな感じで、実はやいばのよろいは、「勇者専用の鎧をどうするか」という試行錯誤の産物だったんじゃないかというお話でした。
 
 
■FC版3にふうじんのたて?
 
 続きまして……。
 ふうじんのたてって書いてありましたよ。え?

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 ふうじんのたては、次回作、FC版ドラクエ4で初実装されることになる盾で、その後、リメイク版ドラクエ3にも追加実装されました。効果は、4では道具使用でニフラム。リメイク版3は特殊効果なしのただの盾です。FC版ドラクエ3(製品版)にはこの盾は存在してません
 
 ですが、今回公開された設定資料をみると、「FC版ドラクエ3にふうじんのたてを実装するプランがあった」ことになります。
 
 しかも、その特殊効果が「ブレスのダメージが2/3になる」です。強い。
 
 この強い盾を、堀井さんはドラクエ3に実装するつもりだったが、何らかの理由があってボツにしたことになる。その理由とは何だろう。
 
 これは結論から先に言いますが、おそらく、「ふうじんのたてをボツにして、そのかわりに、ゆうしゃのたてを入れた」のだと思います。
 
 というのも。
 
 カーニバル版資料のアイテムリストに、盾は7種類載っていました。紙1枚に対して、盾が7つ書いてあるリストです。
 そして、製品版のFCドラクエ3に実装された盾は全7種類です。
 
 つまり、システム側が要請した仕様として、「実装できる盾は7種類までです」という条件があったのだろうと推定できます。
(全アイテム数はx種類までです、という条件があって、その中で堀井さんが「盾に配分できるのはそのうち7個だな」と配分したのでもいい)
 
 そして、カーニバル版の盾リストに書かれていた盾を、弱そうなものから順に並べ替えると、
「かわのたて」「せいどうのたて」「てつのたて」「なげきのたて」「みかがみのたて」「ちからのたて」「ふうじんのたて」
 です。
 
 おそらく全7種類であろう盾のなかに、「ゆうしゃのたて」が入っていません
 
 説明不要でしょうが「ゆうしゃのたて」は、製品版ドラクエ3の終盤で手に入る一点ものの盾。勇者専用で、ブレスダメージを2/3にする特殊効果をもちます(リスト上のふうじんのたてと同一数値)。
 
 カーニバル版資料が書かれた段階では、「ゆうしゃのたて」を装備するプランではなかったのです。
 おそらく、戦士と勇者が装備できる「ふうじんのたて」がこのゲーム最強の盾であり、これが最終装備になるという想定だった。勇者専用の盾を実装するという心づもりは、堀井さんの中にはなかった。
 伝説の盾はこのゲームには存在しない、という形で作られる予定だったのです。それはなぜか。
 
 
■ゆうしゃのたてがなかった理由
 
 ゆうしゃのたてに相当する盾を導入するつもりがなかった理由も、想像可能です。
 
 ドラクエ3の終盤は、ドラクエ1とほとんど同じ、まったく同じに近い物語が展開します。高貴な女性を救ってしるしを手に入れ、太陽の石と雨雲の杖で、虹の橋をかける。
 
 これ、ドラクエ1をそのままなぞってるじゃん、と思ったところでエンディングがきて、どんでん返しが起こります。
「逆だ! ドラクエ1の主人公が、オレの冒険をなぞっていたんだ!」
 
 このどんでん返しを最も印象的な形で体験させたいというのが、堀井さんの目指していたことです。
 
 だから、ドラクエ3の終盤は、ドラクエ1に近いほどいい。近ければ近いほど、「未来になって、俺の子孫は、俺の冒険をそのまま追体験することになるんだな……」という実感が強くなるからです。
 一から十まで同じにすることはさすがにできないが、近づけたほうがいい。
 
 さてドラクエ1に、伝説的な盾は存在しません
 ロトのつるぎとロトのよろいは存在していて、竜王戦の切り札となりますが、ロトのたてはないのです。店売りのみかがみのたてが最終装備となることが多いでしょう。
 
「ドラクエ3終盤は、ドラクエ1をなぞる展開になる」
「ドラクエ1に近いほうがよりよい」
「ドラクエ1に、ロトのたてはない」
 
 だから、堀井さんは、ドラクエ3に、ロトのたてに相当する勇者装備を入れることを考えなかったのだ……と推定できます。
 
 この論を裏打ちする根拠もあります。それはドラクエ3のエンディングのメッセージです。

かれが のこしていった
ぶき ぼうぐは ロトのつるぎ
ロトのよろい として
せいなるまもりは ロトのしるしとして
のちのよに つたえられたという。

 
 多くの人が、感動をおぼえながらも、「ん?」と思った点だと思いますが、「ロトのたては?」
 
 ひとつには、この文章にロトのたてを加えると、そのぶん冗長になり、感動をそぎます。「ロトのそうびとして」みたいにくくっても、味わいが減ります。
 
 そういうこともあるでしょうが、それ以前に、
 
「堀井さんはこのゲームに、ロトのたてに相当するものを入れるつもりじゃなかった」
 
 という条件を加えると、がぜん、飲み込みやすいのではないでしょうか。
 入れるつもりじゃなかったから、それに関する言及もなかったのです。「ゆうしゃのたて」のことなんて考えてもいなかった状況で、このエンディングメッセージは書かれた。だからロトのたての話は出てこないのである。
 
 しかし、例によって、複数のスタッフから、何度もこういうことを言われる(推定)。
 
「ロトのたて、ないの?」
「このふうじんのたてが、ドラクエ2のロトのたてになるの?」
 
 堀井さんが雑誌に持ってたドラクエの連載ページでも、「ドラクエ1にロトのたてって本当にないんですか?」というハガキがお子様たちから届く(私、見たことある)。
 
 そうなると堀井さん、「やっぱ、ロトのたてが求められているよなぁ……」。
 あったほうが、喜んだり、納得したりする人が多いのだったら、入れようか。
 
 しかし、制限があって、ゲームに入る盾は7種類である。どれかを抜かないとゆうしゃのたては入らない。
「ああ、じゃあ、このふうじんのたてを、ゆうしゃのたてっていう名前にして、勇者専用にしよう。効果は……ふうじんのたてのままでいいかな」
 
 という……そういう処理がなされた。
 
 
■体験をつくるということ
 
 私が興味深いと思うのは、盾をひとつボツにすることになったとき、堀井さんは、「なげきのたてを抜こう」という判断をしなかったことです。
 
 なげきのたては呪われたアイテムで、デメリットがあまりにも強く、通常プレイでは役に立つことが極めて少ないものです。
 いっぽう、ふうじんのたては極めて強力。戦士がふうじんのたてを、勇者がゆうしゃのたてを持つことができれば、心強いにちがいありません。
 でも、堀井さんはそうしなかったのです。
 
 なげきのたてを抜くということは、「うっかり呪われてしまい、やっかいごとを抱え込む」という「魅力的な体験」をひとつ削ぐことになるからでしょうね。
 
 ふうじんのたてがあれば強いでしょうが、「いい装備を手に入れて楽になってうれしい」という体験は、他の装備でいくらでも提供されています。
 いっぽう呪い装備は、数じたいが少なく、体験の機会が少ない。これを減らすということは、ただでさえ少ない「呪われるという魅力的な体験」がますます減ってしまう。
 
 ついでにもうひとつ。
 ふうじんのたてをゆうしゃのたてにして、勇者専用にしたのは、「ブレス耐性装備を減らそう」という意図があったかもしれません。
 
 つまり、「呪文攻撃に比べて、ブレス攻撃は、防具でふせぎにくい」という仕様を作ろうとしたかもしれないということです。
 
 製品となったFC版ドラクエ3には、呪文を防ぐ防具として、「まほうのよろい」「まほうのほうい」があります。これらは中盤で手に入り、すべての属性の呪文ダメージを減衰させてくれます。防具で呪文を防ぎやすいのです。
 
 いっぽう、ブレス耐性の鎧は、FC版にはドラゴンメイルしかありません。そしてこの鎧は、炎属性のダメージしか減らしてくれません。氷のブレスには効果がないのです。
 カーニバル版資料のドラゴンメイルの欄には、「ファイア ブレス ダメージを2/3に。」と明確に書かれています。ドラゴンメイルが炎しか防がないのはバグとかミスではなく、明確にそういう仕様にしようという意図があってのことです。

 魔法使い専用装備として、「みずのはごろも」というのがあり、これは例外的にブレスを防ぎます。しかし魔法使いというのは心底憂鬱になるくらいHPが低いのです。そしてブレスはパーティー全体攻撃ですから、前衛も後衛もおかまいなしに一律ダメージを与えてきます。HPの高い戦士などはなんとか耐えても、HPの低い魔法使いはあっというまに溶けてしまう。敵のブレスや呪文で後衛から死ぬというのはだれしも経験があるでしょう。
 そういう、魔法使いの致命的な弱点を、ぎりぎり補うために用意されている「お助けアイテム」がブレス耐性のみずのはごろもであって、これは魔法使いを優遇しているというより、「人並みをはるかに下回る魔法使いにゲタをはかせて人並みにする」という類のものです。これがあるからといって、ブレスは防具で防ぎやすいとはならない。
 
 さて、そのようになっている理由はいくつか考えられます。
 
 ひとつは、フバーハの呪文の存在です。ブレスのダメージはフバーハをかければ減らすことができるのですから、「それを使うという体験をしてくれ」という意図はあったでしょう。
 ドラクエ3にはマジックバリア(呪文防御。のちのシリーズで導入された)はないので、「ブレスは防御呪文で対策できるが、呪文攻撃は防御呪文で対策しにくい」という仕様になっています。
 マホカンタはありますが、ドラクエ3のマホカンタはホイミも反射してしまう使いづらい呪文です。おまけに一人にしか効果がありません。
 
 もうひとつ。ドラゴンメイルが炎ブレスしか防がない理由は、「ゾーマが氷のブレスを吹いてくるから」にちがいないと私は思います。
(ゾーマが氷属性の攻撃だけを使ってくるのは、「炎=生命の象徴」「氷=非生命の象徴」という表現をするためだと思います。いてつくはどうが「凍てつく」なのもきっとそれが理由です)
 
 フバーハはいてつくはどうで解除されてしまうし、氷のブレスを軽減する装備はない。よって、我々のパーティーは、ゾーマの氷雪攻撃をフルサイズで浴びるしかない。そういう状況を意図的に作ろうとしている。たぶん。
 
 そして、FC版ドラクエ3において、ゾーマの氷ブレスを防ぐ能力を持った、きわめて希少な防具が、ひかりのよろいとゆうしゃのたてなのです。
 
 すさまじい氷のブレスを浴びて、他の仲間たちが、魂も凍りつき、ばたばたと倒れていく。ことに、仲間内で最も体力のある屈強な戦士が、ごっそりと命を削られて散っていく。そんな絶望的な状況で、精霊ルビスに愛され、光をたくされた、この世にただひとりの若者が、それでもなお耐え抜いて倒れずに立っている
 
 そういう「体験」を提供しようとして、「ブレスは防具で防ぎにくい。例外は勇者装備のみ」という仕様になっている(と思う)。
 
 ところが堀井さん、氷ブレスも軽減してくれる「ふうじんのたて」というアイテムを実装しようとしてしまった。これは、勇者だけでなく、戦士も装備できるものだ。
「でも、ほとんど大多数のプレイヤーは、勇者に装備させるでしょ」
 くらいに考えて、これはOKだよねと判断していたのだけど、だんだん気になってきた。
 
 そのころ、「ロトのたてもあるべきでは?」という話がでてきて、堀井さんもその気になった。ひとつ盾をけずって、ゆうしゃのたてを入れよう。
「あ、ふうじんのたてを勇者専用にすれば解決では?」
 そうすれば、ブレス耐性盾を「絶対に勇者が装備する」というかたちになる。ゾーマの猛攻にひとり耐える勇者、というイメージが絶対的なものになる。
 
 それで、ふうじんのたてが、ほぼそのままゆうしゃのたてにスライドするという処理になった……とまあ、こんな物語があったのではないかと想像するわけですね。
 
 
■ふうじんのたてのその後
 
 ドラクエ6まで出たあとに、リメイク版ドラクエ3が作られました。リメイク版にはふうじんのたてが追加されました。
 
 されましたが、リメイク版のふうじんのたては、特殊効果のない、中盤むけのただの盾でした。
 
 ドラクエ4・5・6にはふうじんのたてが出ていて、どれも道具使用でニフラム(に近い)効果がありました。5ではそれに加えてブレス耐性つきでした。
 
 リメイク版3はそのあとに出たのに、そういった特殊な性能が全部なくなっています。
 
 考えられる理由としては、まず、ブレス耐性を備えたドラゴンシールドを実装することにしたから。
 おそらく「FC版の3は戦闘がちょっときつかったよね。もうちょっとマイルドでもいいよね」という判断があったでしょう。戦闘のきつさの原因は主に、敵のグループ攻撃が痛いからなので、それを防ぐものが提供された。まほうのたても追加されました。
 
 ブレス防御としてはドラゴンシールドがあるので、ふうじんのたてにブレス耐性はいらないねという話になる。
 
 ニフラムについては……。
 前述のとおり、ニフラムというのはドラクエ3では、「非生命の世界」「死者の世界」に対抗するための力を象徴する呪文です。だから勇者はニフラムを習得し、ひかりのたまは二フラムの効果があるというプランが一時期存在したわけです。
 
 ここに「MPを消費せず無限にニフラムが打てる盾」を「勇者以外が使える」状態を設定するとどうなるか。
「非生命の世界に対抗する力を象徴するもの」を、勇者でないキャラクターが持っているという意味になる。
 
「無限にニフラムを打てるアイテムを勇者だけが持つ」なら、たぶんよかった。でも、ドラクエ6まで話が進んで、ふうじんのたてはそういうイメージのアイテムではなくなった。
 
「二フラムを戦士が持ったら、この物語がだれのお話かってことがブレるよね」
 
 たぶんそういう判断になって、「ふうじんのたてに二フラムの効果はつけられないね」ということになったんだろうと思います。
 
 
 続きます。

 続きはこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(9)
 
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2024年3月21日 (木)

水曜どうでしょうさんの腕時計 アラスカ・ベトナム・ジャングルリベンジ編

 ずいぶん間があきましたが、大泉洋さんが水曜どうでしょうで着用していた腕時計を探していた話の続き。
 
水曜どうでしょうのミスターが着けていた腕時計(ALBA AKA)
『水曜どうでしょう』のミスター鈴井さんのG-SHOCK(DW-6600B-1A)
どうでしょうさんの腕時計とG-SHOCK遊環自作
水曜どうでしょうさんの腕時計(大泉さん編)(ALBA SPOON WEB・JPゴルチエ)
 
     ☆
 
 ここ数ヶ月、気持ちが晴れ晴れしない日々が続いていて、なんか気持ちが盛り上がることないかなと思っていました。
 
 それでふと思いついてしまったのが、「そうだ、欲しかったけどなんとなくそのままにしちゃってた腕時計を全部買おう」。
 
 と書くと、何やら豪勢なことをしているようだけど、私はそもそもそんなに高額な腕時計をほしがらないたちなのでたいしたことはありません。買うのは昔の時計ばかりだから、大前提として全部中古。
 人が使っていた傷だらけの腕時計もぜんぜんへいき、というか、傷だらけのほうがかえって気楽に使えるのでうれしいくらい。状態のよくないものを捨て値で拾ってくることができる。
 むしろ欲しい腕時計が無傷の完品で売り出されていたりすると、「うわ、値段が上がっちゃう、困ったな」と思うくらいです。
 
 先に値段をいっちゃうと、10本買って4万円しかかかりませんでした。それで、「出物を探す遊び」ができて、オークションで競り落とす楽しみも得られたので、気分的にはトクしかしてない。
 
 その10本のなかに、「どうでしょうさんの腕時計」も3本ありましたので、皆さんにご紹介します。
 
 
■アラスカの目玉時計
 
 大泉さんがアラスカと東京ウォーカーで着用していた目玉っぽい形の腕時計がこちら。

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 ブランドはDuFFSで、裏蓋にはESD-504と書いてあります。「97 SUMMER LIMITED」とも書いてあるので、1997年の夏限定モデルなのかな。製造番号などはありません。どこの時計会社が受託製造していたのかも不明です。
 
 これは興味深いデザインです。ケース全体が、涙のしずくを引き延ばしたような形をしており、ガラスは楕円で、文字盤は円型。
 なんとなく、彗星か流星が飛ぶさまを表現したようにも見えて、レトロフューチャー感があります。
 
 私が持ってる時計コレクションの中で、一番か二番めに変わった形の時計となりました。大泉さん、どこでこういう腕時計を見つけてくるんだろう、そしてこういうのを「これだ!」といって買うのだからすごい。
 
 このDuFFSウォッチは、文字盤やベルトの色違いはしょっちゅう見かけるものの、まさにこの色、白地に黒目のモデルがあまり出回りません。入手できたのはかなり運がよかった。大泉さんとまったく同じものがほしかったのです。「水曜どうでしょうグッズ」として買っているので、同じでないと意味がないのね。
「大泉さんはアラスカで、バリラのスパゲティーをビーフンに変えていたときにこれを身につけていたのか……」と思うと感慨もひとしお(料理だけに)。
 
 元の持ち主がかなり使い込んだとみえて、私の手元に来たときにはめちゃくちゃ汚かったのですが、時計修理会社に持ち込んで洗浄してもらったら綺麗になりました。その修理会社の店員がびっくりするような失礼な人間だったのだけどその話はまたいずれ……。
 

■原付ベトナムのクロノグラフ
 
 続きましてはこちら。

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 原付ベトナムで大泉さんが着用なさっていたPaul Smithのアナログ&デジタルのクロノグラフ。シチズン製、C390-Q02489 Y。
 
 この時計、私は勘違いをしていて、しょっちゅうネットで売りに出ているのを見かけていながら「これじゃないんだよなぁ」と思い込んでいました。
 というのは、どうでしょうベトナム編をみると、この時計、黒地に白い小丸の時計に見えるのです。
 だから、「大泉さんのポールスミスは黒地に白丸」でずっと探してしまっていました。 
 でも実際には、大泉さんのポールスミスは黒地に水色の小丸の腕時計なんですね。
 あるとき、「これだけ本命の時計を見かけないのはへんだぞ」と気づいて、調べ直したところ、この時計に黒地に白のモデルは存在しないことが判明。じゃあ水色じゃん! ということになり、探し直して手に入れた次第です。
 
 この時計は、下側の左右にデジタル表示窓がふたつついており、いわゆるアナデジとなっています。
 デジタル表示窓の主な用途はいわゆるワールドタイマーで、ボタンを押すと各国の時間が即座にここに表示されるようになっています。
 
 原付ベトナムのとき、大泉さんは、「海外に行く」ということだけは察していたので、海外で便利そうな時計を持ってきたということなんでしょう。バンコク時間を表示すればベトナム・ハノイの現地時間に合います。
 
 また、デジタル表示窓で表示した現地時間を、アナログ時計の針に即座に反映させる機能もついています。いってみれば、今でいうセイコー・アストロンのような衛星電波時計に近しい機能を手動で実現する時計だということになります。
 
 大泉さんといえば、「望んでもいないのに強制的に海外に連れ去られる」という特殊な職業の人でした。きっと「こういう時計があれば、いきなり海外に連れ去られたときに便利じゃぁないか!」ということで購入なさったにちがいありません。この時計の選択については、すごく納得がいきました。
(そして、こんにちの大泉さんは、きっとGPSウォッチを1本持っていそうだなという想像もはたらきました)
 
 ちなみにこの時計、時刻を正しく合わせる方法がとんでもなくややこしく、取説がなければ手に負えません。シチズンに「取説のPDFをください」とメールしたら、「取説はなかったけどかんたん設定ガイドならありました」ということで送ってもらえました。この時計をもっていて設定に困っている方はシチズンに問い合わせてみてください。


■ジャングル・リベンジのディーゼルDZ2054

 これは大泉時計のなかでいちばん知られているものですね。

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 ジャングル・リベンジの飛行機のシーンなどに移りこんでいて、「あの白い大きな腕時計は何?」ということで話題になって、ファンがこぞって買いもとめたという逸話があるもの。
 これはみなさん大事にもってらっしゃるのか、めったに出物を見ません。
 
 でも、だいぶまえにとあるショップで見かけたので、確保しておきました。風防にけっこう傷があって、そのおかげか安かった。前述のとおり私は傷はまったく気になりません。
 
 この時計もけっこうクセがあって、文字盤中央の12数字の部分が液晶画面になっています。
 15秒ごとに、この液晶部分が真っ暗になり、いわゆるジャノメ(蛇の目)文字盤のようになる。
 そして15秒かけてだんだん明るくなり、1から12までの数字が見える状態にもどる。
 ようするに、見るタイミングによって、全数字文字盤になったり、蛇の目文字盤になったり変化するということになります。

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 なお、この液晶は、べつだんバックライトつきではないので、暗いところでの視認性はゼロです。明るくなったり暗くなったりするのはたんに面白味のためだけで、実用性は皆無です。
 おそらく大泉さんは、ブンブンクンバンの暗闇の中で、時間がいっさいわからなかったことでしょう。
 
 この時計を着用して、何度か外出してみましたが、でかくて重いわりにバランスは良く、大きなレザーパッドで腕を覆ってくれるので、着用感はわるくありません。DIESELの腕時計にはいろいろ疑問符がつく点が多いと常々考えているわたしですが、この時計は良いです。
 

■今後の展望

1)例の緑色の時計について
 正体はいまだ不明です。今後もわかる見込みはありません。欲しいといえば、この時計がいちばん欲しいのですけどね……。
 
2)その他について
 展開がありましたらお知らせします。また、大泉さんがあのとき着けていた時計はこれ! といった情報提供をお待ちしています。
 
 今回はここまで! 以上!
(BGM:宇宙戦争 からの1/6の夢旅人流れる)

2023年5月 7日 (日)

[ドラクエ11]グレイグの服とその誇り

 ドラクエ11の小さな話題。
 
 ふと思い立って「グレイグ」で検索しようとしたら、検索サジェストに「服 ダサい」と出てきて笑ってしまった。
 
 グレイグは前半、敵として登場し、後半、味方となるキャラクター。
 かれは、前半、黒塗りのイカツい鎧を着た武将として姿をあらわすが、物語の折り返し地点で世界が崩壊したのち、主人公の故郷であるイシの村を魔物から守るため、体をはって戦い続ける孤独な戦士として再登場する。
 
 その再登場のとき、以前着ていたゴージャスな鎧はどこかに消え失せていて、青っぽい布の服を着た男となっている。
(どうやら鎧は、民を守るための資金として売り払ってしまった、という設定がある模様)
 
 その布の服が、以前着ていたかっこいい鎧にくらべてなんともダサいということで話題になったようです。
 確かにそうなんだけど、私、あれ大好きなんだけどな。
 
 グレイグの服は、黄色いアンダーウェアの上に、青色の貫頭衣っぽい上着を着たような恰好だ。
 その青い貫頭衣は、くすんだ青と濃い青の市松模様になっている。
 
 声を大にして言いたいのだけれど、この服についてはもう明らかに、勇者ローシュか、ドラクエ3主人公の衣装に似せたものだ。
 イシの村で縫われたものだと推定できるので、お針子たちが実際に参照したのは勇者ローシュの絵姿だろう。イシの村では、女たちが、縫物をすることで村の生存に貢献しようとしている姿が描かれる。
 
 イシの村で、村人たちは、グレイグのことを、
「毎日体を張って、傷だらけになって、死ぬような思いをして村を守ってくれる、二人といない英雄」
 として、心の底から感謝し、信頼している。
 
 村人たちにとって、他の誰でもないグレイグこそが、「我々を救ってくれる勇者」なのだ。
 
 だからイシの村人は、「あなたこそがわたしたちの勇者だ」という感謝の心を、形で示そうとする。
 
 物資も食料も乏しいなかで、できることは何だろう。それは、村じゅうから青い布をかきあつめて、伝説の勇者の衣装をつくることだった。
 
 グレイグのあの服が市松模様なのは、村じゅうから青系統の服や端切れをかきあつめて、縫い合わせて作ったパッチワークキルトだからだ。
 
 だからあの服は、イシの村という、この世界でいちばんの田舎で作られたありあわせのものであり、とても素朴なものだ。
 
 しかし好漢グレイグは、その粗末ともいえる衣装に、最上の誇りをもって袖を通したことだろう。

 

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