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加納新太

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    カードゲーム「アクエリアンエイジ」のマンガ版です。短編形式で6編収録されています。月刊コンプティークで連載しました。全編の脚本を書いています。

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2021年6月27日 (日)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(7)

 第三回で取り上げた、「さとりの書とけんじゃの石と賢者にまつわる話」の付け足しです。
(筆者は第三回の内容をとても気に入っています)
 
 第三回の内容を前提とした上での話をしますので、まずはそちらを読んでいただくといいと思います。
 
 最終的に、
 
『鳥山明 ドラゴンクエスト イラストレーションズ』に掲載された牛魔王っぽいボスモンスター『ボス その2』は何なのか」
 
 という謎について、独自の答えを出します。
 
 牛魔王っぽいモンスター『ボス その2』というのは、これ。
 
Dq_gyuumaou
『鳥山明 ドラゴンクエスト イラストレーションズ』(鳥山明・集英社・2016年刊行)
※著作権法に基づく引用としての使用 
 
 
 ドラクエ3開発当時に、堀井さんからの発注で鳥山明先生が書いたボスモンスターなのですが、製品版では使われていませんボツになったのです。
 
 最終的に「これは何なの?」についての私の説を書きますが、そこにたどりつくまでに少々ややこしい話をします。
 
     ☆
 
 なお当記事は『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示されていた、ドラクエ3の最初期の制作資料から、(製品版とは違う)初期構想を読み解いていこうというシリーズです。
 
 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)
 第二回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)
 第三回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)
 第四回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(4)
 第五回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(5)
 第六回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(6)  
 
 ※注:「ドラゴンクエスト」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、情報のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 小説版、外伝等は参照しておりません。
 
 
 
■千の顔をもつ英雄
 
 ジョーゼフ・キャンベルというアメリカの有名な神話学者がいらっしゃいました(故人)。
 
 若い頃のジョージ・ルーカスが、この先生の本を読んで、強い影響を受け、その理論を援用してスター・ウォーズの脚本を書いたというエピソードがものすごく有名です。
 
 キャンベルの最大の功績は、世界各地の神話、とりわけ英雄譚には、きわめて似通った……というか、ほとんど共通といってもいい「型」(構造)がある、ということを発見したことです。
 
 世界にはさまざまな文明・文化があり、それぞれ独自の英雄神話を持っている。でも肉付けをとっぱらって骨組みだけにしてみると、
「ほとんど全部、おんなじ話じゃないか」
 ということがわかってくる。
 
 だから、世界には千もの神話があり、何千という英雄が語り継がれているけれども、つきつめたらそれって実は、「おんなじ体験」をしている「ひとりの英雄」のことなんだっていう言い方ができちゃう。
 
 世界中の神話を並べてみると、あまたの名前をもち、あまたの顔をもつ、たくさんの英雄がいるように見える。
 けれどもそれらはなんと、「たった一人の英雄」がいろんな形で語られてるだけなんだ、っていう極論が成り立ってしまう。
 ジョーゼフ・キャンベルは、これを「千の顔をもつ英雄」と呼んだ。
(この時点でもう、めちゃめちゃカッコイイ)
 
 なぜこんなにも似通っているかというと、どんな時代のどんな地方に住んでいるかに関わらず、あらゆる人間がかならず体験する「原体験」を材料にして、これらの神話がつくられているからだ。
 こうした神話のかたちは、「わたしたちの心」というものから自然にでてくるかたちであり、だからこそ万人の心をうつのだ。
 
 それを言い換えるとこうなる。
「千もの神話に登場するたった一人の英雄」の正体は、わたしたち、つまりあなたなんじゃないの? と。
 神話の英雄譚って、わたしたち、つまりあなたが、これまで体験してきたか、あるいはこれから体験することになる事件が先取りされているというものではないのか?
 
 そういうスゴイことをジョーゼフ・キャンベル教授はおっしゃるのです。
 
(以上の要約は、今、一瞬でアウトラインをのみこんでもらうためにかなり大胆なはしょりかたをしています。本来の論旨を知りたい方は、キャンベル教授の『千の顔をもつ英雄』『神話の力』を読んでください)
 
 さて。
 堀井雄二さんがこの話を知らずにドラクエ3を作ったとは、私にはとうてい考えられないのです。
 
 
■勇者ロトの千の顔
 
 その英雄は、かつて世界の全部を支配していたという古い王国からやってきました。
 
(そう、つまり、ドラクエ3の主人公のことです)
 
 その英雄は、ぬすまれたイタリアの王冠を盗賊の手からとりもどしました。
 
 互いに反目しあう北欧のエルフと人間とのあいだに立って、仲裁をしました。
 
 エジプトでは、動き回る死体たちがはびこる謎めいたピラミッドの探検を成功させ、はるかなシルクロードをわたって、ヨーロッパ・インド間の交易路を確立し、船にのればバスコ・ダ・ガマのように喜望峰をこえる航海探索をしました。
 
 南米の王国では、王様に化けていた怪物の正体をあばく活躍をし、北の果てに住む老魔法使いと秘密の取引をし、呪われたローレライを天国に送りだすことまでしました。
 
 伝説の不死鳥をこの世によみがえらせました。
 
 この世のすべてを見下ろす竜の女王との謁見に成功しました。
 
 そして日本に渡ってきて、悪竜ヤマタノオロチを退治し、かれは後の世に「スサノオノミコト」という名前で語り継がれました。
 
 どれもこれも。
 それぞれの地方で、伝説的英雄の物語として、永久に語り継がれそうな活躍です。
 
 なんと驚くべきことに、
 実はそれは、すべて、たった一人の人物がおこなったことだったのです。
 
 そして。
 ドラクエ3を最後までやった方はご存じだと思いますが……。
 
 世界各地で英雄的行為をつぎつぎとなしとげた「たった一人の英雄」勇者ロト。その正体は、わたしたち、つまりあなただったのだ……という素敵なプレゼントが、この物語の結末にもたらされるのです。
 
『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ…』の最終的なメッセージはこうだ。
 
「これはあなたについての物語であり、あなたの事績が、英雄伝説として不朽の価値をもって語られ続けるのだ」
 
 
■突き合わせは無限にできるが
 
 ドラクエ3の上の世界が、現実の世界地図そっくりなのは、勇者ロトを「千の顔をもつひとりの英雄」にするためだと推定することができる。
 
 ドラクエ3と『千の顔をもつ英雄』の突き合わせ、みたいな作業は、たぶんやろうと思えば無限にできそうです。
 
 境界をまたいで、人間の無意識領域のような異世界(アレフガルド)に踏み込むこともそうだし、その異世界で、グレートマザー的な女神(精霊ルビス)の加護を得て、父なるもの(勇者オルテガ)と象徴的な意味での合一化をなしとげるんだから、もう、まったくそのものだ。
 
(つまり、個々のイベントだけでなく、ドラクエ3の物語全体を見た場合も、ジョーゼフ・キャンベルの指摘した神話類型にそったものになっている)
 
 そういう突き合わせ作業は、まあ、気が向けば私がやるかもしれません。でも、直感ですけど、「ほら、ここも、ここも、こんなとこまで、全部ジョーゼフ・キャンベルで説明できちゃうよ!」という確認作業にしかならないような気がします。
 ちっさな声でたびたび本音を言うのですが、そういう確認作業にとどまってしまうドラクエ論が多いような気がしていて、私はなるべくそうでないものを書こうとしています。
 
(なので、そういう確認作業にとどまらないものが掘り当てられそうな予感がしたら、やるかも)
 
 それはともかくとして。
 
 堀井さんは、以下のような裏テーマを握って、ドラクエ3を構想していたんだって推定することができます。
 
「世界中につたわる神話という神話、英雄譚という英雄譚を、すべて勇者ロトがなしとげたんだってことにしちゃおうぜ」
 
 
■西遊記としてのドラクエ3
 
 ドラクエ3は、勇者ロトと三人のお供が、さまざまの危険な場所におもむいて戦う物語です。
 
 主人公と三人のお供、というと、日本人がまず思い出すのは桃太郎。
 
 でも、お隣の中国に目をむければ、同じように1人+3人で冒険する、とんでもなく有名な物語がありました。
 それは『西遊記』です。
 
「世界中の英雄譚を一人の業績として包摂(包み込む・まとめること)してやろう」という裏テーマを握って、主人公と三人のお供が冒険する物語を作ろうとしている作者が、『西遊記』のことをうっかり見逃すというのは、ちょっと考えにくい。
 
 堀井さんがドラクエ3を構想するときに、
「どっかに西遊記をモチーフにしたイベントを入れよう」
 というアイデアを持っていた可能性はひじょうに高いと考えられます。
 
 西遊記は、玄奘という仏教の僧侶が、孫悟空以下3名のお供をつれて、インドまで仏教の経典をとりにいくお話です。
 
 ドラクエ3でいうと、主人公(勇者)が玄奘ポジション……としてもいいのですが、西遊記の主人公はなんといっても孫悟空
 
 そのいっぽう、ドラクエ3には、連れ歩けるお供のジョブとして「僧侶」がいます。
 
 ドラクエ3は、初見プレイを僧侶(および転職後の賢者)抜きで走破するのは極めて困難なゲーム。つまりは、大多数のプレイヤーのパーティに、「勇者」と「僧侶」がいる想定が可能です。
 
 ほとんど全部のパーティに、孫悟空としての勇者と、玄奘三蔵法師としての僧侶が、自然に含まれることになる。これは具合がいい。ナチュラルに西遊記ができそうだ。
 
 さあ、どこにどんなイベントを置いたら、「勇者ロトの正体は孫悟空」になるだろう。
 
 ……インドに仏教の経典をとりにいく?
 
 
■さとりのしょとは何か
 
 ドラクエ3には、ほぼインドをモチーフにした、バハラタという町が存在します。その北には、チベット仏教をモチーフにしたと思われるダーマ神殿があります。
 
 この近辺に、仏典っぽいアイテムを置いて、それを取りに行くクエストを設置すれば、西遊記をモデルにしたクエストになる。
 
 ……ここで話は、第三回の内容に戻る。
 
 ダーマ神殿の近くに、ガルナの塔がたっています。この塔のてっぺん近くに「さとりの書」が置いてある。
 
 ドラゴンクエストミュージアムで展示された制作資料で判明した事実ですが、初期構想での「さとりのしょ」は、賢者に転職するためのキーアイテムでは「なく」、「僧侶の最大MPを10~15ポイントアップする」という効果だったのです。
 
 僧侶の能力をアップグレードするためのアイテムだったのです。
 
「さとりの書」……?
 
 皆さんご存じのとおり、仏教というのは、「悟りを開く」ことにフォーカスしています。人間が、認識力や思考の枠組みを高次元にアップグレードする、ということを目指している宗教なのです。
 
 三蔵法師玄奘という僧侶が、はるばるインドまで旅して求めた仏教の経典というもの。
 
 それって、やわらかめの言葉にひらいてみれば、こういう言い方ができるのではないでしょうか。「悟りの書」と。

 
 
■「ボス その2」の正体
 
 ですからこう思うわけです。ガルナの塔にさとりの書が置いてあるという表現は、元はといえば、勇者ロトを孫悟空にすることを目的としたものだった、と。
 
 ここで話は、冒頭で画像引用したボツモンスターにつながります。
 
 堀井さんが鳥山先生に「ボスモンスター」として発注したキャラクター「ボス その2」が製品版では不使用となりました。
 このキャラクターはいったい、どこで、どんなふうに使われる予定だったのか、気になってる人は多いでしょう。
 
「ボス その2」は、中国の武人のようでもあり、ならず者のようでもある格好をしています。ぶっちゃけた言い方をすれば、西遊記に敵役として出てきたらちょうどよさそうな外見をしているのです。
 
 だから私の考えではこういう結論になります。「ボス その2」はガルナの塔にいて、さとりの書を我が物としている妖怪だ。こいつを孫悟空勇者ロトがやっつけ、僧侶玄奘は仏典を手に入れる。
 そのことで「勇者ロトの正体は、なんと、孫悟空でもあったのだ」という形が手に入る。
 
「ボス その2」は、背後にスカイドラゴンを背負ってますし、ガルナの塔にはスカイドラゴンが出現しますから、その点でも蓋然性は高そうですね。
 西遊記にも竜は登場しますし、スカイドラゴンは東洋風の竜です。西遊記を実現するためにワンセットでデザインが発注され、スカイドラゴンだけが残った、くらいにみておいてよさそうだ。
 

■追記1・「ボス その2」とカンダタ
 
 屋上屋を重ねるかたちになりますが、この『ボス その2』。
 
 このキャラクターがもしドラクエ3に実装されていた場合、
「カンダタ」
 という名前で登場していた可能性があると思っています。
 


 
 この稿を読んでいる方には説明不要かもしれませんが、カンダタは、ドラクエ3で印象的に登場する大盗賊
 最初はロマリアの王冠を盗んでシャンパーニの塔に隠れていたところを主人公にとっちめられ、続いてバハラタ(つまりインド)で人さらいをして主人公にとっちめられ、最後はアレフガルドのラダトームに落ちていって、すっかり改心した姿であらわれます。
 
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1) で簡単に触れたのですが、堀井さんの最初期のプランには、「シャンパーニの塔」は存在していなかったのです。
 つまり「ロマリアの王冠を取り戻すためにシャンパーニの塔へゆき、カンダタをとっちめる」というクエストは、後のほうになって思いつかれて、付け足されたストーリーなのです。
(だから、クリアしなくても問題なくストーリーが進む仕様になっている)
 
 その一方で、「バハラタでさらわれた娘を助ける」というクエストは、最初期から存在していました。
 ですから最初期のプランでは、カンダタの初登場は「バハラタでの人さらい事件」であったと見なせます。
 
 となると、最初期のプランでは、カンダタの悪事は一回こっきりだったのだろうか?
 
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)を書いた時点では、私は「1回こっきりだったのだろう」と考えていましたが、ちょっと考えが変わりました
 
 そもそも「カンダタ」というキャラクターの元ネタは、芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』の主人公カンダタです。
(さらに元をただせば19世紀にヨーロッパで書かれた創作仏教説話だが、堀井さんが参照したのは芥川だろう)
 
 芥川が書いたカンダタは殺しや火付けやさんざんな悪事をはたらいた大どろぼうです。悪事のむくいで地獄に落ちて苦しんでいたのですが、そんなカンダタにお釈迦さまがふと慈悲心をはたらかせ、地獄から救い出してやろうとするが……というお話です。
 
 つまり元ネタにおけるカンダタは仏が救おうとした悪党で、仏教との関わりのなかで描かれたキャラクターです。芥川はカンダタがどこの国の人間かを明確にしていませんが、お話の設定やイメージからいって、読者の多くはインド人をイメージしていたはずです。 
(たとえば夢枕獏先生の『陰陽師』に登場するカンダタは、インドからやってきて日本で客死した渡来人です)
 
 前述のとおり、ドラクエ3の最初期のプランでは、カンダタの初登場はインドにあたる地域バハラタです。
 
 そして『ボス その2』は、これも前述のとおり、「中国の仏僧がインドまで経典を取りに行くお話=西遊記』に登場したらちょうどよさそうな格好をしています。
 
 なので私の想像はこうです。
 
「最初期のプランでは、バハラタで初登場する盗賊カンダタは、『ボス その2』の姿をしていたのである」
 
『ボス その2』の姿をしたカンダタは、インド周辺を根城にしている盗賊である。玄奘と孫悟空にあたる主人公一行がカンダタをこらしめる。カンダタは慈悲を乞い、主人公一行はこれを許す。
 
 だがカンダタは悪党なので、そう簡単には改心しない。「こんどは失敗しねぇ」とばかりに、ガルナの塔にたてこもり、さとりの書を求めてやってくる修行者あいてに追い剥ぎ行為をくりかえす。
(『ボス その2』の見た目は妖怪なので、「修行場にやってきた僧侶を食う」とかでもいい)
 
 インドの仏典=さとりの書を求めてダーマ神殿までたどり着いた主人公一行は、僧侶たちの修行場ガルナの塔が、悪党に占拠されていることを知る。ならばやっつけてやろうと出張っていってみれば、そこにいたのはこないだ許したはずのカンダタだ。
 
 孫悟空にあたる主人公はもういちどカンダタをこらしめ、今度こそ改心させる。主人公一行はみごと仏典=さとりの書を手に入れる。
 
 以上のようなストーリーを想定すると、
 
「カンダタを2回こらしめるという段取りを踏みたい」
「インドの悪党というカンダタのイメージを踏襲したい」
「主人公は孫悟空でもあったのだ、という見立てを作りたい」
 
 という3つの条件が、いちどに成立します。
 
 
■追記2・なぜ、そうならなかったのか
 
 しかし製品版ではそうはなっていません。なぜそうならなかったのか。
 
 いちばん大きな理由として、まず、『ボス その2』の見た目が複雑すぎます。
 これをファミコンの画面でドット打ちして表示しようとした場合、とんでもなく大きく表示されるキャラクターとなってしまう。
 容量を食うのも問題ですが、「ゾーマやバラモスよりも巨大で威厳のある存在になってしまうおそれがある」。
 
 おそらく、鳥山明先生からキャラデザインが上がってきた段階で、「これは実装できないね」という話になったはずです。
 なのでやむをえず、カンダタの外見は、適当なザコモンスターから流用した。覆面パンツマンになってしまった。
 
 もうひとつの大きな理由は、「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)で論じたとおり、
 
「さとりの書を、僧侶のパワーアップアイテムではなく、賢者に転職するためのアイテムに変更したので、『さとりの書=仏教の経典』という見立てが破綻した
 
 さとりの書を、仏教の経典として見立てることで、はじめて「主人公一行=孫悟空一行だ」という見立てが可能となります。
 
 さとりの書が仏典でないのなら、主人公たちを孫悟空だとみるアングルが難しくなります。おまけに、インドか中国っぽいならず者としてデザインを発注した『ボス その2』が、ドットで再現するには複雑すぎてボツになった状態です。
 
 こうなると、「主人公は孫悟空でもあったのだ」という仕掛けはあきらめたほうがいいな、ということになってくる。
 
 孫悟空プランをあきらめるなら、ガルナの塔にボスがいる必要はなくなる
 
 ガルナの塔を「クエストで行く場所」と設定してしまうと、大多数のプレイヤーがガルナの塔に登ることになる。その結果、大多数のプレイヤーが、「なりゆきで」さとりの書を入手することになる。
 
 さとりの書が「僧侶のパワーアップアイテム」だったときにはそれでよかったが、プランが変更されて、さとりの書は「賢者転職アイテム」になっている。
 
 賢者については、なりたい人が自発的に「なる方法」を求めるようなかたちのほうがいいんじゃないか……といった判断があったかもしれない。
 
 そういった判断で、「ガルナの塔に悪党が住み着いた」というクエストはお蔵入りにする。ガルナの塔は、「賢者になりたい人が勝手に見つけて登れば良い」という場所にする。
 
 だが、「いちどこらしめられたくらいでは懲りない悪党カンダタ」というイメージはちょっと惜しい。カンダタの登場シーン、どっかにもう一つ作れないだろうか。
 
 そうだ、ガルナの塔でやる予定だった「お宝をせしめて塔の最上階にたてこもる盗賊」というシナリオを、別の場所でそのままやればよい
 
 そういえば、ロマリアには何もクエストを設定していないし、フランス近辺に、何もないせいでプレイヤーが誰も足を踏み入れなさそうなフィールドがある。
 
 この位置に塔を建てて、「ロマリアの王冠を盗んだカンダタがここに住み着いている」というクエストを作ればいい。
 
 そんなわけで、シャンパーニの塔が後付けで建てられた……。
 そんな感じで想像しておくと、いろんなところにうまくつながりそうだ、というお話でした。
 
(前述のとおり、堀井さんの最初期のプランに、シャンパーニの塔は存在しませんでした。ドラクエ3の全体像がだいたい白地図に書き上がってから、かなり後になって付け足されたことがわかっています)


■ドラゴン殺しのクエスト
 
 紙数があまったので、「世界中の英雄物語を包摂する」という話にちょっとだけ付け足しをしときます。
 
『ドラゴンクエスト』というタイトルは、意味としては「ドラゴンを探し求める」。意訳して「ドラゴン退治」くらいに理解することができます。
 
 ドラクエ1は、竜王を倒すことが最終目的でしたから、文字通りドラゴンのクエストでした。ドラクエ2は……これは説明すると長くなるから別の機会にまわしますが、かなり明白にドラゴンを退治するシーンが実はあります(そのうち書きます)。
 
 ドラクエ3はどうでしょう。
 竜の女王と面会するから、「ドラゴンの探求」ということでいいでしょうか。
 
 もちろんそれでもいいのですが。
 前述したとおり、ドラクエ3の主人公・勇者ロトの正体は、ヤマタノオロチを退治した英雄スサノオノミコトです。
 
 つまりかれは、日本という国において、最も有名なドラゴンスレイヤーだ。
 
 そしてもうひとつ。
 ゾーマ直属の三悪魔
 
 そのうち二匹がバラモス兄弟(バラモスゾンビとバラモスブロス)なのはいいとして、なぜ三匹目はキングヒドラなのか
 
 ヒドラ(ヒュドラ)というのは、ギリシャ神話にでてくる怪物で、多頭の蛇。これを退治したのは英雄ヘラクレスです。これはかれの業績のなかでは一番か二番目に有名なエピソード。ヘラクレスはヒドラを殺したことにより、ギリシャ最強のドラゴンスレイヤーとなりました。
 
 ドラクエ3のなかでは、キングヒドラと因縁をもつのは勇者オルテガ。勇者ロトの実の父親です。
 
 勇者ロトは八岐大蛇という多頭の蛇との因縁を持ち、その父オルテガもヒドラという多頭の蛇との因縁を持つ。これが構造として意図されていないとはどうしても考えられない。
   
「世界中の英雄譚を包摂する」という、当議論の前提をふまえるとこうなります。「勇者オルテガはヘラクレスだ」。この形をつくるために、キングヒドラというモンスターを必要としたんだって私は勝手に思っています。
 
 なんと、スサノオノミコトは、ヘラクレスの実の息子だった! という、神話コラボというか何というか、すげぇ真相が発生するのです。この想像は私にはたいへん愉快。
 
 ドラクエ3は、指輪物語にかなり直接的な影響を受けてるだろう、という話は、前回にちょっとしました。
 
 なので、ドラクエ3を乱暴にぎゅっと縮めて一言で言うと、こうなるのです。
 
「東西最強のドラゴンスレイヤー親子が、宇宙最強のサウロン的死人遣いを殺しに行くお話」。
 
 堀井さんは、ドラクエ3を構想するとき、「最終的には、こういう形になったらいいなあ」というイメージをにぎって、物語を書き始めた……のではないかなあと思うのです。
 
「世界中の英雄譚を一人の業績として包摂」という裏テーマで個々のエピソードを積み重ねる。
 その課程で、「ドラゴン殺しの英雄親子」という見立てを作る(この物語は「ドラゴン殺したちのクエスト」である)。
 そうした神話的断片を統合して、ラストに向かって流れ込ませる際には、指輪物語の骨組みを利用する。
 
 というのが、私がフワッと想像した、「最初期にプランニングされたドラクエ3の全体像」です。
 
 
 以上です。
 書きたかったことはあらまし書いたので、このシリーズはいったんクローズします。
 でも何か思いついたら、ふいに付け足しを書くかもしれません(そういう場合が多いです)。



2021年6月20日 (日)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(6)

 第六回です。今回取り上げるのは、グリンラッド。それとアイテムリストです。
 
 当記事は『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示されていた、ドラクエ3の最初期の制作資料から、(製品版とは違う)初期構想を読み解いていこうというシリーズです。
 
 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)
 第二回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)
 第三回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)
 第四回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(4)
 第五回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(5)  
 
 ※注:「ドラゴンクエスト」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、情報のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 小説版、外伝等は参照しておりません。
 
 当記事に掲示する画像のうち、手書きの再現画像はすべて、『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示された制作資料を、私が手書きで部分的に再現したものです。画像で示されている内容は、株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者の著作物です。著作権法第32条に基づき、研究を目的とする引用としてこれらを掲示します。展示会場で書き写したため、写し間違いが生じている可能性があります。これらの画像の転載・改変・再配布を禁じます。孫引きも遠慮してください。
 テキストによる引用部も出所は同じであり、扱いは同様です。
 

 地図記号の内訳はこうです。
 
 回 城(K)
 ◎ 町(M)
 ○ 村(V)
 ☆ ほこら(S)
 I 塔(T)
 ■ 洞くつ(D)
 ● 穴(H)
 
 
■グリンラッドにガイアの剣?
 
 グリンラッドです。製品版の通りの場所に、村「○V10」が置いてあり、ガイアの剣って書いて消してあります。え?
 
(初期制作資料・グリンラッド周辺・抜粋)
Dq_grinland 
 

大まほう使い
 変化の杖
 ←→ガイアの剣
 ふなのりのほね

 
 左右に振ってある矢印(←→)は、交換を意味するものと理解して良いでしょう。魔法使いのじいさんのところにへんげのつえを持って行くと、何かと交換してもらえるというプランは当初からあった(製品版にもある)。
 
 さて、その交換品は、当初ガイアのつるぎであったが、それをとりやめて、ふなのりのほねに変更した……というふうに読むことができます。
 
 製品版の流れでは、ふなのりのほねを入手すると幽霊船が出現し、幽霊船であいのおもいでを入手し、あいのおもいでを使うとオリビア岬が通行可能になり、岬の先にあるほこらの牢獄でガイアのつるぎが手に入ります。
 
 その流れは当初存在しなかったのか? という話になる。
 
 しかし、この資料には前回取り上げたとおり、あいのおもいでが積まれた舟が存在します。
 あいのおもいでを使うための「ローレライ」も配置されています。
 
 へんげのつえを直接ガイアのつるぎに変換できるなら、初期構想でのほこらの牢獄には何が置かれていたんだっていう謎が発生します。
 
 オーブではなさそうです。なぜならこの資料にオーブの位置は6個ぜんぶ書かれていますし、前回取り上げた通り、置き方からみてネクロゴンドの「オーブ6」が最後のオーブなのは明らかなので、「7つめのオーブ」を想定することは困難だからです。
 
(というか、レイアムランドの文字資料に「6のオーブをあつめ」と書いてある。前回参照)
 
 ここから推測。
 
 堀井さんの頭の中に、「へんげのつえをガイアのつるぎと交換」というプランが仮に存在したとしても、それが存在したのはきわめて短期間であり、この資料を書き終わるときくらいにはもう取り消していた。
 
 堀井さんがこの資料を書いているとき、もちろんドラクエ3の全体像は見えていたのだけど、すべてのイベントをビシッと完璧にそろえてからババッと一瞬で書き出したという「わけではなく」、書きながら「ウーン」と考えているような部分ももちろんあった。
 
 そしてこの資料を書き出したとき、ほこらの牢獄に何を置くかは決めてなかった
 
 へんげのつえとの交換品を「ふなのりのほね」にするか、「ガイアのつるぎ」にするかで何が変わるかというと、ガイアのつるぎ入手までのチャートに「ローレライイベント」(製品版ではオリビアの岬イベント)をはさむか、はさまないかだ。
(幽霊船はローレライイベントの一部と見なせる)
 
 ローレライイベントは第四回で取り上げた通り、ドラクエ2のころから堀井さんが実装したかったイベント。
 
 つまり「この形のイベントを実装するぞ」と決めてから、「ごほうびのアイテムは何にしようかな」と考える。堀井さんの思考順序はこうだったはずです。
 
 ローレライイベントの報酬に何を置けばいいのか困った堀井さんは、ガイアのつるぎをここに置けばいいと思いつく。ガイアのつるぎは上の世界の最重要アイテムのひとつなのだから、入手タイミングは遅ければ遅いほどいいし、入手方法は相当ややこしくても許される。
 ローレライが「必ず通らなければならないイベント」になってくれるので、このイベントに思い入れのある堀井さんとしても気持ちが良くてうれしい。
 
 そういうわけで、グリンラッドに書いてあった「ガイアの剣」という書き込みを二重取り消し線で消して、ローレライイベントの起点アイテムである「ふなのりのほね」を代わりにここに書き込んだ。
 
 ただ、「へんげのつえ←→ガイアのつるぎ」交換だったときには、「ものすごく良いものと、ものすごく良いものの交換」だったので納得感が高かったのです。
 魔法使いが杖を手に入れ、勇者が剣を手に入れる、という交換だったので、適材適所でもありました。
 
 しかしそれを「へんげのつえ←→ふなのりのほね」交換にしたことで、「ものすごく良いものとガラクタとの交換」になり、ちょっと印象がフワッとすることになった。
(なんで俺はこんなものと交換するのだろう、と首をかしげながら交換に応じたプレイヤーは多いはず)
 
 ただし。
「お宝をゆずってガラクタをもらう」のって、シリーズが進んだ今にして思うと、ものすごく「ドラクエっぽい」のです。
 
 ガラクタこそが宝なんだ、という思想っぽいものが、ドラクエシリーズにはけっこう何度もでてきます。その思想の起点はドラクエ3なんだ、というように、言うことができそうです。
 
「あそび人が賢者になれる」なんて、まさにそれ。
 
 
■仙人と指輪物語
  
 フィールドマップのラフコンテについては、以上です。
 
 ここからは文字ベースの資料をかんたんに取り上げます。
 主にアイテムリストを扱いますが、さすがに、文字資料のすべてを筆写してくることはできなかったので、抜粋で引用します。
 
※注:文字資料の再現画像はすべて抜粋。行と行のあいだに、べつのアイテム等が記載されていた場合もありますが、略しています。
 
 まず、堀井さんがアイテムリストをチュンソフト宛てにFAXで送ったときの送り状と推定されるものが展示されていました。
 ここに、リスト中の略語が定義されていました。これはテキストで再現します。
 

まだ 途中ですが、できてるぶんだけ 送ります
 
尚、 武 = 武器
   防 = 防具
   ゆ = 勇者
   せ = 戦士
   ま = 魔法使い
   そ = 僧呂
   ぶ = 武闘家
   け = 賢者(かつての仙人)
   し = 商人
   あ = あそび人
             の略です

(僧侶の「呂」は原文ママ)
 
 この文字資料はWii版ドラクエ3の資料コーナーに収録されたそうで(私は見てない)、ご覧になった方も多そうです。
 
 トピックとしては、「最初期には賢者は仙人という名前だった」ということ。。
 集英社から出ている『鳥山明 ドラゴンクエストイラストレーションズ』という本に、鳥山さんが書いた賢者の原画が掲載されているのですが、そこにも鳥山さんの肉筆で「SENNIN」と書いてあります。
 鳥山さんは賢者のイラストを「仙人」のイメージで書いたことがわかります。
 
 仙人という名前のまま実装されていたら、そうとう東洋感のつよいドラクエ3になっていたかもしれません。
 
 でも、指輪物語のガンダルフあたりをイメージしていた可能性もあります。ガンダルフ、仙人っぽいですもんね。
 
 ドラクエ3は、エルフホビットが出てきて、火山の火口にだいじなアイテムを投げ込む話です。大魔王ゾーマは、きわめてサウロン的な死人遣い。堀井さんは、ドラクエ3を作り始める直前くらいに指輪物語を読み、それに直接影響されてる……ていう可能性は、私はそうとう高いと思っています。
 
 
■ギラとは何か
 
(初期制作資料・アイテムリスト・抜粋)
Dq_raijinnoken
 
 攻撃呪文つきの武器についての記述は、上から3つに書かれているのが全てでした(展示されていた資料の範囲では)。つまり、いなづまのけん、いかづちのつえ、おうじゃのけんは見当たりませんでした。
 
「一匹ギラ小A」「グループギラ大A」「グループギラ中B」なんて書いてあります。
 使うとメラの効果があるまどうしのつえが、「一匹ギラ小」なのは納得ですが、ヒャダルコの効果があるふぶきのつるぎが「グループギラ中」なのは一見、謎です。
 吹雪なのにギラ(炎系の呪文)なの?
 
 ですが、おそらく、ここでいう「ギラ」は単に「攻撃呪文」という意味です。
 
 なんでかというと、前作ドラクエ2では、攻撃呪文に属性はなかったのです。ギラもバギもイオナズンもぜんぶ同属性でした。
 説明書には、ギラは炎の呪文で、バギは真空刃の呪文だ、と書いてあるのですが、ゲーム内部的には扱いは同じなのです。
 
 この資料が書かれたのはドラクエ2制作直後だと推定できます。なので、ドラクエ2のころから(あるいは1のころから)攻撃呪文のことを全部まとめて「ギラ」と呼ぶ、という習慣があり、それがこの時点でも継続していたと考えられるのです。
 
 さて、ドラクエ3では、呪文に属性が設定されました。メラ・ギラ・イオ系、ヒャド系、バギ系、デイン系の4系統です。氷の魔物に氷属性の呪文は効かないので注意、といった使い分けを要求するようになったのです。
 
 効果のあとに丸囲みでAとかBとか書いてあるのが、その属性分けなのだろうと推測できます。まどうしのつえ(メラ)とらいじんのけん(ベギラゴン)がAで、ふぶきのつるぎ(ヒャダルコ)がBなので、Aがメラギラ系Bがヒャド系となります。
 
 ふぶきのつるぎという、明らかに氷属性イメージのアイテムに対して「ギラ中B」という指定を与えているのですから、「攻撃呪文の意味でギラといっている」は妥当性の高い推測だと考えます。
 
 そういうことなので、資料の後半2つ、まほうのよろいとまほうの法衣について、「ギラのダメージを2/3に」と書いてあるのは、ギラ系呪文だけを2/3にするという意味「ではなく」「攻撃呪文のダメージを2/3にする」という意味だと解釈できます。
 
 じっさいに製品版でも、これらの防具は、敵が使ってくる全属性の呪文ダメージをカットする性能があります。
 
 さてところで。
 1988年にエニックスから出版された『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ… 公式ガイドブック』という本があります。
(書名の「3」は例によって実際にはローマ数字)
 
 この本には、魔法の鎧と魔法の法衣について「火の呪文を半減」と書いてあります。公式ガイドブックにそう書いてあるので、私は長年、そうだと思い込んでいました。
(前述の通り、これは誤った記述です)
 
 おそらく公式ガイドブックを作った編集プロダクション会社は、この初期資料そのものか、ここからあらためて清書された初期アイテムリストを見たのだと思います。
 そこに「ギラのダメージを2/3に」と書いてあるのを見て、字義通り「ギラ系呪文を軽減する」のだと思い込んだのでしょう。でもこれは無理もない……。
 
 
■いのちのよろいの行方
 
(初期制作資料・アイテムリスト・抜粋)
Dq_inochinoyoroi
  
「いのちのよろい」という素敵な防具がプランされていたようです。特殊効果は「ギラ・ブレスのダメージ2/3」「歩くごとにHP回復」
 この効果はドラクエ1のときの「ロトのよろい」および、製品版ドラクエ3の「ひかりのよろい」と、ほぼ同じ。
(ひかりのよろいは、のちの世に「ロトのよろい」という名前で伝承される見込みのアイテム。ようは同じものです)
 
 つまりひかりのよろい(ロトのよろい)は、初期段階では「いのちのよろい」という名前だった、ということなんですが……。
 
 よく見ると、「ゆ=勇者」「せ=戦士」が装備可能と書いてあります。
 
 なんとこの時点では、ひかりのよろいは戦士も装備できた
 
 初期構想では、「ロトのよろいは勇者専用装備ではない」という表現にするつもりだったことになります。体格や技量さえそなえていれば、べつだん「選ばれた人間」でなくとも、着用できるものだ、と設定されていたのです。
 
 ここからは私の想像ね。
 
 あたりまえのことを言いますけど、堀井雄二さんは現代人ですし、インテリです。現代に生きる知識人としては、
「生まれながらに、神だかなんだかの祝福を受けており、あらかじめ優遇された人間、なんてものは、いるはずがないし、いるべきではないですよ」
 というような考え、というかフィーリングは、当然持っているんじゃないかなあと思うのです。
 
 ドラクエは「昔話」の時代のお話だから、「選ばれたもの」がいてもおかしくないし、ユーザーもそういう「選ばれる」体験を望んでいる
 堀井さんはそのことを当然わかっているし、当然それベースでドラクエのお話をつくっている。
 
 だけど、その一方で「生まれながらに優遇されるっていうのも、どうなのかなあ」という感覚も同時にちゃんと握っていると私は思うのです。
 
 すごく有名になった言葉ですが、堀井さんは「勇者とは、諦めない人」だということを言っています。
 

堀井氏:
 「諦めない人」ですね。

 人間だから、やっぱり失敗もします。でも諦めない、めげない、挑戦し続ける――そういう人は、みんな「勇者」だと思います。

【堀井雄二インタビュー】「勇者とは、諦めない人」――ドラクエが挑んだ日本人への“RPG普及大作戦”。生みの親が語る歴代シリーズ制作秘話、そして新作成功のヒミツ
(電ファミニコゲーマー)
(魚拓)

 
「諦めない」という、覚悟だけあれば生まれも育ちも年齢も性別も問わない条件だけが、勇者の条件だとおっしゃるのです。ここには、「何らかの存在に選ばれ、特殊なアイテムを使いこなし」みたいなことは一切出てこない。
 
 そのような「あらかじめの選別」に対して首をかしげる皮膚感覚が、「いのちのよろいは勇者でなくとも着られる」という表現に出ている……ような気が私はするのです。そういう感覚があるから、ドラクエ6以降、「誰でも勇者になれる」という仕様になっていく。
 
 で、その表現をやめて、「いのちのよろい(ひかりのよろい)は勇者専用だ」としたのは、この鎧がのちにロトのよろいになる、とエンディングで明言することにしたからでしょう。
 この鎧がロトのよろいなので、少なくともゾーマを倒す瞬間、ぜひとも勇者ロトにはこいつを着ていてもらいたい。そうなると、主人公だけが着用できることにしとくのがやっぱりてっとりばやいです。そんな感じかなって思います。
 
 
■妖精の笛と星降る腕輪
 
 残りを簡単に。
 
「ようせいの笛」ですが、使うとラリホーの効果があるのは製品版通り。ですが次の行に、

ラリホー防が高いある怪物も眠る
1のゴーレムをねむらせたもの

(1は実際にはローマ数字)

 と書いてある。
 
 どうやら、「眠らせないと倒すのが困難だがラリホーは効かないイベントモンスター」を配置するプランだったことが読み取れます。
 
 そういうモンスターを配置し、「ようせいのふえを使って倒す」というストーリーをつくると、どうなるか。
 それは、
 
「ドラクエ1の主人公がゴーレムを眠らせて倒すとき、それは勇者ロトの神話の再現であった」
 
 という形が生まれることになる。
 それを意図したものだと思います。
(ドラクエ1の主人公は、ゴーレムをようせいのふえで眠らせて倒します)
 
「ある怪物」というフワッとした書き方なのは、そのモンスターがどこにいて、どんな姿なのかはまだ決まっていなかったからだと思います。この資料はチュンソフトのスタッフに仕様を伝えるものなので、もし決まっていたのなら、ぼやかす必要がない。
 そして「ある怪物」はゴーレムではないということだけ決まっていた。ゴーレムだったらそう書けますからね。
 
 なお製品版では「精霊ルビスにかけられた石化の呪いを解く」という効果になりました。
 
     *
 
「ひかりのたま」の効果ですが、「大魔王のパラメーターを弱める」は製品版通りでよいとして、「怪物をディスペル。」とあります。ディスペルとは何か。
 
 ドラクエミュージアムには魔法リストも展示されていました。フバーハが「バーハ」と書いてあるあたりにも魅力があったのですが、ニフラムの欄に効果として「ディスペル」と書いてありました。
 ですからディスペルとはニフラムの効果です。ひかりのたまを使うとニフラムの効果があるという想定だったのです。
(ウィザードリィにも「DISPELL」という、ほぼニフラムと同じ効果の特技がある)
 
     *
 
「ほしるふうでわ」に、「装備しているあいだ すばやさが255に」というおそろしい効果が書いてあります。
 おそらく「これを身につけると必ず先制できる」というイメージだったのだと思います。
 
 この効果で実装されていたら、ほしふるうでわとらいじんのけんを装備した戦士が無双状態になりますね。こいつはさすがに強すぎる。武闘家と魔法使いがいらない子になっちまう。だから製品版の「すばやさを倍にする」という効果に落ち着いたのでしょう。
 

  
 以上で、ドラクエ3の初期資料(のうち、見所のあるもの)は出し尽くしました。
 
 ちょっと書き足しておきたい思いつきがあるので、次回それを書いて、おしまいにします。ボツになったボスモンスター「ボス その2」の正体について
 
(続く)

2021年6月12日 (土)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(5)

 今回取り上げるのは、北米、南米、レイアムランド、ネクロゴンドです。
 
 当記事は『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示されていた、ドラクエ3の最初期の制作資料から、(製品版とは違う)初期構想を読み解いていこうというシリーズの第五回です。
 
 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)
 第二回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)
 第三回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)
 第四回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(4)
 
 ※注:「ドラゴンクエスト」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、情報のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 小説版、外伝等は参照しておりません。

 
 当記事に掲示する画像のうち、手書きの再現画像はすべて、『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示された制作資料を、私が手書きで部分的に再現したものです。画像で示されている内容は、株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者の著作物です。著作権法第32条に基づき、研究を目的とする引用としてこれらを掲示します。展示会場で書き写したため、写し間違いが生じている可能性があります。これらの画像の転載・改変・再配布を禁じます。孫引きも遠慮してください。
 テキストによる引用部も出所は同じであり、扱いは同様です。
 当記事に掲示するゲームの画面写真についても著作権法第32条に基づく研究を目的とする引用です。

 
 地図記号の内訳はこうです。
 
 回 城(K)
 ◎ 町(M)
 ○ 村(V)
 ☆ ほこら(S)
 I 塔(T)
 ■ 洞くつ(D)
 ● 穴(H)
 
 
■北アメリカと「できていく町」
 
(初期制作資料・スーの村周辺・抜粋)
Dq_suu
 
 まずなんといっても注目したいのは町「◎M3」です。
「できていく町」「イエローオーブ」と書いてあります。
 
 これはもう、製品版の通りです。製品版でもこの位置に町があり、発展のために有能な商人をほしがっています。
 ルイーダの酒場で商人を雇用して連れて行くと、町は段階的に発展していき、最終段階まで発展させるとイエローオーブが入手できます。
(以下この町を便宜的に「商人バーグ」と呼称します)
 
 この商人バーグのクエストは最初期から存在し、容量などの都合で削除されることなく、製品版まで生き残ったことになります。
 
 さて、この地域、それ以外はフワッとしています。
 
 
■置かれなかったダンジョン
 
 北アメリカの真ん中あたりに村「○V9」が書き記されています。これは製品版では「スーの村」がある位置です。
 合番以外に、メモ等がまったくないので、何が起こる想定だったかはわかりません。
 
 西海岸に塔「T3」があります。
 製品版でもここに塔があり、「アープの塔」と呼ばれています。最上階にやまびこのふえが置いてありました。
 この初期資料には何も書いてないので、初期案で何が起こる予定だったかは不明。
 
 村「○V9」のナナメ右下に、ダンジョンを示す記号「■」が描きこまれています。
 
 これ、ほんとうに記号しか書いてありません。合番すら振ってないのです。ここにダンジョンを置くつもりだったのか、そうでないのかすらあやふやです。
 
 ここから私の想像ですが、堀井さんはこの時点で、スーの村近辺で何を起こすかについて、明確なビジョンを持ってなかったんじゃないでしょうか。
 
 前もって用意していたストーリーを、世界地図の上に順繰りに配置していったら、ちょうど、この地域が空白地帯みたいになってしまった。
 
 でも「このへんに何かないと間がもたないし、ネイティブアメリカンの集落があると素敵だよね」くらいで村と塔とダンジョンの記号を書き入れた。「ここで何が起こるかは後で考えよう」
 
 おそらくスーの村で「あのダンジョンに行ってくれ」というクエストが発注されるイメージを漠然と握っていたのかなと想像します。
 
 ドラクエ3をやった方は、だいたい同じ印象を持たれると思うのですが、北米大陸って商人バーグを除けば、さほど印象深いイベントが起こりません。
(だからリメイク版では「精霊の泉」が追加されたわけなのでしょう)
 
 アープの塔ではやまびこのふえが手に入りますけど、これはなくてもクリアできるものです。
 
 製品版のスーの村で手に入るものは、(1)商人バーグの情報、(2)かわきのつぼの情報、(3)やまびこのふえの情報、(4)グリンラッドの老人の情報、(5)いかづちのつえ、です。これらはフラグ管理を必要としないものばかり。というかほぼ情報だけ
 
 ようするに、
「このへんに村がないと間がもたないけど、特にアイデアはないなぁ。とりあえず何か置かなくちゃ。何を置こうか……」
 というふうに困ってから、後付けで「まぁ、こんなもんで……」という感じで置いても間に合うものだけが、スーの村とアープの塔には置いてあるのです。
 
 つまるところ、「とりあえず村や塔などのシンボルをフィーリングで配置してから、中身を考えた」という感じで成立しているのが、スーの村とアープの塔だと思うのです。
「いかづちのつえくらいインパクトのあるアイテムが落ちていないと、もたない」といったバランス感もありそうです。
 
 とはいえ、ダンジョンを置こうとした形跡は残っているので、堀井さんとしては、「もうちょっとハッキリしたイベントをここに配置したい」という気持ちはあった、と見るべきです。しかし例によって、容量的に無理なのが見えてきていたので、この地域はなるべくコンパクトにまとめた。
 
 ……ちなみに、もし私だったら、アープの塔のてっぺんにいかづちのつえを置いて、スーの村にやまびこのふえを置くけどなぁ、とか考えたのですが。
 でも多分それだとやまびこのふえの入手経緯がようせいのふえと被りすぎるから駄目なんでしょうね。
 
 
■完成しているサマンオサ
 
 南米大陸に相当する地域を見てみましょう。
 
(初期制作資料・サマンオサ地方・抜粋)
Dq_samanosa
 
 ほこら「☆S12」はサマンオサのほこら、城「回K-8」はサマンオサの城、ダンジョン「■D11」はサマンオサ南の洞くつです。
(「回K-8」のKと8のあいだにあるハイフンは資料のママ)
 
 へんげのつえとラーのカガミが手に入る位置も含めて、製品版と同一です。
 
 へんげのつえで人に化けた魔物の正体を、ラーの鏡であばく、というシナリオが、当初から存在していたことがわかります。
 
 
■海賊のアジトとルザミの村
 
 村「○V8」は製品版では海賊の家です。
 この資料からは、「海賊のアジト」というイメージがあったかどうかは読み取れません。
 
「レッドオーブ」「V1の情報」と書かれています。村「○V1」はルザミの村です。
 
 製品版でもその通り、レッドオーブとルザミの位置情報が手に入ります。ここもまた初期プランのとおり実装されたことになります。
 
 ルザミの村に相当する村「○V1」ですが、「S11の情」と書いてあります(「情」は原資料ママ。「情報」の書き落としだと思います)。
 
「☆S11」は、後であらためて述べますが、レイアムランドのほこらです。
 当初のプランでは、ルザミは、レイアムランドの位置や役割を指示するための施設だったわけです。
 
 が、ここから想像ですが、堀井さんはおそらくこう考えた。
 
「レイアムランドはけっこう大きいし、ルザミより断然、見つけやすい。レイアムランドを先に見つけたプレイヤーにとっては、ルザミは何の意味もない施設になってしまう」
 
 なので、どっかの段階で、ルザミで手に入る情報を変更した。
 製品版のルザミは、(1)火山の火口にガイアのつるぎを投げ込むがよい、(2)ガイアのつるぎは勇者サイモンが持っている、という、物語の核心をつく情報が手に入る村です。
 
 これを知らなかったらこのゲームはクリアできない、という情報が唯一手に入る村となっているので、製品版では、ルザミは絶対に見つけなければならない場所になっています。
 
 
■レイアムランドと双子
 
(初期制作資料・レイアムランド・抜粋)
Dq_tori

 レイアムランドにはほこら「☆S11」が配置されています。製品版では「レイアムランドのほこら」。不死鳥ラーミアのたまごと二人の巫女がいる場所です。
「6色のオーブを南極大陸に集めて不死鳥ラーミアを復活させる」というプランが最初期からあったことがわかります。
 
 ドラクエミュージアムに展示されていた別の資料に、このイベントの演出が文章で指示されていました。これはテキストで再現できるので以下書き起こします。
 

ほこらS11 まわり氷 無理なら空

 オブを集め、聖地の所で
 使うと 上に 火をともる

  6のオーブを集め
  すべてに火がともし
  双子に 話しかけると
  双子が 祈りをささげ
  卵がかえる

  できれば卵がかえったとき
  大きな絵でみせたい

 双子はクルリクルリとタマゴのほうをむく

 
「オブ」「6のオーブ」「火をともる」「火がともし」は原文ママ。
 なおこの資料には、「燭台の上に火がついてる」というふうに推定できる絵がラクガキ程度に書き込まれていました。「台座の上にオーブ」という絵かもしれません。
 
 まず最初の行に、
 
「まわり氷 無理なら空」
 
 と書いてあります。
 
 堀井さんは、「このほこらに入ると、ほこらの周囲は氷に閉ざされている」という絵を作りたかったのです。だから「ほこらの周囲に氷のマップチップを置こう」と指示した。
(マップチップとは、フィールドや町や建物を構成しているマスのことです。FC版ドラクエ3の世界は、正方形のマップチップをしきつめることでできています)
 
 でも、システム的な制約などで、それが難しいことはわかっていたので、「無理なら周囲の表現は空でいいよ」と書いておいた。
 
 その通り、FC版のレイアムランドのほこら周囲は青空の表現になっています。
 
Reiamland_shot
ファミリーコンピュータ版『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ…』
著作権者は株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者  
 
 でも、堀井さんは「ホントはここは氷がいいんだよなあ」という気持ちをずっと持っていたのでしょう。リメイク版以降、レイアムランドのほこら周囲の表現は雪景色になりました。
 
Reiamland_sfc_shot
スーパーファミコン版『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ…』
著作権者は株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者
 
     *
 
「双子」とはっきり書いてあるのも重要です。
 
 レイアムランドの巫女二人が、双子かどうかは、作中では表現されていませんでした。
 
「たぶんモチーフはモスラに出てくるインファント島の双子の小美人だから双子なのでは」くらいのイメージは多くのプレイヤーが持ったでしょうが、はっきりはしていませんでした。
 
 しかしこの資料から、「レイアムランドの巫女二人は双子である」という前提を堀井さんがはっきり持っていたことがわかります。
 
「卵がかえったとき大きな絵で見せたい」と書いてあるのは、ひょっとして一枚絵を表示するつもりだったのかもしれませんね。
 
 いっぽう、「双子はクルリクルリとタマゴのほうをむく」は、ちょっとよくわかりません。卵のほうを向いたり、主人公のほうを向いたりをくりかえしながらしゃべるようなイメージだったのでしょうか?
 
 
■ネクロゴンド周辺
 
(初期制作資料・ネクロゴンド周辺・抜粋)
Dq_necrogond
 
 村「○V4」テドンは第二回で取り上げました。
 町「◎M6」バハラタと、ダンジョン「■D10」地球のへそについては第三回で取り上げています。
(そういえば書き落としていましたが、この資料を作った段階では、堀井さんは「ランシールの町」を置く想定ではなかったのですね)
 
 第二回でイシス周辺を取り上げそこねたので、ここで簡単に触れます。イシスの城(回K4)、ピラミッド(△P1)、イシス東のほこら(☆S4)、そのすべてが、入手アイテムも含めて製品版と同一です。
 
 現実の世界地図でいうとイラクあたりかな、という位置に町「◎M4」があります。これは製品版ではアッサラームです。初期構想時点でアッサラームはあったわけです。
 
 イシスへの中継地点としても、ノルドの洞くつへのアクセスポイントとしても、ここに町はほしいでしょうから、最初期から置かれていたのはよくわかる話です。
 
 さて、そのノルドの洞くつ。町「◎M4」のすぐ隣にダンジョン「D5」が配置され、ダンジョン記号二つが線でつながっています。「抜け道」と書いてあります。
 製品版で、ノルドの洞くつおよびバーンの抜け道となるイメージがそのまま出ています。
(繰り返しますが、前回取り上げた「ドワーフの店」とは別物です)
 
 第二回で触れませんでしたが、ポルトガにあたる町「◎M2」のところに、入手できるアイテムとして「王の手紙」と書いてあります。  
 ですから、「ポルトガで王の手紙を手に入れるとバーンの抜け道を通行できる」というイメージはこの段階であったとみなしていいと思います。
 
「王の手紙が、抜け道通行権ではない他のフラグだった可能性」みたいなことをちょっと頭の中でこねくりかえしてみましたが、まあないだろうと思います。
 
 
■「舟」
 
 船のマークがインド洋に記してあり、「愛のおもいで」と書いてあります。
 
 製品版でも幽霊船が存在し、そこでエリックとオリビアの「あいのおもいで」が手に入りますが、実際に幽霊船があらわれる場所は地中海です。
 
 インド洋近辺は、何かの用事で(ランシールに行くときとか)フラフラと航行しがちな海域です。
 ふなのりのほね(幽霊船を登場させ、その位置を教えてくれるフラグアイテム)を手に入れたあと、「ちょっと所用をすませよう」くらいでこのへんを移動していたら、ふなのりのほねで座標を調べなくても幽霊船をみつけてしまった、というしまらない展開を避けるための変更だと思います。
 
 地中海は、意図的に行こうと思わなければ航海しない場所なので、ここが選ばれたのはよくわかる話です。
 
 
■「火山ばくはつ」
 
 紅海ぞいの海辺に穴「◎H2」があり、「火山ばくはつ」と端的なことが書いてあります。
(穴の地図記号がなぜか違っていますが、この資料では地図記号のゆらぎはままあることです)
 
 製品版では「ネクロゴンドの火山」。ここにガイアのつるぎを投げ込むと火山が噴火して溶岩流が海を埋め、ネクロゴンド地方へ徒歩で移動することが可能になります。
 そのイメージは最初期から握られていた。
 
 
■示される最終目的地
 
 ダンジョン「■D6」ネクロゴンドの洞くつ城「回K5」バラモス城穴「●H1」ギアガの大穴ほこら「☆S6」ネクロゴンドのほこら。配置も入手アイテムも、このとおりに製品化されています。
 
 ネクロゴンドの洞くつを通ってほこらで最後のオーブを手に入れ、不死鳥に乗ってバラモス城へ降り立つ……というイメージは最初期からあったと見なせます。
 
 この初期資料には、地形が書き込まれていませんが、「岩山に囲まれているので徒歩ではバラモス城に行けない(不死鳥ラーミアで空を飛ぶ必要がある)」という仕掛けの構想はこの時点で存在したでしょう(徒歩で行けちゃ困るもんね)。
 
 最後のオーブを手にすると同時に、プレイヤーはバラモス城を見ることになります。
「ああ、自分が必死になってオーブを集めてきたのは、徒歩では行けないあの場所に踏み込むためなんだ」
 ということが、最後のオーブを手にすると同時に、自然に察せられるというつくりになっています。「ラーミアは手に入れたけど、これからどこへ行ったらいいの」という迷い方をした人って、ものすごく少数のはず。
 
「最後のオーブと最終目的地が同時に示される」というアイデアに、堀井さんは会心の手応えを感じていたのだと思います。ドラクエ2でもほぼ同じ趣向が使われていますしね。「これはもう一回使ってもいいくらい良いアイデアだ」と評価したのでしょう。
 
 よく考えたらドラクエ1は「旅立ちと同時に最終目的地が示される」という作品でしたね。ドラクエ2も3もそれの変奏だ、という言い方のほうがふさわしいのかもしれない。
 
 
■「オーブ6」とシルバーオーブ
 
 ほこら「☆S6」で手に入るものとして「オーブ6」(6は実際には丸囲み)と書いてあります。
 当初から「オーブは合計6つである」と決めていたことがわかります。
 
 ご存じのとおり、これは製品版では「シルバーオーブ」となります。
 
 しかし、この初期段階では、6つめのオーブの色を何色にするか、決めかねていたみたいですね。
 
 他の5つのオーブは、この資料の段階ですでに色が決まっています(グリーンオーブだけなぜか「オーブG」という書き方ですが)。
 
 たとえば、虹の7色からてきとうな色を1色抜けば、容易に6色決めることができるのに、堀井さんはそういう決め方はしなかったのです(6色めを未定にし、最終的にシルバーになったから)。
 
 ここから無根拠な想像。
 堀井さんは「今回は6つの宝玉(オーブ)を集めるストーリーにしよう。オーブの種類は色で分けよう」と、まず決めた。「玉を探す」なのはドラゴンボールが意識されてたかもしれません。
 
 さて、6つの色をどう決めようか。まず、宝玉なのだから、基本のイメージは宝石。ルビーとかサファイアとか、メジャーな宝石色から選ぶのがよいだろう(と考えただろうと思われる)。
 
 もうひとつ。スーパー戦隊シリーズは伝統的に色分けだ。ドラクエは基本、子供向けに作られており、戦隊シリーズも当時の子供が夢中になっておもちゃをほしがったもの。
 堀井さんはアニメ雑誌の読者投稿ページを担当していた経歴があり、そちら方面には当然のように詳しい。
 
 戦隊ものの主役五人の色分けは、当時のテレビ局やおもちゃ会社が、「子供が好きな色は何か」というリサーチをおこなったうえで決まっているはずだし、実際に子供に支持されている。だから、ここから流用すればだいたい間違いがない。
 
(見てきたように書いていますが全部私の想像です。以下もそうです)
 
 当時の戦隊の基本色は、赤、青、黄色、緑、ピンク。前から4つまでは、宝石の色としても違和感がないのでそのまま採用できる。
 ピンクの宝石ってのは、もちろんあるけどなじみが薄いし、「ピンクオーブ」ではいまひとつしまらない……という感覚があり(たぶん)、これをアメジスト色にずらした。パープルオーブだ。
 
 これで5色が決まった。
 
 さあ、最後の色はどうするか。戦隊ものに6色めは(基本)いない。独自に決めないといけない。
 
 最後に見つけるオーブなので、威厳っぽいもの、スペシャル感があったほうがいい。
 無彩色……「白」がいいのでは、というアイデアは、堀井さんの頭の中に浮かんだはずだと思う。いってみれば白は究極の色だ。
 黒だと不吉な予感を与えてしまう。「黒いオーブを祭壇に捧げてしまっていいの?」と思われてはいけない。
 
 白は宝石のイメージでいうと、ダイヤモンドだ。
 
 でも「ダイヤオーブ」では、これはこれでしまらない。なので、「白」「威厳」という イメージを保ったまま、ワードチョイスをずらす
 
 そうすると出てきたワードが「シルバー」
 
 ……というような選考が、堀井さんの頭の中で行われたのかなぁ、ということを、「6色めのチョイスに迷ってた」という情報から想像してみました。
 
 ドラクエ5にはシルバーオーブとゴールドオーブが出てきますけれど、ドラクエ3の段階では、堀井さんの中には「シルバーオーブの対になるものとしてのゴールドオーブ」というイメージはおそらくなかった、と思います。
 
(バイオハンターシルバが影響したのでは、とか、そういうややこしいことは私は思いついても言い出しません)
 
 
 今回はここまでです。次回はグリンラッドにガイアのつるぎが置いてあった話。
  
 
■続き→「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(6)

2021年5月26日 (水)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(4)

 ドラゴンクエスト35周年記念だそうです。お祝いがわりに記事の更新をしておきます。

 当記事は『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示されていた、ドラクエ3の最初期の制作資料から、(製品版とは違う)初期構想を読み解いていこうというシリーズです。
 今回は第四回です。

 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)
 第二回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)
 第三回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)

 今回は北アジアと中央アジアを取り上げます。ムオルの村から見て北西あたりのお話です。

 ※注:「ドラクエ3」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、情報のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 小説版、外伝等は参照しておりません。

 毎度のことですが、イベント会場で私が手書きでうつしとってきた手書きのメモを掲示します。
 これは堀井さんが「フィールドマップのラフコンテ」等と呼称しているもので、堀井さんがフィールドマップ上にドラクエ3の全体像をメモ書き程度に書き出したものです。

 堀井さんはこの作業を、製作上の最初期に行うとのことです。ですからこれを見れば、
「堀井さんは一番最初には、こういう構想をもっていたのか」
 ということが推察できるのです。

 当記事に掲示される画像はすべて、『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示された制作資料を、私が手書きで部分的に再現したものです。画像で示されている内容は、株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者の著作物です(アーマープロジェクトも権利を持っているはず)。著作権法第32条に基づき、研究を目的とする引用としてこれらを掲示します。展示会場で書き写したため、写し間違いが生じている可能性があります。これらの画像の転載・改変・再配布を禁じます。孫引きも遠慮してください。

 地図記号の内訳はこうです。

 回 城(K)
 ◎ 町(M)
 ○ 村(V)
 ☆ ほこら(S)
 I 塔(T)
 ■ 洞くつ(D)


■製品版と同一の部分

(初期設定資料・ムオルからオリビアの岬付近・抜粋)

Dq_muoru_s8

 まずは製品版と同一のところから。

 現実の世界でいうロシアの東端あたりに村「●V6」があり、ここに「みずでっぽう」とメモしてあります。
 製品版ではこの位置にムオルの村があり、実際にみずでっぽうが手に入ります。この初期資料の段階ですでにして「ここでみずでっぽうを入手」というビジョンをもっていたのはちょっと凄い。

 べーリング海峡の北、海のどまんなかに、ほこら「☆S21」があります。ここに「さいごのカギ」(カギはカタカナ表記)と書いてあります。

 製品版にもこの位置に「浅瀬のほこら」があり、さいごのかぎが入手できるようになっています。初期資料のとおりに実装されたことになります。
 この初期資料には、ほこらは全部で11個しかありませんが、浅瀬のほこらの合番は「☆S21」という、変に大きな数字になっています。これは単に「☆S2」と書き損じてしまったので、うしろに1を足して通用するようにしただけかなと思います。
(☆S2はポルトガの対岸にある「イシス北のほこら」です)

 黒海のどまんなかにほこら「☆S3」があります。

 製品版ではここに「ほこらの牢獄」があり、ガイアのつるぎが手に入ります。湖のまんなかに意味深なほこらがあって、そこに何かがあるというイメージは最初期から存在したことになります。

 ただ、記号と合番以外に何のメモも付記されていないので、ここで何が起き、何が手に入る想定だったのかは不明です(たぶん製品版の通りの想定だったろうと思うのですが)。

 黒海とカスピ海のあいだにほこら「☆S7」があり、「ローレライ」と書いてあります。

 これは製品版では「オリビアの岬のほこら」ですね。
 製品版のドラクエ3では、黒海とカスピ海のあいだに海峡があってつながっているのですが、オリビアという女性の霊が呪いをかけていて、渡ろうとする船を押し戻す。だからほこらの牢獄に行くことができない……というイベントです。

 これは有名な話ですが、オリビアの岬イベントは、もとは「ローレライの岬」という名前で、ドラクエ2で実装される予定でした(たぶん位置的にはロンダルキアの北にある内海かなと思います)。
 容量の関係でボツになったが、アイデアとして惜しかったので、ドラクエ3で再利用されたのでした。

あと、“オリビアの岬”は2でボツったものが復活!! まったく同じじゃないけど2では“ローレライの岬”っていうイベント名だったんだ。前回はメモリーの都合でボツ。で、今回めでたく登場したというわけ。

JICC出版局『ドラゴンクエスト3 マスターズクラブ』
P.83 堀井雄二の発言より引用
(書名および引用部の「2」「3」は原文ではローマ数字。可読性等を優先しアラビア数字とした)

 この初期資料ラフコンテでは、黒海とカスピ海がつながっていませんが、堀井さんの頭の中ではきちんとつなげる予定だったと思います。

 製品版では、東シベリア海とカスピ海をつなぐ川が存在し(って書くとすごいな)その河口に「ホビットのほこら」があります。オルテガのお供をしたホビットが猫といっしょに住んでいます。
 この初期資料でも同じ位置にほこら「☆S8」が置かれています。ただこれもメモ等はないので、初期段階で何を置く想定だったかは不明です。

 ここまでは、製品版といっしょ。それ以外はギョッとするようなことがいろいろ書いてあります。


■中州に世界樹

 まずはせかいじゅの葉。川にぐるっと囲まれた中に「せかいじゅの葉」と書かれています。船で遡行してきてくださいってことですね。
 製品版では、大森林のなかに一本だけ世界樹がはえていて、「4つの岩山を線でむすんで交差したところを調べろ」という謎解きになっています。初期構想ではその謎解きはなかったわけです。


■ドワーフの店

 次、ダンジョン「■D7」「ドワーフの店」
 どうやら洞くつにドワーフが住んでいて、何らかの特殊なアイテムを売ってる想定だったっぽいです。
 おそらく「何が買えるかは後で考える」だったのかなと思います。

 以下、特に根拠はなく想像でものを言うのですが、
「ワシは人間にはものを売らんぞ、ワシが相手にするのはドワーフとエルフだけだ」
 みたいなセリフを言う想定だったのかもしれないですね。

 お話が進むと、「へんげのつえ」という変身アイテムが手に入ります。使ってみると、エルフやドワーフになれる。
 プレイヤーは「ひょっとして」と思う。エルフに変身してドワーフの店に行ってみたら、まんまと買い物に成功した……。
 というような「謎解き」が構想されていたのかな、と想像します。

 そうなるとプレイヤーは、ふと思い出すはずです。
「そういえばエルフの隠れ里にも、物を売ってくれない店屋があったな」

 ドワーフに変身して話しかけてみると、なんと、エルフの店屋でも買い物ができた……。

 製品版に、「ドワーフ(ホビット)に変身してエルフの隠れ里の店屋に話しかけると買い物ができる」という仕掛けがあります。
 でもそれに関するヒントはほぼなく、「隠し要素」に近いものになっています。

 でも、どっかに「ワシらは妖精仲間にしか商売せん」ということをいう妖精がいるのなら、かなり容易に謎が解けそうです。

 製品版のエルフのお店は、エルフに化けて買い物に行っても相手してくれないのに、ドワーフ(ホビット)に化けると商売してくれます。これ、変というほどではないが「ん? なんで?」と微妙に首をかしげていたのですが、

「この世界にはエルフとドワーフがいて、相互に交流している」

 という設定が作品内で示されてたのなら話は変わってきます。「どこか遠くからはるばる訪ねてきた見知らぬドワーフに親切にするエルフ」というイメージになるからです。

 それにしても、製品版で「ホビット」として登場しているものは、初期設定ではどうやらドワーフだったのですね。キャラシンボルが明らかにそうですもんね。

 容量がないので何かを削除しよう、となったとき、この「ドワーフの店」が削除対象になったのは、「人間に対してへんくつな妖精たち」という意味のイベントが、(1)エルフの隠れ里(2)ホビットのノルド(3)ドワーフの店、と三連打されることになるからだと思います。いちばん規模が小さく、お話の大筋に影響しないところを切った。

 なお、私の再現したメモからは読み取りにくいかなと思い、いちおう付記しておきますが、初期資料に書かれている「■D7ドワーフの店」の位置は、ノルドの洞くつではありません(ノルドの洞くつとドワーフの店は初期資料において別々に書かれていました)。


■ひかりの玉のほこら

 さて、ここからますますギョッとしてきます。

 ムオルの村(に相当する村)のナナメ左上に、ほこら「☆S9」があります。
 これは製品版には存在しません

 このほこら「☆S9」で手に入るものとして、なんと、「ひかりの玉」と書いてあります。え?

 ひかりの玉はドラクエ3において、最後に使用する最重要アイテム。世界を救うための切り札そのものです。

 製品版では、もっと北のほう、不死鳥ラーミアに乗らないと行けない位置に、「竜の女王の城」があって、竜の女王からひかりの玉を譲り受けます。

 が、初期構想では、わりと行きやすそうな場所にぽんと置かれたほこらで手に入るもの……だったわけなのでしょうか。

 この初期資料ラフコンテには、位置しか書いてないので、どういう置き方をする予定だったのかはわかりません。
 竜の女王の城と同様に、岩山で囲って侵入をこばむ想定だったのかもしれませんし、ボスモンスターがひかりの玉を守っている感じだったのかもしれません。

 情報が少なすぎて何もわかりませんが、
「この(初期構想の)置き方では、ひかりの玉を入手するくだりがドラマチックになりにくい
 と堀井さんが考えなおした、というのはありそうなことですね。近いところで、さいごのかぎをほこらの中から入手していますしね。


■削除されたお城

 カスピ海のすぐ北のところをご覧下さい。
 城「回K6」が書かれ、それがバッテンで打ち消しされています。

 堀井さんは、「ここに城を置こう」と思ったが、とりやめたのです。

 この城「回K6」の位置は、製品版でいう「竜の女王の城」の位置のようにも見えますし、「湖畔の城」という感じで置かれているようにも見えます。どっちの意図なのかはわかりません。
(私がノートにメモしたのを見るかぎりでは、どっちかというと「湖畔の城」っぽく見えます。私としてはそっちだと思いたい気持ちがあります。イメージが綺麗だよね)

 いずれにしても、堀井さんがここに、城「回K6」を記入したとき、この城で手に入るものはひかりの玉ではなかった。これは明らかです。だってほこら「☆S9」で入手させるつもりでいたのですからね。

 前述の「ひかりの玉が手に入るほこら☆S9」をとりやめたとき、堀井さんは、ひかりの玉を置いとく別の場所を必要としました。

 マップの中から置き場所を探しているうち、城「回K6」の残骸が目に付いた。「なんとなくここに城あったらエモいよね、くらいのつもりで城を置こうと思ったが、シナリオ上必須ではなかったので削除した」みたいな経緯のお城でした(くらいの仮定です)。

「この位置わりといいし、お城に玉が置いてあるのゴージャスだよね」と気づいた堀井さんが、これを復活させた、くらいの想像でいいのかもしれませんね。


■「スイスの村」とは何か

 さて。
 私がドラクエミュージアムで初期資料をいっしょうけんめいメモした大きな理由のひとつとして、

「ヨーデルが流れるスイスの村がどこにあり、何が行われる予定だったのか知りたい」

 ということが、ありました。

 ドラクエ3には、スイスに相当する村が設置される予定で、すぎやまこういち先生が専用BGMまで作曲していたのですが、ボツになった……という経緯があります。

たしか、3曲ばかりオクラ入りしてますよ。村ごとなくなっちゃったっていうのもあるから。今だから言うけどね、スイスの楽しいヨーデルの曲があったの。でもスイスの村ごと音楽もなくなっちゃった、なんてこともありました。

JICC出版局『ドラゴンクエスト4 マスターズクラブ』
P.15 すぎやまこういちの発言より引用
(書名の「4」は原文ではローマ数字)


 資料を見ると、カスピ海のすぐ東、湖のほとりといえる場所に、村「●V5」がありました。ここではブルーオーブが手に入る予定だったようです。
(製品版のブルーオーブは、ランシールの地球のへそで手に入ります)

 製品版では、この位置に村はありません

 この初期資料ラフコンテに記入されている町もしくは村で、製品版に存在しないのは、「まほうのカギが盗まれて取り返すとやみのランプが入手できる町◎M5レイクナバ」と、「ブルーオーブが手に入る村●V5」の2つだけです。

 町「◎M5」レイクナバはアフリカ大陸(コンゴかアンゴラあたりかな)にあるので、スイスのイメージを重ねにくいです。ということは、カスピ海のほとりにある村「●V5」が「ヨーデル・スイス村」だったのでしょうか。カスピ海のほとりにスイス?


■モスアットさんの興味深い仮説

 この問題に関して、私のところに、凄く興味深い仮説が寄せられています。ツイッターで私と相互フォローしている「モスアットさん」という方がいらっしゃいます。
 ニコニコ動画で「やる夫がドラゴンクエストの開発者になるようです」のボイスドラマを投稿しておられる方なので、ご存じの方も多いかもしれません。

 モスアットさんは私と同様に、ドラクエミュージアムに行き、制作初期資料の写しを取られたのです。ようするに私と同じことをやっておられる同志のような方なのです。

 モスアットさんも私とおなじく「ヨーデルの流れるスイスの村はどこなんだ」という問題意識を持ち、初期資料の中に「村●V5」を発見しました。しかし、「これがスイスの村にちがいない」というふうには簡単には飛びつかれなかったのです。

 この方は以下のように考えられました。本人のご了承を得て、紹介します。

     ☆

(1)「村●V5」の位置は、現実世界でいうとカザフスタン(ドラクエ3発売当時の国名でいえばカザフ・ソビエト社会主義共和国)だ。

(2)その一方で、カザフを連想させる「カザーブの村」は、現実世界でいうとちょうどスイスの位置にある
(加納注:この時点で、もう凄い)

(3)企画段階では、製品版におけるカザーブの村の位置に、「スイス村」があったのではないか。

(4)そして、カスピ海の東に、てつのツメが入手できる「カザーブの村」を置く想定だったのではないか。
(製品版カザーブの村では、てつのツメが入手できる)

(5)製品版カザーブの村には、「てつのツメでを倒した武闘家の伝説」が伝わる。そして「村●V5」の周辺は、製品版ではグリズリーが出現する。

(6)ヨーデルの専用曲が流れるスイスの村は、容量を食うので、実装できないことになった。そのとき、「村●V5」に置く予定だったカザーブの村を、スイスの位置にそのまま持ってきたのではないだろうか。

     ☆

 ご本人にも申し上げたのですが、きわめて華麗でスマートな推論で、これは多くの人が納得するのではないかと思います。はっきりいって、「すげぇ気持ちの良い謎解きだから、もうこれでいいのでは」と思いました。

 しいて、ひとつだけ難癖をつけるならば、初期資料ラフコンテに記されている村「●V2」(製品版でカザーブの村がある位置)には、初期資料の段階ですでに「どくばり」「てつのツメ」と書かれています。
(その資料を再現したものがこちら

 初期資料が書かれた当時、堀井さんは、スイスの村をまだ実装するつもりだったはずです。
 ですから、カスピ海のほとりにあったボツ村「●V5」に「てつのツメで熊を倒した武闘家の伝説が残るカザーブの村」を置くつもりだったのでは、という推論は、合わないといえば、合いません。

 が、いってみればその程度しか難癖のつけどころがありません。「スイスの村にはヨーデルが流れ、どくばりとてつのツメが手に入る」「その位置はロマリアとノアニールの中間である」でも全く問題がありません。
 製品版カザーブの村の位置は山奥であり、スイスのイメージに合致しますしね。

 なので、これがいい方は、各人の頭の中でこれを採用して下さい。

 私も独自の説を用意していたんですが、モスアットさんの説が良かったので、自説のほうは捨てちゃおうかなあと、わりと真剣に考えました。
 ですが、よく考えたら、どっちが妥当かなんていちいち決めなくていいんですね。2つ案があったら、両方並べておいて、両方握っておけばいい話でした。

 なので一応、私が用意した解のほうも、以下にまとめておきます。


■カスピ海にスイスがあってもよい

 私の頭からでてきた説は、カスピ海のほとりの村「●V5」が「ヨーデルの流れるスイス村」だ、です。

 スイスって、ハイジのイメージが強いので、「モンブランやマッターホルンの白い峰が見える山国」っていうふうに想像しがちですが(私も基本その想像ですが)、主要都市をみてみると、チューリッヒもジュネーブもローザンヌも「湖畔の町」なんです。

 村「●V5」はカスピ海という湖のそばにあります(カスピ海は湖なのか海なのかという議論は置いときましょう)。ようは「湖畔の村」という置き方でもスイスのイメージは作れるということです。

 ただ、ドラクエ3のフィールドマップの縮尺からいうと、かりに1マスだか4マスだかの水色のコマの横に村を置いたとしても、「水たまりの横の村」くらいにしか見えないきらいがあります。
 せっかく湖畔の村を作るなら、なるべくでかい水辺の横に置きたい。

 堀井さんはたぶん、「水の都」のイメージを作るのが好きです。ドラクエ1では湖のまんなかにリムルダールを置きました。ドラクエ2では似たような置き方でベラヌール。

「ドラクエ3にも水のイメージの拠点がほしいよね、湖畔の村なんていいよね。スイスなんかそういうイメージだし」
 と堀井さんは考えた……と仮定する。

 そういう水辺を、ドラクエ3の縮尺マップの地図上から探した結果、「うーん、ちょっと位置がちがっちゃうけど、まあここかな」
 というふうに選ばれた場所が「カスピ海の東」

 そういうイメージを握った上で置かれた村だから、そこで手に入るものは「ブルーオーブ」。


■カザーブの位置でヨーデルを鳴らすのか

 ようするに私は、「位置があきらかにスイスでない」という問題を、あまり深刻にとらえてないっていうことです。
 ドラクエ3のフィールドマップは現実の世界地図そっくりで、お城や町の大部分は、現実のイメージに即したものになっています。

 が、「必ず現実に即したイメージでなければならないというルールがある」というふうに決め込んでしまうのも、それはそれで窮屈だと思うのです。

 現実の世界を参照すれば、カザーブの位置か、ロマリアの北東あたりにスイスを置きたいというのはその通りです。

 ただ、個人的な趣味の話をいってしまうと、「もし仮に」「私が」ドラクエ3を作る人だったら、製品版カザーブの位置にある村で、ヨーデルを鳴らすというディレクションは多分しません

 製品版のカザーブは、かなり序盤で到達する場所です。拠点数でいうと、4つめに訪れる場所だ。「変わった曲が流れる村」を置くとしたら、なるべく後のほうに置きたい

 ドラクエ3は、新たな町に到達するたびに、決まった町の曲が流れます。曲名は文字通り「街」。
 村に到達したら、村の曲が流れます。曲のタイトルは「村」。

 拠点に到達するたびに、決まった曲が流れる……という体験を、まずは充分に繰り返させたい。
 そして、プレイヤーが「あの村に入ったら、またあの曲が流れるんでしょ」という予断を持ったあたりで、ふいにヨーデルの曲を鳴らして、
「おお! 曲がちがう! この村、ちょっと雰囲気がちがうぞ!」
 という驚きを与えたいです。

「また新しい拠点があったね、ドラクエってマップの中から拠点を探す作業のくりかえしなんだよね」
 というふうに飽きがきたころ到着するようにヨーデルの村を置く。そのことで、
「あ、町や村といっても、いろいろな雰囲気があるんだ」
 と感じさせたい。そのことで、「世界ってバラエティにみちているんだ」と思わせたい

 製品版カザーブは、その点、早すぎる。製品版カザーブは二つめの村です。まだ「村」というBGMをレーベで1回しか聴いてない段階だ。

 カスピ海のほとりなら、ちょうどいい遠さだ。お決まりのBGMに新味を感じなくなったあたりで、まずはジパングの曲を聴いて「おお」と思い、次にヨーデルの曲を聴いて「わあ」となる。世界は広い、遠くまで来た。そういう印象になる。


■玉突きのような変更

 カスピ海のほとりの村「●V5」で、どんなイベントが発生する想定だったのかは、資料からはわかりません。

 何の根拠もなく適当な想像を述べますが、「あの湖のほとりのお城(削除された城「回K6」)の王様は吸血鬼だ、勇者さま退治してくれませんか」くらいだったりしたのかもしれない。ドラクエ3に(だけ)バンパイアいるしね。
(自分で言っといて何ですが、この方向の想定だと、城「回K6」が削除されたのに村「●V5」が残っているのが変です)

 まあそれは、与太話だからいいとして。
(この記事全編が与太話という説もある)

 この地域の初期資料ラフコンテに書かれている内容は、先述のとおりさまざまに変更されたうえで製品になっています。その変更の過程で玉突き事故が起こったような感じになっていて、それが個人的にはおもしろい。以下全部私の想像ね。

 まず容量が足りなくなって、「ヨーデルの流れるスイスの村●V5」をヨーデルごと削除した(●V5がスイス村でなくても話の大筋はおなじ)。

 すると「ブルーオーブ入手イベント」が削除されたことになり、ブルーオーブが宙に浮いた

 次に、
単なる陰気なほこらにひかりの玉が置いてあるのはドリーム感がないよね」
 と、堀井さんは考えた。

「山脈の上、ものすごく高い場所、この世でいちばん高いところにお城がたっていて、そこでひかりの玉がもらえるんだったら感動するよね」
 と、堀井さんはシナリオを修正した。いったんボツにした城「回K6」を復活させ、地形を山奥にし、そこにひかりの玉を置いた。

 なぜそういう置き方をしたかというと、
天界にいちばん近い場所を手に入れて、地獄みたいな地の底に持っていく」
 というクエストになるので、むちゃくちゃエモいんだわ、と堀井さんが思いついたから。

 どうして堀井さんはそういうプランを思いついたかというと、
「ガルナの塔で天の光をきわめ、地球のへそで地の底を見てきた者が、賢者になる資格を得る」
 というアイデアを持っていて、実装しようとしていたからだ。
(これについては前回をご覧下さい)

 この「天と地を両方きわめる」っていうプラン、ものすごく良いから、ドラクエ3のストーリー全体をこのプランでまとめるのがいいんじゃないか、と思い直したわけである。

 そうなると、「天と地をきわめる」という意味のイベントが、賢者転職クエストとひかりの玉クエストで、重複することになる。なので、賢者転職クエストを縮小することにした。

 ガルナの塔でさとりのしょを取得すれば、つまり「とても高いところに登る」ことだけすれば、賢者になれるようにした。

 すると、地球のへそに置いておくものがなくなった。

 ちょうど、ブルーオーブが宙に浮いている。地球のへその最深部に、ブルーオーブを置くことにした。


 ……かなり長い記事となりました。今回は以上です。


■続き→「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(5)

2021年2月10日 (水)

「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(3)

『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示されていた、ドラクエ3の制作資料から、(製品版とは違う)制作初期の構想を読み解いていこうというシリーズです。
 今回は第三回です。

 第一回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(1)
 第二回はこちら。
「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(2)

 

 今回はバハラタ周辺とランシールを取り上げます。おもに「賢者」の話になります。

 ※注:「ドラクエ3」を、私がどういうふうに「読んで」いるのか、物語のスキマをどういう形で埋めて空想しているのか、ということを、自分勝手に語るエントリです。
 こうにちがいない! ということではなく、こういうふうに捉えれば、読み手の私は心豊かなキモチになれますという、そういうニュアンスです。
 小説版、外伝等は参照しておりません。

 

■いっけん、製品版どおりなんだけど……


 今回も例によって、イベント会場で私がうつしとってきた手書きのメモを掲示しますので、それを見ながらお読みいただくと良いと思います。

 この記事でいくつか掲示する、白地図に書き込みをしたようなものは何かというと、堀井雄二さんがドラクエ3の構想を記した手書きのマップです。

 ワールドマップを描き、そこに町やらダンジョンを描き加え、そこで起こる事件や、手に入る重要アイテムをメモしたものです。

 堀井さんはドラクエを作るとき、この作業を最初期に行うそうです。なので、「堀井さんが最初に構想した内容が、そのままダイレクトに出ている」というのがこの資料です。

 最初期の構想なので、製品版との間に、いくつか違いがあります。その違いをみることで、「堀井さんは当初こういうことをドラクエ3でやろうとしていたのか」が推測できるというわけです。

 当記事に掲示される画像はすべて、『ドラゴンクエストミュージアム』にて展示された制作資料を、私が手書きで部分的に再現したものです。画像で示されている内容は、株式会社スクウェア・エニックスと共同著作者の著作物です(アーマープロジェクトも権利を持っているはず)。著作権法第32条に基づき、研究を目的とする引用としてこれらを掲示します。展示会場で書き写したため、写し間違いが生じている可能性があります。これらの画像の転載・改変・再配布を禁じます。孫引きも遠慮してください。

 地図記号の内訳はこうです。

 回 城(K)
 ◎ 町(M)
 ○ 村(V)
 ☆ ほこら(S)
 I 塔(T)
 ■ 洞くつ(D)


 初期構想におけるアジア圏をみていきましょう。

(初期設定資料バハラタ・ダーマ周辺地図・抜粋)

Img053b

 さて、まずはインドと推定される位置に、町◎M6があり、「黒こしょう」と書いてあります。その上に洞くつ■D8があり、「とらわれ娘」と書いてあります。

 これは製品版とまったく同じ、バハラタの町カンダタのアジトです。盗賊カンダタにさらわれた娘を助け出してバハラタに連れ帰ると、黒こしょうを売ってもらえるようになる。黒こしょうをポルトガの王様に献上すると、船が手に入る……という流れです。

「盗賊にさらわれた娘を助け出して、黒こしょうの提供を受ける」というクエストは、制作最初期から構想されており、製品版でもその通りに実装されたわけですね。

 次に、視線を右に動かして日本列島。V9の位置にジパングの村があり、その隣にダンジョンD9が置かれています。これも製品版のとおりです。

 D9に「くさなぎのけん」と書いてありますので、「ジパングでやまたのおろち退治をする」というクエストも最初期からすでに存在していたと見なせます。

 われわれがダーマ神殿として知っている施設の位置にお城、回K7「転職の寺院」と書いてあります。ダーマ神殿は転職のための施設なのでこれも製品版と一致。

 その右上に塔T2があり「さとりのしょ」と書いてあります。製品版ではここにガルナの塔があり、さとりのしょが置かれていますから、これも製品版のとおりです。

 ダーマ神殿とガルナの塔は、チベットと推定される場所に位置しており、製品版のさとりのしょ(悟りの書)は上位職「賢者」になるためのアイテムです。
 秘境におもむき、踏破困難な塔にのぼり、「より高みをめざすのだ」という意思を示した者に、賢者への道がひらかれる……というストーリーになっています。

 なんだ、この画像に載っている要素は、ぜんぶが製品版どおりじゃないか、ということになるのですが。

 じつは別の資料とつきあわせると、違う意味が生じてくるのです。


■さとりの書(僧侶のみ使用可能)

 ドラクエミュージアムの展示ブースには、堀井雄二さんの手書きによる、アイテムリストも展示されていました。これもごく初期に書かれたと推定されるものです。

「こういう効果を発揮するアイテムを必要とするので、実装可能なようにシステムをつくってね」とプログラマに伝えるためのものかなと思います。

 そのリストの一部分の抜粋ですが、こんなことが書かれていました。

 

Dq_satori_b

 

「道」は「道具」の意味です。武器には「武」、防具には「防」と書かれています。

 ゆ せ ま そ
 ぶ け し あ

 とあるのは、それぞれ「ゆ=勇者」「せ=戦士」「ま=魔法使い」「そ=僧侶」「ぶ=武闘家」「け=賢者」「し=商人」「あ=あそび人」を意味する記号です。

 この記号にマルがついている職業だけが、このアイテムを使用(装備)できる、という仕様を指示したものです。

 たとえばラーのかがみの欄を見ると、全職業にマルがついています。パーティーの誰が使用しても効果を発揮する、ということですね。
(効果欄の「猫馬の呪いをとく」が気になった方は、「前回」をご覧下さい)

 このリスト、「さとりのしょ」の欄を見て、ビックリしたのです。

 まず「そ」にだけマルがついている。つまり「僧侶のみが使用可能」という仕様が明記されているのです。そのうえで、

「最大MPが10~15アップ T2にある」

 という効果が書かれている(T2はガルナの塔)。

 前述のとおり、製品版のさとりのしょは、「パーティーメンバーの誰か一人を賢者に転職させる」という効果です。

 ところが初期構想ではそうではなかった。「僧侶の最大MPをアップさせる」というアイテムだったのです。

 僧侶のためのアイテムがガルナの塔に置いてあるのですから、初期構想でのガルナの塔は「僧侶のためのクエスト」だったってことになります。

 ガルナの塔はチベットとおぼしき位置にあります。
 秘境チベットはチベット仏教の聖地

 だからストーリーとしてはこんな感じになります。

 アリアハンで見習い僧侶をやっていた人物が、「自己をもっと研鑽しよう」という志をたて、とある若者(勇者)の旅のお供をする決心をした。

 広い世界を旅してまわるうち、世界の果ての山奥に、聖職者たちの聖地をみつけた。

 修行して、より高い存在になりたいと思った僧侶は、山をのぼり、塔をのぼり、その塔に渡しかけられた細い一本のロープを渡り、悟りの奥義が書かれた書物を手にいれた。

 そして彼(彼女)は、「僧侶としての」より高い能力を手に入れたのである……。

 この、僧侶と「さとりのしょ」をめぐる話、まだまだ続きます。


■賢者の石ランシールに眠る

 製品版のドラクエ3には、オーストラリア(だと思われる)位置にランシールの町があり、その中にランシール神殿があります。

 製品版のランシール神殿からいける「地球のへそ」という洞くつは、パーティーメンバーから離れて一人で探索しなければならないルールになっており、その奥底にはブルーオーブが眠っています。

 初期構想ではこの地方はこうなっていました。

(初期設定資料ランシール周辺地図・抜粋)

Img054b


 初期制作資料にみえるオーストラリア大陸には、ランシールの町はありませんが、「地球のへそ」に相当するダンジョン(■D10)はあります。

 そこには、入手できるアイテムとして(なんと)「けんじゃの石」と書いてあります。そして説明書きとして「誰がいくかで見つけるものがちがう」とあります。

「誰がいくかで」と書いてあるのですから、この初期段階ですでに「当ダンジョンには一人でしか突入できない」という構想はあったことになります。

 この初期資料に書いてあることを素直に読めば以下のようになります。

 ドラクエ3は、いろんな職業の仲間をひきつれて旅するゲーム。一人でしか入れない洞くつに、どの職業の仲間をつっこむかで、見つかるアイテムがちがうようになっている。

 たとえば戦士で行けばいかつい鎧が手に入るのかもしれないし、魔法使いで行けば賢さの種が手に入るのかもしれない。

 その中で、とある職業を選んで突入した場合、最奥部の宝箱に入っているものは「けんじゃの石」である。

 と、こういうことでしょう。


■賢者になるための「クエスト」

 ここからが私の想像。

 まず第一に、この初期設定において、けんじゃの石を見つけることができる職業は「僧侶」だと思います。

 第二に、この初期設定における、けんじゃの石の使用効果は、「賢者への転職が可能になる」だと思うのです。

 そう思う理由を述べます。

 製品版の「けんじゃのいし」は、使うと無限にベホマラーが打てるチートレベルのアイテムでした。ラストダンジョンに置いてあり、事実上、ラスボス戦のお助けアイテムとなっています。

 こんな強力なアイテムが、上の世界の中盤で手に入ってしまってはまずい。
 だから、初期資料に(ここ、ランシールに)書かれている「けんじゃの石」は、ベホマラー効果のアイテムであったはずがない、と私は考えるのです。

 別の効果を発揮するアイテムとして、想定されていたはずです。

 前述のとおり、ガルナの塔で手に入る「さとりのしょ」は、製品版では「賢者への転職を可能とするアイテム」なのですが、初期設定時には「僧侶の能力をちょっと底上げするイベントアイテム」にすぎませんでした。
 初期構想では、ガルナの塔に登っても賢者にはなれないのです。

 では、初期構想では、「何を手に入れたら」賢者になることができる想定だったのでしょうか。

 ひょっとしたら、何も手に入れなくとも、ダーマ神殿に行くだけで賢者になれる……んだったのかもしれませんが、「僧侶をいくぶん強くする」ために専用ダンジョンとアイテムが用意されているのに、鳴り物入りの上位職・賢者になるためには何も用意されていない、というのは、いまひとつ間尺に合いません。何かあったほうが自然なのです。

 賢者になる……?

 よく考えてみると、けんじゃのいしを使うとなぜ全体回復の効果があるのでしょう。私はいままで「とにかくそういうものらしい」で納得していました。もう「とにかくそう」くらいしかいいようがないでしょう。

 でも「けんじゃのいしをつかうとけんじゃになれる」だったらどうでしょう。これはダイレクトに納得させる力があります。だって「けんじゃ」って書いてあるんだもんよ。


■地球のへそに僧侶で潜れ

 地球のへそに僧侶で潜った場合にのみ、「賢者になることができるアイテム・けんじゃの石」が入手できる想定だったのだろうと私は考えます。それはなぜか。

 初期構想時の地球のへその、ダンジョンとしての規模が、製品版と同じくらい広くて深いものだったと想定しましょう。

 そんなダンジョンを単騎で踏破できるのは、回復呪文を使用できる職業だけだろうと推定できます。ぶっちゃけ、勇者か僧侶でないとまともな踏破は不可能でしょう。

 戦士や魔法使いでクリアするというのは、ラスボス撃破後くらいのレベルになってから、ちからの盾か何かを持ち込んでの話になりそうだ。

 勇者が単騎で挑み、けんじゃの石を持ち帰るんじゃダメなのか?
 ダメだと思います。
 なぜなら勇者は転職できないからです。転職できない以上、賢者にもなれません。

 このダンジョンは、「一人で苦難に挑み、その当人にふさわしい宝を持ち帰る」という意味を持ったクエストだと想定できます。

「勇者がけんじゃの石を持ち帰り、誰か適当なパーティーメンバーを賢者にする」のでは、勇者が味わった苦難の成果に、別の誰かがフリーライドするというかたちになってしまいます。

 はっきりいってしまえば、「僧侶が試練を受け、そのごほうびとして、僧侶が賢者に転職する」。このクエストはそういう想定で組まれていると考えます。

 ドラクエ3は、初見プレイを僧侶ぬきで進めるのは極めて困難なゲームです。ほとんど、たいてい、大多数のプレイヤーは、最低1人の僧侶をパーティーに加えているはずだ、と制作側は想定可能なのです。

 初見プレイで合理的にプレイしていれば、プレイヤーは、僧侶か、魔法使いか、そのどちらかを賢者にするはずだと想定できます(あえて戦士を賢者に、みたいなのは、仕様がわかった二巡目からの話でしょう)。
 魔法使いがいないパーティーは初見プレイヤーでも普通にありえます。でも、僧侶がいない初見プレイは考慮しなくてもよいほど少ないので、僧侶を焦点としたクエストはだんぜん実装しやすい。

 さらにいうと、ガルナの塔の「さとりのしょクエスト」との二段構えになる。


■光だけでなく闇をも知ること

 ドラクエ3における「賢者」は、僧侶の治癒呪文と、魔法使いの攻撃呪文の両方を、フルサイズで使用できる職業です。下位二職の、ほぼ上位互換です。

 神の力も持ち、魔の力も持つ。治癒破壊をひとつの身で同時にきわめる。
 それは「光と闇」「天上と、地の底」という言い換えが可能だと思うのです。

 賢者になろうという者は、その両方の世界を知っていなければならない……という思想がありそうな気がする。
 賢者は、天界の光を呼び寄せて人を癒やすことを知っていなければならないし、地の底によどむ暗い破壊衝動も知っていなければならない。

 いま……(つまり初期構想のストーリーでは)その人物は、山脈の秘境にある聖職者の聖地で、天界そのものに届きそうな高い塔に登り、光を極めるという試練を経た(さとりのしょの獲得)。天の光を知るというクエストをクリアした。

 でもそれだけでは、すばらしい僧侶にはなれても、賢者にはなれないのだ(という思想がありそうだ)。
 賢者であるためには、天の光だけでなく、地の底によどむ闇の力も知らなければならない。なぜなら、世界は、そして人間は、その両極でできているのだからだ。

 だから彼(彼女)は、たった一人で深くて暗い地の底、地球のへそという迷宮に潜り、闇を見据えてこなければならない。光の極まるところを見て、闇の極まるところを見てきた。その両方を知る人物こそが「かしこき者」=賢者にふさわしい。

 ……というような「ストーリー」が構想されていたとしたら、これは気持ちよく整合するよね、と私には感じられるので、そういう仮説を提案するわけなんです。


■ドルマ系とイオ系

 ドラクエ7までの賢者は、上述のドラクエ3と同様、「僧侶の呪文と魔法使いの呪文を両方使いこなす」というコンセプトです。ここでいう魔法使いの呪文とは、イオ系(光属性)やヒャド系(氷属性)などです。

 ドラクエ10やドラクエ9では(と、この順番なのは、企画が立ち上がったのがこの順序だから)ここに変更が加わっています。
「回復呪文と攻撃呪文を使う」というコンセプトは同様なのですが、魔法使いが使うメラ(炎)・ギラ(炎)・ヒャド(氷)系呪文が使えなくなりました。

 そのかわり、攻撃呪文として「ドルマ系(闇属性)」が新設され、「賢者はドルマ(闇)系とイオ(光)系を得意とする」という新設定になりました。

 これはもう文字通りの「光と闇を同時に知る者」という表現です。ドラクエ10の賢者転職クエストでは、「心の中に闇をかかえていない者は決して賢者になれない」というそのものズバリのストーリーが描かれます。

「賢者というのは、治癒と破壊、光と闇を同時に知る者だ」
 という思想が、ドラクエ3のころから、伏流水のようにドラクエシリーズにずっと隠れていたんじゃないかと思うのです。
(そういえば3の魔法使い最強呪文はメラ「ゾーマ」。「闇そのものである存在」の名前が入っている)

 そしてドラクエ10と9のディレクターを務めた藤澤仁さんが、そういう思想を、師匠の堀井さんから聞いていたとしても全然おかしくない。
 時おりしも、ドラクエモンスターズ・ジョーカーで、モンスター専用呪文としてドルマ系というのが導入された。
「堀井さん、この闇系の呪文というのを、賢者に導入してはどうでしょうか」
 ひょっとしたらそんな提案をしたかもしれません。
(言い出したのは堀井さんであってもかまいません)


■フラクタル構造(どうしてボツになったか)

 以上のような仮説をよしとする場合、ドラクエ3の中で、まったく同じ構造がもう一度リフレインされます。

「天界にいちばん近い山の上にある竜の女王の城に行き、光の玉を手に入れ、もっとも闇が深いところにひそむ魔王のところに持って行く」

 というのが、ドラクエ3の最終的なクエストです。これは上述の「光に触れ、闇にも触れる」という「賢者転職クエスト仮説」とまったく同型です。

 ドラクエ3の序中盤でこの構造があらわれ、ドラクエ3全体においても、この構造でしめくくられるのですから、いわゆるフラクタル構造(部分と全体が同じかたちをしているもの)になり、美しいのです。

 そしてそれ自体が「この構想がボツになった理由」だと考えます。

 容量が足りなくて、イベントを大幅に削ろうよ、となったとき、「光と闇の両方を極めよう」という意味のイベントがふたつあるから、ひとつ削ろう、という話になるのは自然です。

 また、僧侶にスポットが当たりすぎる、というバランス感覚もありそうです。「この物語が誰のお話なのかが、ぶれるよね」という判断がなされていそう。


■僧侶しか賢者になれないのか?

 ……と、以上のようなことが、ドラクエ3の「フィールドマップ・ラフコンテ」から私がむやみに想像をめぐらした仮説です。

 こういう疑問が生じそうです。「では、初期構想のドラクエ3では、僧侶しか賢者になれない想定だったのか?」。

 それについては、
「僧侶でないと転職アイテム《けんじゃの石》は入手できないが、入手したあとは、誰でも賢者になれる仕様だっただろう」
 というのが、私の考えです。

(資料の初期アイテムリストに、けんじゃの石が載っていたら、そういうことも一発でわかったでしょうが、あいにくミュージアムにはそのページは掲示されてなかった)

 ストーリーラインを追っていけば、あきらかに、僧侶が賢者に転職するのがふさわしいと感じるように作られている
 が、ゲームの仕様としては、僧侶以外でも賢者になれる。

 ……というつくりになっているのがドラクエっぽいよね、と感じるのです。

 たとえばドラクエ2の「みずのはごろも」。機織りの達人ドン・モハメはみずのはごろもを「ムーンブルクの王女が着るのがよかろう」といって手渡してくれるのですが(アイテムのイメージとしても、それがふさわしいと感じられるのですが)、サマルトリアの王子も、まったく問題なく着用可能です。

 また、ドラクエ5の嫁選び。ストーリーラインを追っていけば、誰がどう見ても、「ビアンカを嫁にするのが物語としてふさわしい」といえるものになっています。
 でも、フローラを嫁に選ぶことができますし、それで何の問題もなくストーリーは展開していきます。

「ストーリーとしては、明らかにこっちを選ぶのが正しいように語られているが、そうでないほうをあえて選んでも全然問題ない」
 という作り方をドラクエは好むのです。

 なので、この記事の仮説が正しい場合、「勇者以外の誰でも賢者に転職可能」という仕様が選択されただろうと考えます。

 でもそうだとすると、
「勇者ではけんじゃの石を持ち帰れない、なぜなら試練のフリーライドが発生するから」
 という議論を経ているのに、僧侶が持ち帰った賢者の石を他のパーティーメンバーがフリーライドするのはOKだというのか? 矛盾してるじゃないか。
 という話になりますよね。

 それについてはこう思うのです。「そのくらいの矛盾はべつにあってもいいんじゃないかなあ」
 ほかの大部分が、わりときれいに説明できているので、多少合わないところがあっても、まあいいかっていう感じです。こういう「多少の合わない部分」が許せないせいで、せっかくの魅力的な仮説を、自分で捨てちゃうっていう人が多いような気がするんですね。

「たいしたことない部分をいちいち合わせないほうが、全体の魅力は増えることが多い」という経験則を私は持っていますので、みなさんもそのくらいに大ざっぱにとらえてみてはどうでしょう。

 そんな感じでご機嫌をうかがっておきますね。本日(この記事の更新日)、ドラクエ3の発売33周年記念日だそうです。33年たってもまだいくらでも語れるのだから凄い。


■続き→「堀井さん手書き文書」から推測する初期版ドラクエ3(4)


 

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